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第34話 ボクとハルル

 そんなこんなで打ち合わせとカメラリハーサル(カメリハ)が始まった。

 監督以下スタッフと、主要なキャストたちはせわしなく動いている。

 が、エキストラ出演のみんなは出番までとくにすることがない。


「暇ですね~」


 メイメイがベンチに腰掛けてだらけ切っていた。


「映画は拘束時間が長いのが欠点よね。教室のシーン撮影はまだまださっきっぽいわ」


 MINAさんがタイムスケジュールを確認し、ため息をつく。


「ねえ、2人とも……そんなに暇ならハルルを見習ってこっち手伝ってくれてもいいんだよ?」


 そう、ボクとハルルは、ロケーション撮影の合間に、主演キャストのみなさんが日焼け防止用の巨大なテントを移動しているのだ。

 意外とマジなアシスタント業務だった……。これ、メイド服でやるのおかしくない?


「カエくんがんばってください~」


「モデルの腕が太くなったら困るから」


 はい、2人とも拒否~。そんなことだろうと思ったよ。


「カエデちゃん! 私がついているから安心して!」


 ハルルの目が異常にランランとしていてちょっと怖い。

 手伝ってくれるのはうれしいけど、なんか変なスイッチ入ってるなあ。


「ありがと……。ハルルはやさしい友達だなあ」


「え、ええ、もちろんよっ! 友達としてこれくらいのことは当然よねっ!」


 ちょちょちょ、ハルルいきなり手を離さないで! ぐぉぉぉ、ボクのほうにテントの全部の重さがっ!


「おう~楓、そんな力仕事は2人でやったらケガするぞ」


 洋子ちゃんがテントに押しつぶされそうになっていたボクを支えてくれた。

 力強くて素敵!


「4人でポールを1本ずつ持つんだよ。お~い、アツコ、エリ、手伝ってくれや」


 洋子ちゃんの声に反応して、箱馬を運んでいたスタッフ2人が走り寄ってくる。

 助かった……。



「アツコさん、エリさん、ありがとうございます!」


「いえいえ、こちらこそ。そのかっこう……あなたが今日のアシスタントちゃんね」


 4人で運べば巨大なテントも重たくない!

 いいねー。


「はい! ダブルウェーブの七瀬楓と申します! 今日1日洋子ちゃんのアシスタントをさせていただくことになりました。よろしくお願いします!」


 テントを運びながら簡単に挨拶をする。

 事務所の看板を背負っているからには、スタッフさんたちにも好印象を与えておかないとね。


「ダブルウェーブ……オハナちゃんのところなのね。オハナちゃん元気かしら? 私、三杉温子(みすぎあつこ)です。大道具担当」


 ポニーテールのスタッフのアツコさんが話しかけてくる。


「花さんのことをご存じなんですね。元気ですよ! ボクの直属の上司です!」


「オハナの部下なの~! かわいいんだ~! あ、私は新庄絵里(しんじょうえり)。同じく大道具担当よ」


 ショートカットのほうがエリさん。


「お2人とも洋子ちゃんのところで長いんですか?」


 花さんの新人時代を知っているということは、100年くらいは働いているのか。


「そうね~。私たち同期だけど、もう5年くらい?」


 アツコさんがエリさんのほうを見る。


「そうね。新卒で入ってすぐからだから、もう5年経ったわね」


「けっこう長い! それだけ働きやすいんですね」


「どうだろ~。映画製作はどっちにしてもきつい仕事だからね~。撮影期間は拘束時間も長いし大変よ。でも、洋子ちゃんと仕事するのは楽しいかな」


 そう言って笑う2人に影はなかった。

 スタッフに好かれている良い監督なんだなあというのがよくわかる。


「おう、テントはそこでいいぞ。アツコ、エリ、サンキューな。持ち場に戻れ~」


 遠くから洋子ちゃんの指示が飛ぶ。


「ありがとうございました!」


「またあとでね! アシスタントがんばって!」


 アツコさんとエリさんが手を振りながら、走り去っていった。


「さて、次の仕事は何かなーっと」


 ボクはテントを離れて洋子ちゃんのほうへ歩き出す。


「ねえ、カエデちゃん……」


 ハルルがボクのスカートを引っ張ってくる。


「ちょっと、スカートはやめてってばー」


「ねえねえねえ!」


 ハルルはスカートを離さない。

 ん、どした?


「カエデちゃんは、何で初対面の人とすぐ仲良くなっちゃうの⁉」


「え? 仲良く? アツコさんとエリさんのこと?」


「そうよ! 会ったばかりなのに仲良さげに会話して~」


 ハルルが厳しい表情でにらみつけてくる。


「え、あ、ごめん。ハルルをのけ者にするつもりはなくて……スタッフさんのことを知っておけば洋子ちゃんのアシスタントしやすいかなと思って少しリサーチを」


「そんなのわかってるわよっ! カエデちゃんが意味もなく会話したりしないことくらいわかってるわよっ!」


「ええ……うーん。なんかごめんね?」


 困ったなあ。

 なぜかハルルの機嫌が悪い。


「ねえ、今何で謝ったの?」


「え、うーん、と、ハルルを傷つけたから、かな」


「ねえ、私が何で傷ついたと思ったの?」


 適当な謝罪で逃がしてくれるつもりはないらしい。

 難しい質問だなあ……。どう答えたらいいものやら……。


「ごめん、わからない! それも含めてごめんなさい!」


 わからないことにたいしての謝罪。

 ボクにはなぜハルルがつらそうにしているのか理解できていない。


「最初にテント運びを手伝っていたのは私。カエデちゃんとお話ししていたのも私。それなのに……もういいわ。もういい!」


 ハルルは途中まで何かを言いかけたが、口を噤んで撮影場所とは逆方向に歩き出してしまった。


「ちょっと、ハルル! どこ行くの! 待ってよ!」


 ハルルは止まらない。


 ああ、どうしよう!


 ん? なぜか洋子ちゃんがこっちに歩いてくる。


「話は聞かせてもらった! 良いじゃないか~。気に入った! 新垣春。チャンスをやろう!」

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