第56話 プロデューサーさんや!
ひどい目にあったよ……。
写真、何カット撮った?
100? 200? ボクは下着モデルじゃないんだぞ!
最後のほう、なんかもう1周回って、ちょっと楽しくなってきちゃったじゃん!
でもさ、撮った写真。めちゃくちゃ加工してたけど、それボクの原型ある?
あるか知らないけど、著作権フリーの下着モデルの写真を使ったほうが早いんじゃない?
「よっしゃ、これで完成や!」
「わ~い。完成です~。カエくんありがとう~」
「しおりさん、さすがです」
3人が出来上がったチェキ風の加工写真を眺めてうれしそうな声を上げている。
「はい、どういたしまして……。いや、シオさんさ……せめて先に助けてよ」
当たり前のように写真加工に呼ばれているけれど、この惨劇を見たら普通は助けない?
ねえ、見てよ。今もだけど、ボク、下着姿のままで照明の前に縛り上げられて放置されてるんだけど?
この状況だったらこっち寄りになるでしょ! なんで悪の軍団のほうに肩入れするかな……。
「おう、カエちんよくがんばったな。今楽にしちゃる」
シオが菩薩のような微笑みを浮かべながら近づいてくる。
「照明熱いし、さすがに疲れてきて……」
ああ、ようやく解放される。
体がだるい……。
「しおりさん待ってください。それはわたしの役目です」
レイが割って入る。
「それはすまん。せやな。これはレイちゃんの役目か」
「はい。ありがとうございます。お2人とも、ここからは一応撮影NGということでお願いします」
レイが、ボクに背を向け、シオとメイメイに向かって頭を下げる。
もう誰でも良いから、その熱い電気を消してよ。
「では参ります」
そう言ってレイが手をかけたのは、照明のスイッチではなく、ボクの背中にあるブラのホックだった。
「ちょちょちょ、何してんの⁉」
ホックが外れて一気に締め付けが楽になる。
あふー、この解放感は普段の数倍! 半端じゃない心地良さだよ!
けどさ!
「楽になりましたか?」
「楽になった……って、そうじゃないでしょ!」
言ってくれればトイレかなんかで着替えてくるからね⁉
そっとはずさないでくれる?
「ふむ。カエちんも成長したんやな……」
「もう1サイズ上げても良いと思いますよ~」
「そう思ってすでに用意してあるのですが、かえでくんはきつめのサイズを好むのです」
「しっかりフィットしてるほうが動きやすいから……ってマジマジと見なくて良いから!」
ボクだって羞恥心くらいあるんですよ?
女の子に囲まれて見られてうれしいなんて思ってないんだからねっ⁉
「わかりました。ではこちらも」
レイがそう言いながらボクのほうへと向き直る。
視線は上ではなく下に向いていた。
腰回りから感じる素敵な解放感。
はい……まあ、もう……わかってたけどね……。
裸族ってこんな気持ちなのかしら?
「あら。カエくんって……」
「こっちはお子様やんな」
しくしく。
もうどうにでもして……。
「写真撮ったり……」
「さすがにかえでくんが泣いちゃうのでやめてあげてください」
「せやな……あきらめよか」
シオが悔しそうにつぶやく。
もう心の中ではとっくに泣いてますけどね?
レイ、洗濯物しまうみたいな動作で畳んでジップロックにしまうのやめて……。
「おさわりは?」
「踊り子さんには手を触れないでください」
「ダメか~。金なら! あかん、お札を挟むパンツがあらへん」
シオが自分の太ももをパチンと叩いた。
そういう問題じゃないからね!
そもそもお金を払って同僚の体を触ろうとするんじゃない!
「お肌スベスベです~。無駄なお肉がなくてきれいですね~」
「ちょっ、メイメイ⁉ ふっ……くすぐったいから撫でるのやめっ!」
レイの注意はなんのその、メイメイは目をキラキラさせながらボクの体をベタベタ触りまくっていた。
「ほくろもぜんぜんなくて真っ白な肌ですね~」
おしりをつかんで、プルンプルンしないで!
「あれはええんかいな」
シオがあきれたように小さく抗議する。
「さつきさんは……バディなので……」
「さよか。バディならしかたあらへん」
何が仕方ないんですかねー?
普通にやめさせてくれないかな?
「わたしは同棲中なのでかえでくんを自由にできますが、しおりさんはマネージャー仲間。ただの同僚ですから……残念ですね」
本当にすまなそうな顔をして頭を下げる。
だけどさ、レイのその、ナチュラルにマウント取っていくスタイルは何なの?
「うちだってただの同僚やあらへんで! カエちんが売れるようにいろいろ根回ししたり、自分の原作で映画デビューさせたりして……せや! うちはカエちんのプロデューサーさんや!」
「プロデューサーさん!」
「プロデューサーさんです~!」
薄々知ってたけど、どんな場面でネタ晴らししてるのさ……。チィタマだけ選び方おかしかったもんね。うん、知ってたよ。頼んでないけど。
「ちみたち、これからうちのことはシオPと呼んでくれたまえよ!」
シオP……ボクのことは勝手にプロデュースしないでくださいよ……。
「シオP。こちらへどうぞ」
レイが手招きする。
「うむ。苦しゅうない。ではさっそく!」
ゲス顔のシオPが近づいてくる。おまわりさーん! こっちですよー!
「ふむふむ。なるほどなるほど。おなごの体は良いものですな」
もうあなた誰なのよ……。キャラ混じりすぎてわけわからないことになってますよ。
シオの手って妙に温かくて触られると気持ちいいし、何より触り方が……エグイ……。
「んっ」
「ほう、ここですかな?」
ちょっ、やめよ? ホントやめよ? そこ弱いから、ね⁉
メイメイも真似して触ってくるのやめて⁉
レイ! 助けて!
「お遊びはこれくらいにしておきましょうか。そろそろかえでくんも限界でしょうから、終わりにして着替えさせますね」
レイはそう言うと、ボクの肩にそっとバスタオルをかけてくれた。
うぅ……ひどい目にあったよぅ。
しかしバスタオルをかける時、高速で腕から抜き取られたブラは、しっかりとジップロックの中に納まっていたのだった。レイさんや、仕事を全うするの良いことだけどね……。
なんかもう、メイメイの役に立ったなら良いかって思うようにする……。