第57話 MV撮影
これからソロユニット曲のMV撮影だ。
でもちょっと気分が乗ってないかも……。
レイから渡された新しい下着を身に着けてみたけど……ちょっと大きい気がするし、パットもいっぱい入ってるからすんごい違和感がある……。
マキに持っていかれたやつはお気に入りだったのに……。
「カエくん! MV撮影がんばりましょうね!」
ボクとは逆で、あの後からなぜかメイメイが元気だ。
ボクとメイメイの気持ちはすれ違っていたなあ。メイメイの感謝は素直に受け入れるようにしよう、そう心に誓ったけれど、今のところ何かアクションが起こせているわけじゃない。それなのに、メイメイはさっきまで泣いていたのがウソのようにニコニコしてハイテンションなのだ。ちょっと不思議。
違和感と言えば、メイメイがソロユニット曲の衣装の着替えの時、やたらと絡んできたことか……。妙に肌をベタベタ触ってくるし、1人で着替えられるって言ってるのに、ニーソックスを履かせてきたり、リボンを結んできたり。
あ、それはそのつど、ちゃんと「ありがとう」は言えた! なんだ、アクションできていたね!
「メイメイさっきはごめんね? メイメイが感謝してくれるのはとってもうれしいから、ありがとうね」
改めて謝罪とお礼を伝える。
言葉にしないと伝わらない。大切なことを学んだ。
「カエくんかわいい~。メイメイお姉ちゃんがお世話してあげるから大丈夫ですよ~」
ボクの頭を軽く撫でると、ものすごい速さでどこかへ走り去っていった。
え? 何? 今度は姉ムーブ? ていうか、撮影始まるのにどこ行った⁉
「ちょっとメイメイ! もうリハ始まるからね⁉」
大声で呼びかける。
と、メイメイがまたものすごい速さで戻ってきた。
「ノド乾いてるかと思って!」
ペットボトルの水を2本、それぞれの手に持っていた。
だけど、めっちゃ息を切らしている。
「メイメイが飲みなよ……。ていうか、衣装着た状態で走り回らないで。破けたり汚れたりしたら困るから」
次のミニライブではお披露目の予定はないけど、もしかしたらどこかのライブで使うかもしれないから衣装は大切にね? ちょっと……相当……最上級にかわいい衣装なので、ボクとしてはあまり人前では着たくないけど……。
「は~い。じゃあ、これどうぞ~」
メイメイが水の入ったペットボトルを1本差しだしてくる。
「ありがとう! メイメイは気が利くね! 大好き! ボクの天使!」
めいっぱいお礼を言う。
おおげさじゃない。ホントに好き!
「うへへへへへ。カエくんからお礼を言われちゃいました~」
メイメイの顔が崩れてにへらと笑う。
「メイメイ……その笑い方はかわいくないからやめよう? いくらししょーとは言っても、マキのそういう悪いところは真似しないように」
メイメイもマキも美人なんだけど、その笑い方はどうかと思うの!
人前では絶対見せないでね!
「ふえ~ん。怒られちゃいました~。ししょーがこの顔をすればチューしてもらえるって言ってたのに~」
「それカンペキにウソだから……。マキの言うことは話半分で聞かないとどこかで恥をかくことになるから注意して……」
とくにボクに関する情報はだいたいウソだと思うよ。
「あ、ほら、呼ばれてる! メイメイ、行くよ!」
撮影スタッフさんたち呼ばれて、ボクとメイメイはスタジオの中へ入っていく。
照明すっごいな。眩しくて目が開けてられない。
ボクとメイメイはそれぞれ立ち位置を指示される。
耳に無線のイヤフォンを入れ、音のチェック。問題なし。
「がんばろうね!」
メイメイがガッツポーズでこっちを見てくる。
ところどころに黄色いリボンがあしらわれた真っ白なドレス。そして黄色いベレー帽。曲の内容に合わせてシュークリームをイメージした衣装だ。
メイメイが着たらなんでもかわいいけど、これはとくにかわいい。ベッタベタに甘いアイドルソングにぴったりの衣装だ。
『シュークリームが膨らまないの』
激甘な片思いの歌。
大好きな男の子のことを想ってシュークリームを焼く女の子の気持ち。
ボクに務まるかわからないけれど、メイメイの足を引っ張らないようにがんばる!
今日、愛にはいろいろな種類があると知った。
恋だけが本当の愛じゃない。
ボクだけの愛を表現するんだ。
まん丸のシュークリーム
まるで私の気持ちみたい
この想い届いたらいいな