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第52話 それぞれの抱く愛とは

『カエデは、メイメイちゃんに、4つのうちどの愛を感じてる?』


 エロス(性的な愛)、フィリア(友愛)、ストルゲー(家族愛)、アガペー(無償の愛)。

 ボクがメイメイに感じているのはどの愛だろう。


「たぶん……フィリア、なのかな?」


『ふ~ん? なんでそう思ったの?』


「んーと、ストルゲーと迷ったんだけど、血縁関係的な家族ではないから、隣人愛なのかなーと?」


『ふむふむ。エロスではないのはなんで?』


 それまで虚空を見ながら相槌を打っていたマキが、ボクに視線を合わせてから、にやりと笑う。


「え……だって、そんなの当たり前じゃない?」


『当たり前? そう? メイメイちゃんとチューしたいとかおっぱい触りたいとかないの?』


「ないよ、そんなの……」


 そんなこと思うわけないじゃん。

 メイメイは存在しているだけで美しい。……ボクなんかが触れて良いわけないでしょ。


『へぇ~。わたしはメイメイちゃんともっとお近づきになりたいな~って思うよ。あわよくばチュッチュしたい♡』


「そんな! ダメダメ!」


『なんで~? なんでカエデにそんなこと決められないといけないの? 無理やりしたらそれはダメだと思うけど、でもそれはわたしとメイメイちゃんの問題じゃない? ね、メイメイちゃん?』


「え、は、はい。そう、ですね~。少なくともカエくんに許可を取る必要はないかな~とは思います~」


 メイメイ……恋愛はダメだよ……。

 できればちゃんと事前にボクに相談して……。


「もちろん、わたしはカエデくんにエロスの感情を抱いていますよぅ」


 レイがボクの腕を取って、わざとらしく胸を押しつけてくる。


 それはもうずっとストレートに言葉としてもらっている。ボクを求めてくれるのは素直にうれしい。どうしてあげたら良いのかはまだわからないけど……。


「あ、うん……それはいつもありがとう?」


『あ、こら。わたしの親友になんてことを!』


 マキが画面越しに指をさして怒り出す。


「親友のマキさんは、もちろんフィリアですよね? エロスのわたしと何か関係があるんですか?」


 だからレイ、挑発しないの。

 それと、ボクはポールダンスのポールじゃないから、挑発しながらボクの周りをくるくる回るのはやめてね?


『親友だからってフィリアって決めつけるのはイクナイ!』


「そうですか。ではいますぐ親友の看板を取り下げて、かえでくんに片想いをしているというのを認めるのであれば、100歩譲って許します」


 ……何を許すのさ。

 あと、どこから目線なのそれ。


『ぐぬぬ……』


「ぐぬぬじゃないよ。ちっとも話が進まないんだけど?」


 マキ、大人なんだからしっかりしてよ。レイのペースに飲まれてさー。


『ごめんマイベストフレンド。親友と恋愛したって別に良いよね。そういう本いっぱい出てるし?』


 BL本やGL本を人生の指針にするんじゃない! 自分の言ってることがおかしいって気づこうね?


『それはさておきだ。逆にメイメイちゃんはカエデに対して、どんな愛を持っているか聞いておこうか』


「私はもちろんフィリアです~。カエくんはいつもやさしいし、私のことを考えてくれています。行動力もあるし尊敬してますし、感謝してます~」


 お、おう……。めちゃくちゃ照れる。やばい、どうしよう。お外走ってきていい?


『フィリアだってさ、カエデ? 予想通り? 予想外? 今のを聞いてどう思った?』


「そんなふうに思ってもらってるなんて正直意外だったかな」


 ボクはボクがしたいことをしているだけだからね。


『フィリアは相手のことをリスペクトすることから始まるんだわ~。一方的な感情ではその関係を維持するのは難しいのはわかるよね?』


「うん、まあ、なんとなく」


『信頼関係っていうくらいだから、それは双方向なのね』


「うん、そうだね」


『カエデはメイメイちゃんと双方向にフィリアを抱けていると思ってる?』


「うーん、そうなのかな。ちょっと自信ないけど」


『自信ないか~。ま、そうでしょうね。だって、せっかくメイメイちゃんが日頃の感謝の気持ちを表現してくれたのに、カエデはそれを受け取らなかったもんね』


 それを言われると何も言えない……。


『自分でなんて言ったか覚えてる?』


 えっと、たしか……。


「メイメイががんばっている姿が見られればそれで満足、だったかな」


『そうね。カエデとしては、自分は当たり前のことをしているだけ。メイメイちゃんがアイドルとして成長してファンが増えていけばそれが自分の喜びです、ってところ?』


「うん、まあそうだね……」


 それだと何かダメなのかな……。


『それってさ~。対等な関係なの? カエデは与えるだけ。メイメイちゃんはそれを受け取るだけ。受け取ったものはファンに返せって?』


「うーん。そう言われると……対等じゃないような。どうなんだろう」


『カエデから受け取ったものをカエデに返したいって思うメイメイちゃんの気持ちはどこへいくの?』


「それは……」


 たしかに対等ではない……のかもしれない。

 ボクとメイメイの関係は歪なのかな……。


「カエくんはうれしくなかったかもしれないですけど~、私は普段のお礼をしたいって思ってて、ししょーに相談してて……。でもお礼はいらないって言われると悲しいです……」


 それまでずっと黙っていたメイメイが口を開く。今にも泣きだしそうな声だ。


「いらないなんてそんな……。感謝されるようなことは何もしてないってだけで……」


『何かしてもらったら、ありがとうって言う。子供でも感謝は知ってることだよね』


 感謝の気持ち。感謝を言葉や行動で表すのは大事……。


『簡単に言うとね、カエデのそれはフィリアじゃないってことだよ。アガペーなのね』


「アガペー。見返りを求めない愛、か」


 なるほど。

 そう言われるとそうなのかもしれないと思えてくる。


 アガペーか。

 メイメイに活躍してほしい。

 そう思う気持ちの見返りはなんだろう。ボクは何が欲しいんだろう。

 それが何も思い浮かばない。


『メイメイちゃんはただの女の子だよ? 神様でも仏様でもないよ。それにカエデだってキリストでもないんだから、無償の愛なんて、言ってしまえばちょっと気持ち悪いよ』


 マキはボクのことを「気持ち悪い」と表現したけれど、嫌悪感を抱いている、といった様子はなかった。ありえない、おかしい感情だ、という意味なのだろう。


『何がカエデをそこまでさせるのか、純粋に興味があるよ。マキちゃんに教えてくれないかな?』


「わたしも知りたいです。さつきさんのことを特別視しているのは知っていますが、理由は教えてもらっていないです」


「私も知りたいです。どうしてそこまで私のために尽くしてくれるのか、私にも教えてください」

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