第67話 都の秘密~私、気になります!
「そうだ。ボクたちはこの薬で遊ぶために来たわけではないんですよ」
我らはメイカエレイ探偵団!
「今日は都の仕事について聞くためにここに来たんですよ!」
すっかり忘れて帰るところだったよ。
「ああ、そうだったな。都の仕事の何が聞きたいんだ?」
麻里さんがデスクに肩肘をついている。まったく興味なさそう……。
ねえ、都ってあなたの部下ですよね? 助手ですよね?
「最近都が疲れているらしいんですよー。何か知りませんか?」
とりあえず本題。
さてなんて答えるのやら。
「つかれているのか。それは大変だな。馴染みの神社を紹介しておくよ」
「それは『憑かれている』ですよ……」
日本語って難しいね。
馴染みの神社って何だよ……。しょっちゅう祓ってもらってるなら、それはそれでやばくないですかね?
「最近都が疲労困憊で倒れそうなんですよー。何か知りませんか?」
はい、具体的。これでヨシ。
「なんだ、そんなことか。最初からそう言え。この粉を鼻から吸えば立ちどころに――」
「ちょっと! このご時世それは冗談でもやめてください!」
誤認逮捕されたくないです。
ボク今幼女だし。
「しかたない。桃百郎印の黄身団子ハイパーDXでも与えておけ」
なんですかね。うーん。パクリ臭すごいネーミング。
「えーと、念のため聞きますけど、そのきびだんごの効果はどんなもんです?」
「1口かじれば100時間私の命令に従って働き続けられるぞ」
その奴隷ゾンビ育成団子は一生デスクにしまっておいてください。
「倒れそうなのを何とかしてほしいわけじゃなくて、『理由を知りませんか』と聞いているんです」
おかしい。
なんとなくだけど、不自然にずっと話題をそらし続けている気がする。
これはなんか隠してるな。
「さあ知らんな~。また相棒シリーズでも見て夜更かししてるんじゃないのか?」
「え、都って相棒好き? おやじ趣味なの? 意外だー」
「妙ですね~」
うーん、そのポーズ、メイメイがやってもモノマネじゃなくて、そのままメイメイなんだよなあ。
っと、今は相棒の話はいいんだよ!
都の話!
「ただの夜更かしならいいんだけど、どうやら仕事のし過ぎみたいだって、ハルルが言ってるんだけどなー?」
そろそろ教えてくれませんかねー。
「かえでくん、こちらに参考資料があります」
レイが何かを印刷した紙束を渡してくる。
どれどれ?
これは!
「どうやらこの研究室の入室記録のようだね? 『市川都』と書かれている記録がいっぱいだ」
週7日、1日も休まず入室記録があった。
オンライン個別トーク会や生配信の日を除いて、だいたい規則正しく研究室に通っているのがわかる。
朝6時前後に入室して、8時前後に退室している。
昼は不定期。でも必ず2時間前後の滞在時間だ。
夜は21時前後に入室して、23時前後に退室している。
「これはさすがに働きすぎでは?」
17歳にこんなに働かせたら労基も動きますよ?
「いやそれは働いているわけではなくてだな……」
めずらしく歯切れが悪い。
「もしかして、一緒に相棒のビデオでも見ているんですか?」
まさかね。
「いや、そうではなくてだな……」
麻里さんが冷や汗をかいている。
ますます怪しい。
「師匠。そろそろ観念してお縄についたらどうでしょうか」
レイ、別に私人逮捕しに来たわけではないよ?
うちらメイカエレイ探偵団は探偵だからね?
「私は何もやってない!」
「早く白状してください~。私、気になります!」
メイメイ、それ相棒じゃなくて別の人。
「私は本当に何もやっていないんだがな……。仕方ない。こっちにこい」
麻里さんはイスから飛び降り、イスの後ろにある扉を指し示す。
たしかそっちの部屋は。
「かえでくん、そこは準備室です。師匠、それでいいんですか? えっと……今そちらには……はい、わたしたちはそろそろ帰りましょうか」
急にレイがボクを抱え上げると、準備室とは反対の出口に向かって歩き出す。
「ちょっとレイ⁉ 急にどうしたのさ?」
手足をバタバタさせるも、腰のあたりをポンポンと叩かれて抱えなおされてしまう。
「そっとしておいてあげるのもやさしさだと思います」
「そっとしておく?」
レイが何を言っているのか全く見当もつかない。
「あれ~? ミャコちゃんだ~。やっほ~!」
メイメイが準備室の扉を開けてうれしそうな声を上げていた。
「早月さん⁉ なんでここに⁉ 私……キャッ! 見ないで!」
ん? 都の声。
今そこにいるの?
「レイーあっちいこう?」
「……もう手遅れですね。仕方ありません。わたしたちもいきましょう」
レイは出口に向かうのを諦めたのか、転進して準備室に向かって歩き出す。
「ミャコちゃん、こんなところで何してるんですか~? 裸で~」
なぬ? 裸?
ボクは身をよじってレイの拘束を解くと、準備室に向かって走った。
「都?」
都は裸……ではなかった。
ぴっちりしたピンクのサウナスーツを着て、縦長の四角いプールの中。首から下は何か薄黄緑色の液体にどっぷりと浸かっていた。
「都、なにしてるの?」
何しているのかさっぱりわからない。
プール? お風呂?
「あなた……楓、なの?」
都が眉をひそめて尋ねてくる。
あ、そっか。おかしなかっこうしてるのはお互い様か。
「あ、うん。七瀬楓10歳です。黒の組織に謎の薬を飲まされて子供の姿になっちゃいました。見た目は子供、頭脳は大人!」
まあ、あと30分くらいで元の姿に戻れると思うけどね。
「黒の組織⁉ 謎の薬⁉」
都は混乱していた。
まあ無理もない。ボクはもう、麻里さんと関わるということは、なんとなくこういうものだと受け入れる気持ちができてきたよ。
「それより都はそこで何をしてるの? ホルマリン漬け?」
「違うわよ……」
言いづらそうに視線を外してくる。
「言いたくないなら無理には……。じゃあ見なかったことにするね。バイバイ。というわけで写真をみんなに送るね。都が何してたか推理ゲームしようっと」
じゃあねー。と準備室のドアを閉めようとする。
「待って待って!」
「ん、何?」
もう一度扉を開いて中を見る。
「ダイエットよ! ダイエットしてました!」
都の顔が真っ赤だった。
ダイエットね、まあなんとなくわかってたけど。
「ダイエット? その液体に入ると痩せれるの? でも都、別に太ってないじゃん?」
「太ったのよ……」
「ただの成長期では?」
「違うのよ……」
なんか深刻そうだなあ。
仕事が忙しくてやつれてるんじゃないならいいかなー。倒れそうになるほどダイエットするのは良くないと思うけどね。
「聞いて」
「メイメイ、都の話、聞いておいてあげてくれる?」
ボクはあっちでお菓子でも食べようっと。
「楓。待ちなさい。私の話を聞いてくれる?」
「……はい」
正直めんどうだなあ。