第15話 メイメイ常識クイズ大会
「え……なに?」
ボクが自室に戻ると、さっき食堂で別れたはずのレイがそこに⁉
何だ人形か。びっくりした……。
正確に言うと、等身大のレイ人形(魔女ver)……なのかな?
よく見ると、レイ人形は手紙らしきものを握っている。
読めってことかな……。
「えーと、なになに?」
『さみしくなったら、わたしだと思って抱きしめて寝てもいいですよ』
学校に行ったくらいで何を大げさなこと言ってんのさ。夕方には戻ってくるんでしょ。
べ、別に帰りを待ってるわけじゃないんだからねっ!
ん、2枚目がある?
『7:30にかわいいレイちゃん人形は爆破されます。体のどこかにあるスイッチを探して、爆弾を解除してください。ヒントは、お・し・り♪』
え、爆弾⁉
え、もう3分しかない!
え、おしり⁉
慌ててレイ人形のスカートをめくる。
ない、ないっ!
解除スイッチどこだ⁉
スカートをめくっては戻し、めくっては戻し……ない!
ゴクリ……。
一応……ぱぱぱパンツの中も……これはこのビルを守るためだからっ!
ううーん、ないよぉ……。
やばい、ほかにヒントは⁉
震える手で便せんを確認する。
……裏に何書いてあるぞ?
『う・そ♪ かえでくんのエッチ♡♡♡』
くっそ~! やかましいわっ!
手紙の最後にハートマークつけんなっ!
便せんをベッドの上に投げ捨てる。
どっと疲れたわ……。
なんかちょっと休もう。
………。
レイ人形が見下ろしてくる。
腹立つわー! こっち見んな!
………。
あれ? なんかちょっと向き変わってない⁉
気のせい、だよね……。
………。
気のせい……気のせいか……。
* * *
「……ですよ。電話ですよぅ。電話ですよぅ。かえでくん電話鳴ってますよぅ」
え? あ、電話か。寝ちゃってた。
まだ眠い……。
「……ああ、ありがとう、レイ」
発信元は花さんだ。
通話開始。
『やっと出た! 遅い! もう12時過ぎていますよ! 朝言いましたよね。12時に11階のA会議室に集合って』
「えっ、もう12時⁉ すみません、すみません、すみません。ちょっと寝ちゃってて」
『学生みたいな言い訳しない! これは仕事です! 契約したからには、七瀬さんも立派な社会人なのよ!』
「すみません、気をつけます……」
『時間がないから急いできてください! 17時にはみんな集まってしまうのよ?』
「今すぐ行きます!」
通話終了アイコンをタップすると同時に、ボクは部屋を飛び出した。
* * *
「やっときたわね。こっちへ。テーブルセッティング手伝ってください」
花さんが手招きしている。
朝の食堂でのラフな格好とは違って、ラベンダー色のスーツ姿だ。
オンの時の花さんはかっこいいな。
「そっち持って。あっちのテーブルとつなげて、イスをそれぞれ5個ずつ――」
この間の会議室とは違い、踊ったりはできない若干狭い部屋だ。
イスの数からして、アイドル候補たちとの顔合わせ的な会の準備なのだろう。
「終わったらこれを飾りつけて。あと、ロープを張ってくす玉を――」
あれ? 祝賀パーティーか何かの準備かな?
「私は軽食を用意してくるので、七瀬さんはそこの色紙でペーパーフラワーを作っておいて。赤2、青2、桃2、緑、紫、水、黄がそれぞれ1つずつ。大丈夫? メモったかしら?」
え? この紙で花を作るの?
「えーと、赤青緑……?」
「もうっ! あとで端末にメッセしておくからそれ見てやっておいてちょうだい!」
そう言って花さんは急ぎ足で扉から出て行ってしまった。
すぐに端末が震える。
メッセージを確認。
「はい、色と個数、了解しました」と。
作り方の動画も共有してくれていた。
こんなの作るのは、たぶん小学校の運動会以来だよ。あんまりちゃんとは思い出せないけれどね。
* * *
お腹減ったな……。お昼ご飯食べてないし、もう16時過ぎたなあ。
でもペーパーフラワー作りは楽しかった。
頼まれた分は全部できた。
ついでにポンポンとか、リースも作っちゃったよ。
「花さんまだですか? ペーパーフラワーは完成しました」とメッセを送ってみる。
「わ〜かわいいですね〜!」
「うおお!? メイメイ!」
びっくりした。
急に真後ろから声かけないでよ……。
「はい、こんにちはですよ〜」
「こんにちは!」
ちゃんと挨拶できてえらい!
「カエくん早いですね〜。まだ集合の17時まで30分以上ありますよ」
「花さんから頼まれてこれ作ってたんだよ。マネージャーの仕事ってやつかな!」
ペーパーフラワーを持ち上げて見せる。
「すご〜い、器用なんですね〜。私こういう細かい作業苦手で……」
「あー、そういえばそうだったね。絵もみんなから画伯って」
「な、なんで知ってるんですか!? 学校でみんなにからかわれて夏目画伯って……」
気にしてたのか……。そして学校でもそうなんだ……。
メイメイが書いてくれたイヌの絵は、家宝として額に入れて飾ってあるよ。
「えーと、そう、マネージャーだからね!」
「マネージャーさんってすごいんだ〜」
「そう、マネージャーだからメイメイのことはなんでも知ってるのさ!」
ふぅ、セーフ。
メイメイがたんじゅ……素直で良かった!
「なんでもは恥ずかしいです〜。もしかしてあのことも知ってますか?」
「何かな? ヒントちょうだい」
「え〜と、背中に〜」
「ピンポーン!」
これは早押しクイズ!
ボクはすばやくベルを鳴らすポーズをする。
「はい、カエくん!」
「ハート型のアザがある!」
「正解!」
パチパチパチ。
メイメイが拍手してくれる。
なんだ、ただのメイメイ常識問題だったか。
「第2問。テレ〜ン。小学2年生の時の遠足で〜箸を」
「ピンポーン!」
「はい、カエくん!」
「箸を忘れておやつのチョコレートポッキーを箸替わりにしようとしたら、お弁当の中身がサンドイッチだった! おばあちゃんありがとう!」
「正解!」
ふぅ、余裕余裕。
もっとこいこい!
「第15問。テレ〜ン。私のお母さんが所属」
「ピンポーン!」
「はい、カエくん!」
「メイメイのお母さんが所属していたグループは≪Believe in AstroloGy≫ですが、デビュー曲は『さそり座まで連れてって』」
「正解!」
「あなたたち……何してるの……?」
うお! 花さん、いつの間に!
「えっと、メイメイ常識クイズをちょっと……?」
「ねえ、今≪BiAG≫の話してました!? あーやっぱり早月さんのお母さんなんだ! 私のママが大ファンで、≪BiAG≫のMVを昔からよく見てたんです! 早月さん、秋月美月さんに雰囲気似てるな〜ってずっと思ってて!」
目を輝かせながらメイメイに迫っているのは新垣春。ハルルだ。ハルルは重度のアイドルオタクだからなあ。
どんなオタクも興奮すると声が上擦り早口になる。そしてアイドルに引かれる。
「あ〜、はい。秋月美月は私のお母さんです。でも私もお母さんの記憶はMVとかテレビ放送の記録映像くらいしかなくて……」
「あの、私……その……知らなくてごめんなさい!」
メイメイのお母さんは元アイドルだ。≪Believe in AstroloGy≫は15年ほど前……正確には何年前だ……まあいいか。とにかく圧倒的人気を博した当時のトップアイドルグループ。その中心的メンバーの一人。人気絶頂の時に電撃引退し、その後の芸能活動の記録はない。メイメイも同じ……。
あれ? ボクはどうしてそんなことを知っているんだ……? そんな情報、公開されていたっけ?
「気にしないで大丈夫ですよ〜。ハルちゃんが知ってるお母さんの話、もっと聞かせてください! 私もお母さんのこと好きだし、会ってみたいな〜なんて」
メイメイがそれを一体どんな表情で語っているのか。
背中を向けられているボクにはうかがい知ることはできない。
「え、っと、その……」
「はい、そろそろみんな集まってくるから、あなたたち飲み物の準備手伝ってくれないかしら?」
花さんがポンと手を叩き、会話を切った。
「「は~い」」
空気が一気に緩み、ボクたち3人はそれぞれ動き出した。