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第55話 ししょーにパンツを差し上げます!

「ししょーにパンツを差し上げます!」


 そう叫んだメイメイの顔は、まるで茹でダコのように真っ赤になっていた。


「メイメイさん?……何言ってるの?」


 パンツ?

 アイドルが人にパンツとか上げてたら普通にスキャンダルでしょ……。


『ふむ? もう一声……』


 マキがやたらと険しい表情でさらに要求してくる。

 もう一声、じゃないわ! 何追加で要求してるんだよ! そもそもパンツの時点で一発アウトだわ!


「ぶ、ブラもセットで!」


『……もう一声!』


「身に着けているところの写真もセットでっ!」


 メイメイの叫び声が悲鳴のように裏返っていた。


『よし、いいだろう。交渉成立だ。お互い良い取引にならんことを』


 マキは、メガネをくいっと持ち上げながら、握手を求めるように手を伸ばしてくる。オンライン握手ー。


「こらこら、2人とも何言ってるの? ダメに決まってるでしょ」


 現物を渡すだけじゃなくて、下着を身につけているところの写真まで撮ろうとして……。マジで流出のリスクありすぎてやばいでしょ、そんなの。


「カエくん……これは私とししょーの問題です! ししょーの成功体験、私は聞きたいんです!」


 メイメイがかつてないほどの大声を出した。今度の声は裏返っていなかった。

 本気、なのか……。


「かえでくん……見守りましょう。マネージャーとして、時にはアイドルの成長を見守ることも必要だと思います」


 それまで静観していたレイが口を開く。

 言っていることはもっとも……なんだけど、下着と写真は見守って良い問題なのかな。


『では交渉成立ということで、今からわたしのすべてを話そう。わたしが若い頃にやっていたファンを増やす活動について。ファンと目標を共有して成長するためにやったこと、それは――』


 それは……。


『100日連続ゲリラライブ配信、だっ! だっ! だっ!』


 マキがファイティングポーズからの、シャドウボクシングを見せる。

 

「100日連続!」


「ゲリラライブ配信⁉」


 というと……どういうことだろう。


『時刻も、配信時間も、どこで配信するかもその日の気分や仕事のスケジュール次第。でも、必ず毎日ライブ配信することを宣言したのさ~』


 ほう、なるほど。

 必ずライブ配信をね。


「ししょー。それで毎日何を配信したんですか?」


『そりゃ演技よ。わたしは役者だからね。シチュエーションと役柄をコメント欄で募って、サイコロ振ってランダムで決めて1人芝居よ』


「すごい!」


『最初はぜんぜん人も集まらなかったし、わたしも下手だったと思うよ~。だけど、ずっと続けていると人が増えてくるんだよね、不思議なことにさ。毎日続けるとそれだけでみんな応援しようって思ってくれるんだろうね』


 毎日続ける、か。

 やるほうも見るほうも日課になってくるってことかな。


『やりたい役、得意な役ばかりじゃなくて、男でも女でも老人でも子供でも、ランダムで選んだ役を演じるわけだから、シチュエーションとキャラクターがあってなかったりして、演技としては失敗しまくるけど、何とかしようとして演技すると力はつくよね。最初の頃は失敗を人に見られるのははずかしかったな~。でもそれを乗り越えたら、失敗を笑いに変えることもできるようになって……成長したって自覚できるようにもなったかな』


「失敗しても成長できる……」


『そうだよ~。見られてなんぼの商売だから、積極的に見てもらう。作りこんだ動画なんて配信しててもたいして力はつかないからね。あ、これは役者の話だけど、まあアイドルもそれは似たようなものじゃない?』


「そう、かもしれないです……」


『いろんなことやったらいいよ。お題に対するおしゃべりでもいいし、演技でもいいし、歌を歌ってもいいし、漫談したっていいし、楽器弾いたりなんでもありじゃん?』


「すごい! 私やってみたいです~」


 メイメイが震えていた。武者震いというやつだろうか。

 たしかに効果がありそう。これは絶対やらせてあげたい。


『事務所の許可はカエデがとってあげなよ~。アイドルなんだから、身バレや危ないことはさせないようにね』


「了解。すごく参考になるアドバイスをありがとう」


「成功している方のお話は刺激になりますね。まきさん、わたしが責任をもって報酬のほうを準備いたします」


 レイが小さく頭を下げる。

 レイもマキのことを認めたってことか……。


『おう、ただのルームメイトでもそれくらいはできるんだよね? 頼んだよ、ただの同僚ちゃん?』


「わたしとかえでくんは同棲しているのでそれくらい余裕です。なんならそれくらい毎日の日課です」


 バチバチに火花が散っている。

 なんでボクを取り合うみたいになってるの?


「レイちゃんが協力してくれるなら助かります~」


 メイメイがレイの手を取って感謝をしていた。

 んと? メイメイはレイに下着写真を撮らせようとしてるのかな?

 まあ、ボクが撮るのもあれだし……って下着写真なんてダメダメ! 危ない、普通に流されるところだったわ。


「とっても良いことを教えてもらった後でなんだけど、さすがに下着写真撮ったりはアイドル的にNGだから。それだけは勘弁して?」


『ん、別にアイドルじゃないし、良いでしょ? 何? カエデのアガペーはそんなもんなの? 無償の愛じゃないの? 自分のアイドルのために一肌脱げないって言ってんの? マジ? うそでしょ? やだ。キリストが聞いて呆れるんですけど~⁉』


 めちゃくちゃまくしたてられる……。

 え、いったいなに……。


「かえでくん……さすがにそれはちょっと。かえでくんのわがままで、さつきさんのメンツをつぶすのはどうかと思います」


 レイがボクの左肩に手を乗せて、深いため息をつく。


「わがままとかじゃなくてさ……。普通にアイドルの下着写真を撮って人に渡すのはダメでしょ?」


「かえでくんはさっきから何を言っているんですか?」


「ん? メイメイの下着セットとその写真を撮る話……ん?」


『ハレンチね~。カエデはアイドルにそんなことさせるの? 信じられないわ~』


 マキが自分の肩を抱いて心底恐ろしい、といった感じに震えている。

 え、何か聞き間違っていましたか?


「……ごめん、ボクだけわかってないかも。さっき取引でそういう話をしてなかったっけ?」


「カエくん、私の夢のために、協力お願いします!」


 メイメイがボクの右肩に手を乗せて、にらみつけるようにこっちを見てくる。なんかもう目が血走ってるし……。

 レイとメイメイ2人に肩をつかまれて身動きが取れず……ちょっと怖いんですけど。


「かえでくん、ここではなんですから、部屋に戻って撮影しましょうか」


『じゃあ2人ともしっかり頼んだよ~。わたしは日課に励むとするから。あ、下着はちゃんとジップロックに入れて保存よろしく! 明日の朝、こっちの事務所に届けてちょうだいね♡』


「同棲相手の名にかけて! わたしが責任をもちます」


「ししょー! アドバイスありがとうございました!」


『良いってことよ~。カエデ~。楽しみにしてる♡ バッハハ~イ!』


 マキとのビデオ通話が切れる。


 うん……なんとなく話がつながってきたけど……。これはまずいね。非常にまずい。


 そっと逃げようとしたけど無理だった。

 ボクは2人に羽交い絞めにされ、あっという間にロープでグルグル巻きにされてしまう。


「かえでくん。新しい下着はちゃんと買ってあげますから心配しないでください」


 そんな心配してないわっ!


 いやー! このまま部屋へと連行されたら……ボクお嫁に行けなくなっちゃう。


 誰かー、助けてー!


 猫奥義『縄抜け』ニャン! ニャン……。

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