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第32話 メイド長と新人メイド

「お~、着替えてきたか~。良いじゃないか。メイド服、なかなか似合うな」


 秋岡監督、もとい洋子ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。

 メイメイたちの姿がない。どこへいったんだろう。


「楓~良いじゃないか~。オハナの言った通りなかなかいいぞ~」 


 洋子ちゃんはやたらと上機嫌で、頭やら背中やら足やらいろいろ触ってくる。

 何が花さんの言った通りのなのかはさっぱりなんだけど……。


「なるほど。良いじゃないか~。よし、そこに立って。写真撮るぞ」


 良いじゃないかしか言わないし……。

 ボクはされるがまま、棒立ちで写真を撮られる。壁際に立って正面やら側面やらの写真を撮られていると、まるで犯罪者の気分。超ミニのメイド服だけど。


「よし、マキも一緒に並べ~。合わせで撮るぞ~」


「は~い♡」


 マキがうれしそうにボクのもとに駆け寄ってくる。その時、スカートが翻って中が見えて……。


「ちょっと! マキ! 下! アンスコ忘れてる!」


 近寄ってきたマキに、小声で注意する。


「え~、カエデのエッチ♡ わたしは履かない派なの♡」


 そう言いながら自分でスカートをめくって見せてくる。


 下着がドエロい……しかも、ガーターベルトにニーソ……だと。マキさん、さすが大人……っ!


「カエデじっくり見すぎ~♡ そんな顔してたら私がいけないことしてるみたいじゃないの♡」


 見せてきてるのはマキ……って、洋子ちゃんがめっちゃ写真撮ってたー!

 うわー下着ガン見してるところ撮られてた! はずかしっ!


「よし、良いじゃないか~。満足した! マキ、あとは楓にアシスタントの仕事を教えてやってくれ」


「え~、わたしそろそろ撮影じゃないの? わたしはカエデと遊んでてもいいけど~、撮影スケジュール的に、今から紅茶の淹れ方教えたりしてて大丈夫~?」


 マキがボクのカチューシャをずらして遊んでいる。

 

 主役がそんなことしてて大丈夫なわけないでしょ……。


「まだセットの調整が押してるから平気だろ。今日はマキをメイド長に任命する!」


「わ~い、わたしメイド長! 新人メイドのカエデをビシバシ扱くぞ~♡ セクハラ三昧するぞ~♡」


 そう言って、背後からいきなり胸を鷲掴みにされた。


「やんっ……こら、マキっ!」


 ちょっと! 不意打ちで変な声が出た……。

 マキ、それはセクハラの域を超えてる!


「怒られちゃった♡ おわびに……いいよ♡」


 いや、目をつぶって胸を突き出してこないでくれる?

 ウェストがめちゃくちゃ細いのに、胸が大きい……ゴクリ……これが芸能人かっ!


「何が……良いのかしら……?」


 背後からドスの聞いた低い声。

 おそるおそる後ろを振り返る。


「や、やあ、ハルル。どこへ行ってたの? 元気だった?」


 無視。

 

 怖いよ……目がぜんぜん笑ってない。


「いったいどこから見て――」


「あらあらかわいらしいメイド服だこと。しかもこんな美人とお揃いでイチャイチャしちゃってまあまあまあ」


 怖い。

 ちょっとメイメイ見てないで助けて!

 楽しそうにムービー撮らなくていいから!


「おかえりなさいませ、お嬢様方。ダブルウェーブの新垣春お嬢様、夏目早月お嬢様、遠藤美奈お嬢様でございますね。お疲れでしょう。こちらへお座りください」


 マキが恭しく頭を下げる。


 すごい! なんかちゃんとしたメイドだ!


「え、あ、はい。ありがとうございます……」


 ハルルはぽかんとしてお礼を言う。すっかり毒気が抜かれてしまったようだった。


「本日はわたし十文字真紀がメイド長として、カエデが秋岡洋子のアシスタントを務められるよう教育してまいります」


 気品ある佇まい。

 これが女優の演技なのか……。


「ちょっとカエデちゃん……。誰なの? メイド長? 何?」


 ハルルが耳打ちしてくる。

 まあ、ちゃんと紹介しておこうか。


「えーっと、こちら、トリニティプロモーションの十文字真紀さんです。朝日ヒマリ役の。それとー、もともと洋子ちゃん、じゃなくて秋岡監督のアシスタント経験があって、ボクにそれをいろいろ教えてくれるメイド長ってことになってます」


 すべての情報をひとまとめにして説明してみた。

 案の定、ハルルとメイメイは固まってしまった。


「ちょっと脳の整理が追い付かなかったのだけど、質問しても良い? 朝日ヒマリ役ということは、今回の主役の方、よね?」


 1人何とか動けているMINAさんが質問してくる。


「は~い、そうで~す♡ わたしが今回の主演女優で~す♡」


 メイド長キャラに飽きたのか、素のマキが元気よく返事をした。


「そう、なんですね……。よ、よろしくお願いします……」


 さすがのMINAさんも若干引き気味だ。

 まあ、主演女優がこの感じは普通ないだろうからね。


「というわけで~、今日はわたしがつきっきりでカエデの手取り足取り熱血指導をしちゃうので~、ご安心くださいね~♡」


 マキがそう言いながら、ボクの背後から手を回して抱きついてくる。


「ちょっと! ダメッ! 離れなさい!」


 正気に戻ったハルルがマキの腕を取って引き剥がしにかかる。

 でもマキはなかなかに力が強く、簡単には剥がれない。


「なんで~♡ メイド長とメイドは一心同体♡ それにわたしたち親友だからずっと一緒なんだよ~♡」


「ししし親友⁉ カエデちゃん、どういうことなの⁉」


 ハルル、唾が飛んでるから。興奮しすぎだから。


「んーと、なんか……気が合って、意気投合して、親友、みたいな?」


 説明がややこしい。

 まあ、良いじゃない。せっかく友達になったんだし。


「ずるいわ! 私はマネージャーとアイドルの関係なのに、いきなり親友なんて……」


 初め怒っていたかと思ったら、急に淋しそうな顔をする。

 今日のハルルは情緒不安定だなあ。

 まあ、いきなり映画の撮影だから緊張するのも無理ないか……。


「よしよし、いったん落ち着こう? 仕事の時以外はハルルのことを友達だと思ってるからね」


「私たち友達? 仲良し?」


「はいはい、仲良しだよ。一緒に遊びにも行くじゃない?」


「そ、そうね! 仲良し!」


 ハルルがすっかり機嫌を良くして笑顔になる。

 ふう、なんとかなったか。


「ハルちゃん元気になりましたか~? カエくんは私のマネージャーさんだから、たまになら放課後友達にも貸してあげますよ~」


 ぎゃー! メイメイ、今そのマウントはやめてあげて!


「う、うん……。たまに……仲良し……」


 ああっ! ハルルのテンションがまた……。


「でも最初にデートしたのは私よね。マネージャーちゃんの初めての相手はわ・た・し♡」


 MINAさん、今ややこしくなるからそのテンションで入ってこないで。

 ハルルを見て! 空気読んで!


「でも、わたしがカエデの親友だからね♡ ズッ友~♡」


 あ、こら、マキ! どこに手を入れてっ……!


 まったく、みんなして絶対おもしろがってるでしょ!

 ああ、ハルルの様子がっ!


「う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁん」


 あー、ハルルが壊れてしまった。

 どうするのよ、これ……。



「お~お~、またいつものコントかいな。おもろいことやっとるやんけ~」


 そう言って現れたのは、大人気マンガ『朝日は西から昇る』の作者、三井栞先生だった。


 シオセンセ、登場するならもっと早く頼みますよ……。

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