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第39話 エチュードのゆくえ

「こんな結果、納得いかないわ!」


 ハルルは握手を拒否してそっぽを向いてしまった。

 でもそんなこと言われてもなあ。


「お、そろそろ会話に参加してもええんかな?」


 シオがニヤニヤしながら近づいてくる。


 なんかなあ。シオにはエチュードしてるところ見られたくなかったなー。

 絶対マンガのネタにされるよね……。


「すでに勝敗は決した。ぜひ先生とマキにも感想を伺いましょう」


 洋子ちゃんが輪を広げて2人を招き入れる。


「洋子ちゃんありがと~! 2人ともお疲れさま。とっても刺激的なお話だったわ♡」


 マキがボク、ハルルそれぞれにハグして回る。


「それはどうもー」


 そっけなく答えてしまった。

 ちょっと疲れてしまって、マキのテンションについていけない……。


「とくにハルちゃんの告白シーン、ウルッときちゃった」


 マキはボクの態度を気にするそぶりもなく、ハルルを褒める。


「ありがとうございます。マキさんに褒めていただけるなんてうれしいです!」


「いや~、実際あれはごっつ良かったで。……うん、バズるな」


 シオがあごを撫でながら言う。


 いや……そういうつもりでエチュードしてないから、公開するのはやめてよ?


「なあ監督、さっきの映像もらわれへん? うちの事務所の動画チャンネルでつかわせてもらうわけにはいかへんですかね……?」


 シオが洋子ちゃんに手を合わせて頼み込んでいる。

 うわーシンプルにやだなー!


「そうですなあ。たしかに、さっきの演技はあまりにも良かった……。私としても映画の宣伝に使いたいと思ったくらいで……。う~ん」


 ちょっと、洋子ちゃん?

 今のエチュードは映画の内容と全然関係ないでしょ……。


「な~! 内山(うちやま)さん! 予備のほうはどうなってる?」


 洋子ちゃんが大声でカメラマンの女性・内山さんを呼び寄せる。

 洋子ちゃんよりも少し若い。けれどベテランさんっぽい風格がある。たぶん撮影スタッフの中でもえらい立場の人なのだろうと予想がつく。


「さっきの予備も回してくれたんだろ? ちょっとそっちを見せてくれない?」


 無口な内山さんが小さくうなずく。

 内山さんが手元の端末を操作すると、上空からドローンが下りてきた。


「ドローン! ぜんぜん気づかなかった!」


「小さくて音がしないから重宝してるんだよ。AI搭載でカット割りやズームなんかも勝手にやってくれるんだ。いいだろ、これ。スタジオの敷地なら飛ばし放題だしな」


 洋子ちゃんがドローンに取り付けられたカメラの映像をチェックしながら言う。


「よし、うまく撮れてる。内山さんありがとうな」


 内山さんは小さく頭を下げると、撮影用カメラのあるほうへと戻っていった。


「どうだろ、先生。こっちの映像をお譲りするというのは。やはりメインカメラの映像のほうはこっちで使わせてもらいたい」


「ええんですか? もちろんそれで! おおきに助かりますわ。ぞくぞくしてくるわ~」


 シオが目を輝かせてお礼を言う。


「どうあっても世界に公開されてしまうんですね……」


 ボクたちに拒否権はないらしい。

 エッチだなんだ言ってるけど、大丈夫なの、これ……。


「ちょっと恥ずかしいけれど、映画の宣伝になるなら私は大丈夫! お願いします!」


 ハルルが頭を下げる。

 ハルルえらいなあ。ボクとしてはラストのところは自分でもあんまり見返したくないけど……。


「映画のティザーサイトに撮影風景ということで載せさせてもらうな。ちゃんとおたくの事務所にもリンクはさせるし、役者の名前も宣伝するから安心して任せておけ」


「あ、ありがとうございます」


 わりとちゃんと考えてくれてる。

 あれ、もしかして……もしかすると、これってすごいことなんじゃ?


「あ~いいな~。わたしもエチュードやるからサイトに載せてよ~」


 マキが洋子ちゃんの袖を引っ張ってねだる。


 そりゃ主役だもんね。目立ちたいのは当然だよ。それにマキの演技見てみたいな。


「そうだな。マキはもちろんだが、他の役者も交えて、何本か公開していくのが良さそうだな」


「やた~! わたしカエデと撮る♡」


 マキが突然、ボクの背中に飛びついてくる。


「ちょっとー。ボクは役者じゃないから勘弁してよー」


 今回は成り行きでエチュードしたけど、映画の宣伝ならキャスト内でやってもらわないと……。


「え~。ねえ、洋子ちゃん、カエデがこんなこと言ってるけど~? ね~ね~」


 重い……。あと耳元でしゃべらないで……。マキの声ってなんか、こう、ムズムズする……。


 と、見れば洋子ちゃんが誰かと電話中だった。


「おう、そう。今撮影中だ。連絡してた件、そう、映像見てくれたか? うん、うん、そう。NGはなし? OK。良いじゃないか~。サンキュ~。また連絡する」


 何かいい感じに話がまとまったみたい。

 洋子ちゃんはにこやかな表情で電話を切ってから、こちらに向きなおった。


「というわけでだ。体調を崩して休業したキャストの代役なんだが、春にお願いしたいと思う」

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