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第13話 ダンス練習と鬼軍曹

 これは……ちょっと下手過ぎない?


 3人のダンス練習を見た感想だ。

 仙川さんも頭が痛くなったのか、こめかみをマッサージしている。

 花さんは……はい無視ー。端末いじりに夢中。

 まあね、花さんはボクたちマネージャー陣のとりまとめと営業方面の仕事がメインらしいから、見守っていてくれるだけでも……。


 よし、じゃあボクはボクでやれることをやってみるとしますかね。

 まずは分析?

 ナギチのダンスがひどいのはもはやネタ化しているから良いとして、メイメイはもうちょっとがんばれるはず……。それにダンスが1番うまいはずのサクにゃんがまるで素人……。


 これはホントに、ダンスユニットとも評されるほどの≪初夏≫のパフォーマンスなの? だけどデビュー前だし、こんなものなのかな?


 3人は口々に、「けっこういけていたね」と褒めあっているし、自己評価的にはかなり良かったご様子。いやいやいや。さすがにそれはねどうかな……。


「あー、えーと、もう1回1人ずつ踊ってみて、ビデオ撮りながら動き確認するのが良いんじゃないかな?」


 つい口をはさんでしまった。


「さすがかえでくん。わたしもそれがいいと思います。お手本の動画と見比べると問題点が見えてくると思うので」


 仙川さんも乗っかってきた。ナイス。


 3人は「え~、必要かな~?」「けっこういけてたよね?」とピーチクパーチクうるさい。


「はい、じゃあ、サクにゃんからいってみようか?」


「了解にゃん……です。サクラ、トップバッターいきますっ!」


 握りこぶしを作ると、サクにゃんは鏡の前にスタンバイする。

 頼むよ、ダンスのセンター。


 ミュージックスタート。録画もスタート。



* * *


「はぁはぁ……どうでしたか? サクラの踊り」


 サクにゃんが肩で息をしながら戻ってきた。

 1曲踊っただけで息を切らしていたらまずいなあ。圧倒的体力不足! 走り込みが必要かな?


「テレビにつないでみんなで見てみようか」


 そう言いながらビデオカメラをテレビにつなぐ。


「お~。サクにゃんの勇姿をみんなで見よか! 完璧すぎてスカウトくるで~」


「見ましょう見ましょう! サクちゃんかわいかったですよ♪」



「どう、だったかな?」


 お通夜みたいな3人に、あえて声をかけた。

 現実を知る。ボクは鬼になる! みんな許してほしい。


「……ぜんぜんでした。もっと踊れていると思っていました……」


 泣きそうなサクにゃんが絞り出すように言った。


「えらいよ。自分を知って認められたのはえらい。そうしないと先へは進めないからね」


 ボクは大げさに拍手してみせる。仙川さんも続くように拍手した。

 正直なところ、≪初夏≫のダンスはサクにゃんが引っ張っていかなければいけない。きつい役を押しつけてごめんね。


「じゃあ、まず良かったところから確認していこうか。まずはスタートのところだけど――」



* * *


 即興のダンス品評会だったけれど、我ながらわりと実りあるものになったんじゃないかと思う。

 サクにゃんはメモを取りまくり、メイメイは目を輝かせまくり、ナギチは隅っこで背中に哀愁を漂わせて丸くなった。



「カエくんコーチ! ここの動きはどうすればいいですか⁉」


「そこは、ほら、お手本と見比べて、一瞬左手が下がって動いちゃってるから、ここで止める。この姿勢をキープ。全員がピタッと止まるのが最重要なポイントだからね」


「なるほどです~。ピタッ」


「メイメイ……口で言ってもダメだからね?」


「は~い」


 ちらりとこちらを向いてウインクしてくる。

 もうっ、小悪魔! 小悪魔天使!


「サッちゃん、まじめにやらんと、こっちの鬼軍曹がにらんでるで?」


「誰が鬼軍曹ですか。なぎささんは基礎練を続けてください。腹筋20回をあと5セット追加です」


 仙川さんは、どこから取り出したのか、メガホンを片手に腕組みしている。鬼軍曹じゃん。


「あかん……もう上がらん……あとは任せた……ガクッ」


 ナギチここに眠る。



「サクにゃん、そこ! いつも半テンポ遅れる。音を意識して、メリハリつけて止まれば動き出し遅れないから」


「はい、コーチ! サクラがんばるにゃん!」


 やっぱりサクにゃんは上達が早い。才能があって正しく努力できれば短時間でも成長が見えるものなんだな。ちょっとうれしい。



「よし、ちょっとボクと隣で合わせて踊ってみようか」


「はい、コーチ!」


「仙川さん、悪いんだけどカメラ回してくれる? ボクがサクにゃんと一緒に合わせてみるから」


「わかりました。なぎささんも死んでいますが、あれはあのままで大丈夫でしょうか」


 そう言いながら、ちらりとナギチのほうを見やる。

 小さくため息をついてから、メガホンをビデオカメラに持ち替えた。

 

 鬼軍曹……いきなり新人アイドルをつぶさないでよ……。

 まあ、ナギチはたぶんずっとあんな感じだろうから、あれはあれで良いんじゃないかな……。


 仙川さんがボクの背中を指で触りながら「貸し1つですよぅ」と言っているのは、あえて聞かなかったことにする。



「よし、サクにゃん。通しで同じパートを。お互いのことは意識せずにいこう」


「ねぇ~~~~、私もカエくんと一緒に踊りたいです~」


 メイメイが両手を広げて通せんぼの構え。

 一人にしてごめんね……。

 

「うん、次ね、順番に撮るから、お願いね?」


「……わかりました~。絶対次ですからね?」


 メイメイはほっぺたを膨らませながらも、渋々といった雰囲気で両手を下げて通行許可をくれた。

 ありがとうありがとう。



「は~い、準備良いですか? 音楽かけますよ~。アクション!」


 メガホンを握ったメイメイの合図で「The Beginning of Summer」のイントロが流れ出す。


 ボクは目をつぶり、サクにゃんにシンクロするように同じパートを踊る。



* * *


「七瀬コーチ……。なんでこんなに……踊れるんですか?」


 ビデオを確認し終えると、サクにゃんが尋ねてきた。声が少しかすれ、震えている。


「サクにゃん泣かないで……ボクが踊れるのは……その、いっぱい練習したから、かな?」


 うそだ。

 練習なんてしていない。

 ダンス経験なんてこれっぽっちもない。できるのはオタ芸くらいだ。

 

 でも何万回もMVは見た。現場にも何度も足を運んで生でも見た。

 だからイメージはしっかりと頭の中に刻み込まれている。


 それを完璧に再現できているのはこの体のおかげ。

 ダンスの才能がある誰かさんの体。


「サクラ、もっと練習します!」


 袖で涙をぬぐってサクにゃんが立ち上がる。


「そうだね、練習しよう! この動画は共有するから、ずれている部分を1つずつ修正していこう」


「はい、コーチ!」


 サクにゃん復活!

 白ネコミミもうれしそうにピョコピョコ動いております。

 我ながら良い仕事したなあ。


「あの~。カエくん? 私の番はまだですか~?」


 あ、やば。


「も、もちろん、今からメイメイの番だよ!」


「……忘れてたでしょ」


「まままままさか! さ、スタンバイして!」


「ほんとに~? 私の目を見て言えますか~?」


「良いから早く位置について! サクにゃん、ビデオ回して!」


 強引にスタートさせる。


「あ~もう、カエくんずるいですよ~」


 メイメイも慌ててスタンバイ。

 

 ミュージックスタート。

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