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第51話 愛の種類についての考察

「話はすべて聞かせてもらいました。ここはわたしにまかせてください」


 と、レイがどこからともなく現れた。

 すべてってどこから聞いてたのよ……。


「レイちゃん!」


 メイメイがうれしそうな声を上げる。

 まずは音もなくレイが現れたことに疑問を持ちたいね? この状況を受け入れすぎだから。


「十文字真紀さん。はじめまして。ダブルウェーブの仙川零と申します。かえでくんと同じく≪The Beginning of Summer≫のマネージャーをしております。かえでくんとはただならぬ関係です。同棲をしています」


 レイはマキに向かって、画面越しに深々と頭を下げる。

 はい、誰もつっこまないー。


『これはご丁寧にどうも。トリニティプロモーション所属の十文字真紀です。カエデの親友で今度一緒に暮らす約束をしています♡』


 めっちゃビジネスライクで丁寧なあいさつのはずなのに……何この修羅場感……。初対面からやめてよー。2人ともウソ情報でマウント取り合うのは何なのさー。


「同棲はしてないし、一緒に暮らす約束もしてないんですけど……」


「かえでくんは少しだまっていてください」


『カエデ~。大好きなツッコミはあとでたっぷりさせてあげる♡ 今は良い子にしてちょっと静かにできるかな~♡』


 はい……。

 でも別に、ツッコミが好きなわけじゃないです……。


「聞いてくださいよー、レイちゃん……。カエくんがひどいんです……」


『ひどいね。ホントにひどい』


「そうですね。かえでくんは何もわかっていません」


 発言権を奪っておいて、なんでそんなにみんなでいじめるの……。

 もう泣きそう。


『何がひどいかって、これでもかってくらい担当アイドルを傷つけておいて、もっとがんばれって?……わたしならマネージャー代えてほしいって思うかもね……』


 そんなにボクはメイメイのことを傷つけてましたか……。もういないほうが良いですか……。


「私は~そこまでは思ってないですけど……?」


 メイメイが気を遣うようにボクのことをチラ見してくる。


 良いのよ、メイメイ。

 この際だから言いたいことは言ってください……。


「一般的に言えば、まきさんのアドバイスはとても正しいと思います。ですが、大切な前提が1つ抜けています」


 レイが指摘する。


『大切な前提?』


「はい。かえでくんはスキンシップがとても好きです。とにかく好きです。わたしがちょっと触ると昇天して気絶してしまうのであまりしないようにしていますが、マキさん程度の関係でも多少効果があるくらいにはスキンシップが好きな人なのです」


『おうおう、マキちゃん大人だから、その挑発は一旦スルーして先を聞こうじゃないのよ』


 2人とも穏便にね……。とくにレイはマキのことをあまり刺激しないようにね……。


「そんなにスキンシップが好きなのにもかかわらず、なぜさつきさんのスキンシップには無反応なのか」


「なのか!」


 メイメイが理由を聞こうと、身を乗り出す。


「かえでくんにとって、さつきさんは特別な存在なのです。それはもう、人に非ざる神聖なる存在、人神様として崇め奉っているのです」


『なんと⁉ 神ときたか!』


 マキが心底驚いた、といった様子で大きな声を上げた。


 え、そんなの当たり前だよね?

 だってメイメイだよ?

 美しくてかわいくてまじめでやさしくて、翼のない天使なんだよ?

 そこに存在するだけでありがたいのなんて当たり前すぎるよね?


「ほら、かえでくんのこの顔、見てくださいよぅ」


 レイがボクの顔をアップにしてマキに見せる。


『あ、こりゃマジなの。うっひゃひゃ、マキちゃん今日一びっくりしたワン!』


 何よ、マジなのって。

 そりゃマジだよ!

 

『メイメイちゃん、これはマジのマジだわ~。メイメイちゃんのことが好きすぎて地球一周して無の境地ってところだわ~』


「カエくん、私のこと好きです?」


 メイメイが小首をかしげて尋ねてくる。

 その表情は不安と疑念が入り混じったように見える。


「そんなの当たり前じゃない! ボクがメイメイの一番のファンだよ! 誰よりもメイメイのことを考えてる。一番好きだよ!」


 いまさら疑わないでよ……。


「ということなんです。おわかりいただけたでしょうか」


『うん。マキちゃんちょっと涙出てきちゃった……。メイメイちゃんつらかったね……』


「私悲しいです~」


 なぜみんな泣いているの……。

 ボクがメイメイのこと好きだとダメですか……。迷惑ですか……。


『ねえ、カエデ~。愛ってさ~、いろんな種類があるのさ。知ってる?』


「いろんな種類? 恋愛と家族愛、とかってこと?」


『それだけじゃないよ~。大昔から愛の定義についてはいろいろ言われてて、8種類だ、4種類だ、3種類だ~なんて、哲学者や宗教家がいろいろ定義してるんだけどね。わたしとしては4種類がしっくりくるかなって思ってるよ』


「哲学……宗教……」


 むずかしそうな話なのかな?


『大丈夫大丈夫。そんなに緊張しないで。簡単だし、聞いたら知ってる話だと思うから』


「うん」


『えっとね。古代ギリシャの時代に、愛にはだいたい4つの種類があるよって定義されてるのね。エロス、フィリア、ストルゲー、アガペー』


「エロス、フィリア……むずかしい」


『日本語のほうだけ覚えればいいから大丈夫。エロスは本能的な愛、性的な愛のことね。見返りを求める愛。恋愛的に相手のことを求める愛のこと』


 エロス。

 聞いたことがある言葉。

 エロの語源だろうから、まあわかる。


『フィリアは隣人愛、友愛ね。共感して信頼関係を持ちたい相手に感じる愛のことね』


 フィリアか。

 言葉に馴染みはないけど、友愛ならわかるかな。信頼関係か。なるほどね。


『ストルゲー。これはわかりやすくて家族愛ね。血縁関係のある親や子に対する愛情のこと』


 ストルゲー。

 これまた聞いたことはないけれど、家族愛はもちろんわかる。


『最後がアガペー。無償の愛、自己犠牲の愛と言われてるかな。見返りを求めない愛のことなのね』


 アガペー。

 言葉自体は聞いたことがある気がするけれど、意味までは覚えてなかった。無償の愛、自己犠牲の愛かあ。


『ほかにも細かく分けるといっぱいあるんだけど、とりあえずこの4つで』


「うん。なんとなくわかった。ありがとう」


 これまで愛に種類があるなんて考えたこともなかったけど、言っていることは理解できたと思う。


『カエデはさ~。メイメイちゃんに対して、4つのうち、どの愛を感じてる?』


 4つのうちどの愛か……。

 ボクのメイメイに対する愛はどれだろう。

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