第58話 ソロユニット曲のMV公開が始まる
11月6日。
今日の18時から、ソロユニット曲のMV公開が始まる。
1日1ユニットの公開。11月10日のシングル発売日まで続いていく。
トップバッターは、サクにゃんとシオのユニットだ。
『Dreamy Games(小宮桜&三井栞)』
MVの撮影風景を見ていないのではっきりとはわからないけれど、どうやらメイメイの事前の予想通りで、R&B調の楽曲らしいということは聞いている。
サクにゃんがいるからダンスユニットなのかと思いきや、意外や意外な歌い上げ系。サクにゃんとシオによるデュオがどんな仕上がりになっているのか想像もつかない。
シオはハスキーな声も出せるから、カラオケでもR&Bとか歌いそう。一緒にカラオケ行ったことないけど。逆にサクにゃんは、声が高いし細いから、R&Bとは真逆なイメージがある。
メインがシオで、サクにゃんがラップ? さすがにそんな逆転はないかな? マネージャーメインってことはないよね?……さすがにそれはね?
* * *
そろそろ18時。
レッスン終わりでサクにゃんとシオの組、ウーミーとウタの組、メイメイとボクの組、の3組がなんとなく居残りをしていた。
なぜだろう。なんとなく普段とは違ってバディごとに固まって、MVの公開を待っている状態だ。
「MV楽しみだね~」
メイメイが小声で話しかけてくる。
なぜ小声?
まあ、無理もないか。あの様子を見ちゃうとね……。
これからまさに自分たちのMVが公開されるサクにゃんとシオの組から、恐ろしいほどの緊張感が漂ってきている。おもにサクにゃんから。むしろ全部サクにゃんから……。
シオが3秒に1回くらい笑いながらサクにゃんの背中をさすっていた。
大丈夫なの?
過呼吸で倒れるの?
ウーミーはその様子をチラチラと見つつも、声をかけられずにいる。「背中をさするのはわたくしの役目ですわ~。いやいや、でもここはマネージャーの栞さんに任せるほうがよろしいですわね……」といったところだろうか。
見ていて飽きない。
最近のサクにゃんとウーミーは、ファンの人たちからいい感じに百合ペアとして認識されつつある。けれど、最初のぎこちない百合営業の状態から、最近はなんだかプライベートでもそんな雰囲気が出つつあるのは気のせいだろうか。
ベタベタくっつくわけではないけれど、お互いがお互いの行動を目で追っていて、見ているこっちが甘酸っぱい気持ちにさせられる。うおー、海桜推せるっ!
「あー、ところでメイメイ。その足元の袋は何?」
メイメイのイスの下には、だいぶ大きな紙袋が置かれていた。
レッスンには必要ないよね?
「えへへ、秘密です~」
メイメイは口に手を当てたまま照れるようにそう言った。
かわいいな、このー。
このかわいさを世界中の人に知ってもらいたい。いやいや、まずは現実的に足元からか。
あれからメイメイは、マキししょーの教え通り、11月3日からメイメイのSNSアカウントを使ってゲリラ生配信を始めた。今日配信すれば4日目となる。
初回から3回目までは、ちょうどオンライン個別トーク会の日程とかぶっていたので、その感想配信をしていた。おそらく今日はMVについての話かな。
今のところゲリラ生配信の視聴者はそう多くない。
初日が同接30人、2日目が50人、3日目が80人と、まだ100人も集まっていない。
一応、「このあと30分後に配信します~」と予告はしてから始めているけれど、いわゆるコアなファン以外は来てくれていない状態だ。少し淋しいね。
メイメイ自身は視聴人数をあまり気にしていない様子で、「ししょーが焦るなって言っているので、地道に100日間やりきりますよ~」とひたすら前向きだ。
参加してくれているファンの人数的に、トーク会が終わった後、ファミレスで感想を言い合っているくらいの規模感でしかないのだけれど、逆にそれが功を奏しているようだ。参加人数が少ないからか、メイメイも緊張せずに話ができていて、ファンの人たちと打ち解けた雰囲気になっているように感じる。
これからトップに上り詰めていくんだから、ファンの数は増えていくはず。今いてくれているファンの人たちがその核となるメンバーなのだ。土台はしっかりと、どこまでもメイメイを支えてくれる存在でいてほしい。
「そろそろ18時です~。公式サイトリロード連打!」
メイメイが高速で端末をタップしだす。
こらこらサーバーに負荷をかけるのはやめなさい。アクセス集中して落ちちゃったら困るでしょ?
「ききききました~! 公開されました!」
サクにゃんが立ち上がり、ありえないくらいの大声で叫ぶ。
めちゃくちゃいい声でるじゃん。ソロユニット曲用の発声練習の成果?
まあ、この部屋、ボクたち6人しかいないからね? もう少し小さい声でも大丈夫よ。
どれどれ、2人の曲を見せてもらいましょうかね。