第48話 エチュード:トリックオアトリート!~後編
「チィタマ! 今よ! 秘儀、縄抜けっ!」
え? 縄抜け⁉ ボクですか⁉
そんな手品みたいなこと……わかったよ、やりますってば! そんな目で見ないで!
「わかったニャン! 猫奥義『縄抜け』ニャン!」
って、かっこよく言ってみたものの……実際どうすればいいんだニャン。
どうすれば……。
「チィタマ、猫なんだから早くそんなの嚙み千切って私たちを助けなさいよ!」
ナズナ辛辣ー。
猫はね、縄なんて噛み千切りませんよ……。ロバかなんかと勘違いしてない?
うーん、ダメだ。しっかり絡まってて動けば動くほど肌に食い込んで……。いろんなところが擦れていたいニャン……。
“やばい”
“ちょっとタイム”
“コレナンテエロゲ?”
“放送して大丈夫なのか、これw”
“R15+”
“完全にそっち路線狙ってて草w”
あー。どうしよう。
うーん、と……そうだ!
「ちょっとちょっと、そこのネコミミのかわいらしいお嬢さん。こっちにきてほしいニャン」
「え? サクラですか?」
ボクの言葉にサクにゃんが反応してくれる。
いける、な!
「そうニャン。こっちにくるニャン」
「はい……どうかしましたか?」
サクにゃんは肉まんを両手に持っていた。
「手に持ってる肉まんを一旦お皿に置くニャン! 同じ猫同士、話し合うニャン!」
「は、はい! ニャン!」
素直でよろしい。
サクにゃんのそういう素直なところ好きよ。
「ボクの目を見るニャン。見るニャン。もっとそばによるニャン」
「は、はい! こう、ですか?」
サクにゃんが顔を近づけてくる。
ネコミミメイドのサクにゃんかわいいね。
「おまえはだんだん眠くなる……じゃなくて、ボクを抱きしめたくなるニャン。猫仲間がつかまっててかわいそうニャン。助けて抱きしめたくなるニャン……なるニャン」
そう、催眠術だ!
サクにゃん……頼むぞー!
“猫の催眠術!”
“略して猫眠術!”
“猫が2匹……”
“いかん、眠くなってきた”
“催眠術なんてかかるのか”
“お? サクにゃんが動いたぞ? かかったか⁉”
“成功か⁉”
「抱きしめたくなるニャン! 縄をほどいて助けるニャン! 抱きしめるニャン!」
「……はいニャン」
サクにゃんの目がトロンとしてくる。
いいぞ! その調子! 演技うまいよ!
「縄をほどくニャン! ほどいて抱きしめるニャン!」
「……はいニャン」
サクにゃんがボクの体に絡まったロープをゆっくりとほどいていく。
だんだんと自由が利くように……右手が自由になったところで、協力して絡まったロープをほどいていく。
ほどけた!
「やったニャン! 自由ニャン!」
「チィタマやったわね!」
ヒマリがグルグル巻きのまま喜んでいた。
いざ自分が自由になってみると、身動き取れない人にちょっといたずらしてみようかなって気持ちになるのはなんでだろう?
目の前で肉まんでも食べてみようかな⁉
「かわいいお嬢さん。ほどいてくれてありがとニャン! ボクにも肉まんを1つくださいニャン」
「ほどいて抱きしめる……ニャン」
トロンとした目のサクにゃんが近づいてくる。
サクにゃん、縄はもうほどけたから大丈夫だよ。
ちょっとヒマリを悔しがらせたいから、肉まんをください!
「もう大丈夫ニャン。助かったニャン!」
あ、れ?
サクにゃんとボクの距離がゼロになった。
これでもかというくらい絡みついてきて……ちょっと、耳元でハアハア言うのやめて。
“チィタマ助かった、のか?”
“催眠術ってマジであるんだなー(棒)”
“え、これマジ?”
“サクラのようすおかしくね?”
“顔が赤いし、息が荒い”
“なにこれw”
”なんかカメラが微妙に揺れてるんですけどw”
“どういう現象?”
「大丈夫ニャン! 催眠術はもう終わりニャン!」
ボクは半ばやけくそになりながら、指をパチンと鳴らす。
テレビで見た催眠術はこれで解除される、はず⁉
「あ、あれ? サクラはいったい何を……?」
サクにゃんはボクからパッと体を離し、周りをキョロキョロしだす。
解除できた、か。
いやいや、サクにゃんの演技すごいな。ホントに催眠術にかかったみたいだったよ。
「ちょっと、猫! 私たちのことも助けなさいよ!」
ナズナさん辛辣ー。
わかってますよ、はいはい、今すぐー。
ボクはヒマリとナズナに絡まった縄をほどいた。
「ヒマリちゃんふっかーつ!」
その声に、シオが反応する。
「なんやて⁉ おまえたち、いつのまに罠から抜け出したんや⁉」
ものすごーい悪役っぽいセリフをありがとう。
シオセンセ、ノリノリっすね。
「これで悪者たちの好きにはさせないぞ~!」
こっちも戦隊モノのノリかい!
「させないわよ!」
ナズナも乗らなくていいから……。
「わたしたちにも料理を食べさせなさ~い! そうしないといたずらしちゃうぞ!」
「しちゃうぞ~!」
あ、そういう展開?
「料理を食べさせるニャン! いたずらするニャン!」
「……すみませんでした。参りました。どうぞお食べください」
シオが深々と頭を下げ、料理のほうへと案内してくれた。
「食べていいの⁉」
「どうぞどうぞ。お好きなだけお食べください……ここからパーティーの始まりやで~!」
え? これでエチュード終わり?
なんだったんだ、これ⁉