第33話 ここはメイド喫茶かな?
「カエちんはまた春さん泣かして遊んどるんかいな~。悪趣味やなあ」
シオセンセが片手をあげながら近寄ってくる。
「シオリさ~ん。カエデちゃんがいじめるんですよ~」
ハルルがシオに縋り付きながらおいおいと泣いている。
「人聞き悪いなあー」
今ハルルを追い込んでるのはボクじゃないよね? ここにいる悪ノリ3人組だよね?
「おや、三井先生。撮影初日からどうも」
洋子ちゃんが立ち上がって挨拶する。
監督に頭を下げられるとは……ホントに原作者なんだ。
「おはようございます~。うちの若いもんがお世話になっとるみたいで、監督、あんじょう頼んますわ」
シオも深々と頭を下げる。
「若いもんって。まあ若いもんだけどさあ」
だけど、自分もなっ!
「カエちんは無事アシスタントになれたんやな。よきよき」
シオがボクのスカートをめくりながらうれしそうに言う。
気軽にめくるんじゃない! 下履いてるから別に良いけどさ……。
「シオリさんが気を回すまでもなく、洋子ちゃんのお気に入りでしたよ♡」
なんだ、シオとマキはグルか……。
そうか、考えてみれば、主演女優が事前に原作者と顔合わせしてないわけないよね。
「もちろん気に入るに決まってるじゃないか! こんなにかわいい子はオハナ以来だな」
洋子ちゃんもボクのスカートをめくりながらニヤニヤしている。
あのさあ。アシスタントだからって何してもいいわけじゃ……まあもう良いけどね。
「え~、わたしはかわいくないの~? プンスカプンプン!」
マキは……ちょっと放っておこう。
「花さんもアシスタントしてたことがあるんですよね」
「オハナが現場マネージャーのうちはずっとアシスタントをしてもらってたからな。気が利くし、ハキハキしゃべるし、なによりリスみたいでかわいいからな」
前半はわかる。
でもリスみたい、かな?
どっちかというとシュッとしていて美人系なんだけど。
「ああ。あれだ。ケータリングにお菓子を置いておくと際限なく口に放り込んでな。リスみたいに頬が膨らむんだ。それがたまらん……」
洋子ちゃんが思い出しニヤケをしだす。
「あーね。よくわかります」
たしかにお菓子を食べてる時だけ急にかわいい。動物的な庇護欲を感じる。
「って、ハルル? いったい……なにしてるの?」
「え、にゃんでもない……よ?」
そんなにたくさんこんにゃくゼリーを口に入れたら喉に詰まって危ないよ?
いくら若くても窒息事故は起きるからね?
「うぅ……シオリさん……」
「なんて不憫な子~なんやっ! 春さん、うちがなんとかしたるからな?」
シオがハルルの頭を撫でて慰めている。
なんかわからないけど、何とかしてくれるらしいから良かったね?
まあいいや、シオに任せておこう。
「私も着替えてきましたよ~」
メイメイとマキが向こうから走ってくる。
めめめめめメイド服、だと⁉
「どどどどどどうしたの、メイメイ!」
お宝写真が撮れる!
唸れ端末! 限界まで連写しろっ!
「カエくんのを見てたらうらやましくなっちゃって~。どうですか~?」
メイメイが、短いスカートの裾をちょこんと持ってお辞儀をする。
「かわいすぎるっ! 天使なの? 天使メイドなの⁉」
メイド服だって、やっぱりボクなんかよりもメイメイに着てもらいたいよね。そうだよね。マキさんと並んでも遜色なし! いや、足の長さ的にはメイメイのほうが勝っている! 胸とウエストは……がんばろう!
「一応……私もいるんだけどね……」
メイメイの後ろからMINAさんが顔を覗かせる。
「ちょっと、なに……してるんですか……」
現役モデルがメイド服は反則でしょう!
なんかもう、コスプレとは違う概念じゃん?
「ヘン、かな?」
MINAさんがやたらと自分のお尻の辺りを気にしながら尋ねてくる。
「いや、ヘンではないけど……しいて言えば……足出すぎ?」
膝上、何十センチなのよ、それ。
校則違反で捕まりますよ!
「あと後ろ、何を気にしてるの?」
MINAさんの背中側に回ってみる。
あー、これか。
リボンがほどけかかっていたので結びなおしてあげた。
「ありがと~。なんか腰のリボンが長くて……ほどけたらそれがお尻に触って気持ち悪かったのよね。さすが代理ちゃん、気が利くわね~」
「私だけ……メイド服着てない……ああああああああああ!」
ハルルが1人、絶望していた。
「うちも着てへんから大丈夫やで……って聞いとらんか」
シオが肩をすくめる。
いやいや、お手上げ、みたいな感じでこっち見ないでもらえます? ハルルのことは何とかしてくれるって言ってませんでしたっけ? もうボクには無理ですよ?
「ハルちゃん残念♡ もうそろそろ撮影始まっちゃうから、メイド服でご奉仕はまた今度ね♡」
マキが言う。
どことなく楽しそうなのは気のせいだろうか。煽るな煽るな!
「いや、うん。撮影始まるならむしろ、マキとメイメイはそのかっこうのままだとダメなのでは?」
あらすじ読んだ感じだと、メイド服は絶対違うよね。衣装は学生服なんじゃないの?
「しかたない。シナリオを書き換えて、学校ではなくてメイド喫茶のシーンにすれば、ギリ違和感ないか……」
洋子ちゃんがあごをさすりながらつぶやく。
ギリも何も余裕でダメでしょ。
ホント大丈夫か……。原作者を前によくそんなことが言えるよね。
「ギリいけんちゃうん?」
原作者ェ。
自分の作品は大事にしてくれよー。
「監督と原作者がふざけてくれている間に、2人とも早く着替えてらっしゃい!」
マキとメイメイの背中を押して強引に送り出す。
この現場、撮影が始まる前からマジカオス。
今のところボク以外常識人がいなくてやばくない?
マネージャー1人だと荷が重かったかも……ああ、せめて都がいてくれたら!