第47話 エチュード:トリックオアトリート!~前編
「え~、ここが今日のハロウィン会場なの~? ひっろ~い! お屋敷みたいね~」
マキ……ではなく、ヒマリの第一声。
おっと、もうエチュードを始めるのね?
場所は広いお屋敷っぽいところ。ヒマリ、ナズナ、猫のチィタマの3人はハロウィンパーティーに招かれた客、という設定だね。
「ホントね。広いところは……緊張するわ」
と、ナズナ。
二の腕をさすって緊張している様を表現している。
「おいしそうな料理がいっぱいあるニャン。食べていいのかニャン?」
ううっ。マジで緊張する。役を演じている上にアドリブで会話を進めるって難易度高くない?
“おお、始まった!”
“ヒマリかわいい!好きになった”
“はぇよwチョロ松w”
“エチュードってなんだっけ?”
“即興劇のことな。設定だけあって台本なしアドリブで進める”
“ハロウィンパーティーを即興でやってるんだな”
“楓のチィタマ、マジうけるニャンwww”
“ナズナ意外とかわいい。こういう雰囲気もありあり”
レイがボクの脳内に、配信のコメントを音声で流してくるんですけど……。
演技に集中しづらいなあ。
「ダメよ、チィタマ。礼儀正しくしましょ! まずはこう言うの。『本日はお招きいただきありがとうございます』」
「お招きいただきありがとうございますニャン!」
「えらいえらい! よく言えました~」
ヒマリがボクのあごを撫でてくる。
猫だから……気持ちいいニャン……。
体が弛緩し、その場でゴロンと横になる。
“あら?意外と……おや?いける……か?”
“チィタマやるやん!”
“カメラワークがねちっこいwww”
“アップで舐めまわすなwww”
“ポロリもあるよ”
“生配信だからマジであるかもww”
“楓をみてこんな気持ちになるなんて……クソッ”
“めっちゃ気まずいw”
“微妙な気分になるからエロ路線やめれw”
「へい、いらっしゃい! 何にいたしやしょう!」
元気な声、揉み手をしながらシオが現れる。
あんたが寿司屋の大将かい?
「トリックオアトリート! お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ~」
ヒマリがわっるい顔をしながらシオに迫っていく。
えっと……礼儀正しくはどこ行った?
「ほら、ナズナ、チィタマ。一緒にやって!」
「えっ、あ。と、トリックオアトリート!」
「トリックオアトリート……ニャン」
戸惑いつつもナズナとボクも参加する。
まあ、ハロウィンの恒例のアイサツだし。これはこれで礼儀正しいのかな?
「掛った! いまや!」
シオが後ろを振り返り、両手を振って合図を送りだす。
なんだなんだ?
「ええ~い!」
「それ~ですわ~!」
サクにゃんとウーミーが、ボクたちに向かって白い紐のようなものを投げつけてくる。
「ちょ、これ何⁉」
とっさのことで身動きが取れず、頭の上に白い紐の束が降ってくるのを呆然と眺めてしまった。
「とらえたぞ~! 神妙にお縄につけ~い!」
時代劇⁉
いや、なんかマジで捕まったんですけど、なにこれ?
ただ傍観した結果、ボクたち3人は、投げ網のようなものを投げつけられて、グルグル巻きにされてしまった。
ホント動けない……。
「キャ~! ちょっと~放してよ~!」
「ヒマリ! 今助けるわ! くっ、動けない!」
「大変だニャーン。放してくれニャーン」
“縛りプレイ!”
“栞先生が露骨なエロ路線に誘導w”
“楓のポロリ……はまだないか。クッ”
“期待すなw”
“必死な形相のナズナ……いい!”
“チィタマやる気出せw”
「だまされたな! フハハハハハ! ここはハロウィン会場だが、お菓子などないわ! これからうちらが豪華な料理を食べるところを指をくわえてみていてもらおうやないか!」
「くっ、ひどいいたずらだわっ! 鬼! 悪魔!」
ヒマリが悔しそうに目をつぶる。
マキとシオの間でだけ物語が進行していっている気がする……。乗り遅れた感が半端ない。
「はっはっは! 今や! へい、料理カモン!」
シオがパチンと指を鳴らす。
合図を受けて、都が三段のキッチンワゴンを転がしながらスタジオに入ってきた。
アラビアの踊り子風コスプレだ!
腰回りがセクシー!
都はオープニング前からずっといなかったな。
いままでずっと外で待機してたの? その格好で?
「おまたせいたしました。お嬢様」
恭しく頭を下げ、踊り子がテーブルに料理を並べていく。
サンドイッチ、クラッカー、肉まん、パイ、おにぎり、お寿司、クレープ、プリン、ゼリー。
めっちゃ豪華……。そういえばお腹減ったニャン……。
“ガチの料理w飯テロwww”
“普通にパーティー始まった⁉”
“早くも罰ゲームwww”
“うまそう。腹減った”
“つかまってる3人の顔w”
“演技かあれw”
「おおきに。ありがとう。さあ、桜さん、海さん、お料理いただきましょか」
「え、ええ。いただきますですわ」
「は、はい! いただきます!」
シオに促されて、とまどいながらも料理に手をつける2人。
うわーめっちゃおいしそう。ニャン……。
「おいしい! これおいしいですよ!」
「まったりとしていて、ジューシーで。舌が蕩けるようですわ」
ウーミー。舌で唇を舐めるのははしたないしエロいからやめよう? いや、配信だからもっとやれ、か?
「くぅ~! しかたない。こっちも奥の手よ!」
ヒマリが叫ぶ。
え、奥の手⁉
この状況から逆転する方法があるんですか⁉