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第65話 薬の効果は?

 ボクはその場に立っていられなくなり、思わず膝をついてしまう。


 体が熱い! いったいこれ、どうなってるの⁉


「カエくん⁉ 大丈夫ですか⁉」


 メイメイがボクの異変に気づき、駆け寄ってくる。


「さつきさん、大丈夫です。薬の効果で一時的な発熱状態にあるだけですから」


 レイはいたって冷静だった。

 この薬の効果を知っているのか……。


「レイ、マジできついんだけど……。体が燃えてなくなりそうなくらい……」


 体の深部から熱が起こり、その熱が痛みを伴って外側に向かって広がっていく感覚。


 その痛みが指先まで到達したあたりで、ボクは意識を保っていられなくなった。



* * *


「えでくん、かえでくん、かえでくん」


 頭の上からレイの声が聞こえ、ボクは目を開いた。

 

 目の前が暗い。

 

「うーん?」


「ああよかった。気がつきましたね」


 あれ? レイの声が聞こえる? ああ、なんだおっぱいか。

 レイに膝枕をされると合法的にこの素敵なアイマスクがついてくるのだった。

 もう少し寝よう。


「体の具合はどうですか? 熱は引きましたか?」


 そう言われてみれば、もう体のどこも熱くはなく、痛みも引いていた。


「うん、大丈夫そう。ありがと」


 特製のアイマスクをつけたまま、手をグーパーと閉じたり開いたりしてみる。

 指先の感覚は問題なさそう。


「起き上がれますか?」


「うん……まあなんとか」


 名残り惜しいけれど……。

 

 起き上がろうとしたけれどうまく立ち上がれない。

 ……いや、起き上がりたくないからじゃないよ? 探偵団のマントが足に引っ掛かってしまったみたいで。


「マントが邪魔だな……」


 あれ? 違うな。探偵団のマントだけじゃなくて、その下に着ていた服まで足に絡まっているぞ?


 アイマスクの隙間から見ると、ボクが着ていたワンピースは、なぜか首から下に抜け落ちてしまっていて、マントと一緒に足元に絡まっていた。

 ありゃ? さっきの発熱で生地が伸びちゃったのかな?


「気づかなくてごめんなさい。新しい服が必要ですね」


 レイがボクの脇に手を差し入れて膝の上から持ち上げる。と、同時に着ていた服や下着やマントがストンと地面に落ちた。

 レイはボクを地面に下ろして自分の隣に立たせると、足元に落ちた探偵団のマントを拾って肩にかけてくれた。素っ裸の状況は何とか脱出。

 って、あれ? 探偵団のマントってボクの体をすっぽり覆うほど大きかったっけ?


 そして無残にも地面に転がっている黄色いワンピース、と下着たち。

 この服けっこうお気に入りだったのにダメになっちゃったのかな。シンプルなデザインのに、襟元のフリルがかわいいやつ……着れなくなるのやだなあ。


「ふむ。見たところ成功だな。上々」


 気づけば、麻里さんに見下ろされていた。

 ボクの体を上から下まで嘗め回すように見てきた後、にこりと笑った。


「服ならこっちに用意してあるから、ついてこい。マントだけだと寒いだろう。とりあえず下にバスタオルも巻いておけ」


 麻里さんが投げて寄こしたバスタオルをレイが受け取る。マントの下に手を入れて、バスタオルをていねいに体に巻いてくれた。

 裸マントマンから、裸バスタオルマントマンにクラスチェンジした。


「ありがと」


 ボクはお礼を言い、ソファーに座ろうと歩き出す。でもなぜか重心がうまく取れず、前につんのめってしまう。


「おっと。大丈夫ですか?」


 バランスを崩して頭から地面に突っ込む寸前のところで、レイが抱きとめてくれた。


「ああ、ありがとう」


 妙な違和感。

 レイにずいぶん上から見下ろされている感覚に陥る。


「きゃ~! カエくんかわいいです~。私にも抱っこさせてください~」


 メイメイが黄色い叫び声をあげながら迫ってくる。


「しかたないですね。少しだけですよ?」


 渋々といった雰囲気で、レイがボクのことを持ち上げると、膝立ちになったメイメイの胸元に引き渡す。

 

「ちっちゃくってかわいいです~」


 メイメイはだらしなく顔が崩れるほどにニヤニヤしながら頬ずりしてくる。


「ちょっと、メイメイ? 急に何よ?」


 あ、これってもしかしてお薬ちゃんと飲めたね、のご褒美?

 普通そんなことでもこんなに褒めてもらえるの? これって、アガペーだとわからない感覚なのかな……。


「あ、どういたしまして?」


「こちらこそごちそうさまです~」


 この会話はなんだ……?


「さつきさん、こちらへ。いつまでもそのかっこうだと、かえでくんが風邪をひいてしまいます」


「カエく~ん! 早月お姉ちゃんが着替えさせてあげまちゅからね~」


 ボクを胸に抱いたまま、メイメイがゆっくりと立ち上がる。


 うぉ、高っ! 地面が遠い! 何これ、巨人⁉


 恐怖のあまり、メイメイの首に手を回して必死にしがみつく。


「怖くないでちゅよ~。早月お姉ちゃんがついてまちゅからね~」


 耳元でメイメイの声が聞こえる。

 ちょっと恥ずかしいけれど、まだ本調子じゃないみたいだからこのまま抱っこしてもらおう。


「楓。どの服が良い? と言っても、今のサイズだと……ちょうど良さそうな服は、この3つしかないな」


 麻里さんがクローゼットを開けて、服を3着出してくれた。


 ボーダーのTシャツとデニムのオーバーオール。

 フリルとリボンのいっぱいついた白いワンピース。

 水玉模様のトレーナーと黒のショートパンツ。


 チョイスが子供服っぽい?


「師匠。もちろんこれです」


 ボクが答えるよりも早く、レイがボーダーのTシャツとデニムのオーバーオールを手に取った。


「まあ、無難にそれか」


 麻里さんがうなずき、他の2着をクローゼットに戻す。


「これしかありえません。マストアイテムです」


 う、うーん? そうなんだ? レイが言うんならそうなんだろうね?


「下着は……色気はないが、これで良いか」


 シンプルな白い綿のショーツ、裏地のついたキャミソール?

 なんか小さくない? それって子供用では?


「バスタオル取りますよ」


 レイが声をかけると、メイメイがボクを床に下ろす。

 ボクの前でレイが膝立ちになり、体からマントとバスタオルを取り払った。

 全裸マンにクラスダウン。へっくしゅん。


「カエくんかわいい♡」


 メイメイ、毎回その反応やめてー。メイメイに見られるとめっちゃ恥ずかしいんだけど。


 クネクネしているボクをよそに、レイがいつものように手際よく着替えさせてくれる。ありがとうね。気づけばいつもレイのやさしさに甘えてしまっている気がするよ。


 着替え終わってみれば、最初小さいと思った下着も、服も、ボクの体にぴったりだった。


「お~似合うじゃないか」


「カエくんかわいい♡」


「ぅ、想定内です……」


 三者三様。お褒めの言葉をいただきありがとうございます?

 レイ、急に上を向いたけど、どうしたの?


 メイメイがそれに気づき、ポケットティッシュを渡す。

 鼻血?


「お気になさらずに……。さつきさん、どうか、どうかわたしの代わりに写真をお願いします」


 上を向いて鼻にティッシュを当てたまま、レイが懇願する。


「おっけ~♡ カエく~ん。写真撮るからポーズお願いね♡」


 あ、うん。

 ポーズね。

 なんかもう慣れたもんだね。それに今回は下着モデルじゃないし。


「薬の効果の持続時間は2時間前後だ。服が破れると困るから、効果が切れるまでこの部屋からは出ないでくれよ」


「2時間ですか。お外デートはお預けですね……。かえでくん、今度は着替えをもってでかけましょうね」


 両鼻にティッシュを詰めた状態のレイが、ボクの脇に手を入れて、体を持ち上げてくる。

 高っ! こわっ!


「どうだ、楓。高い高いされる心境は? それがいつも私がやられている感覚だよ。意外と怖いだろ?」


 麻里さんがなぜか誇らしげに語ってくる。


「こ、怖い……レイ、おろしてよ……」


 震えながら頼むと、レイはあっさりと床に下ろしてくれた。

 

 あれ?

 目線が合わない。


 レイの腰の高さに目線が……。

 まさか⁉


 ボクは慌てて鏡の前に駆け寄る。

 レイとメイメイが一瞬遅れてやってきて、ボクの両隣に並んで立った。

 

 なんてこった!

 ボクの身長は2人の腰の高さくらいしかなかった。


 ボクの身長、縮んでいるっ⁉

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