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第30話 映画の撮影現場にて

「ここが映画の撮影現場かあ……」


 思わずキョロキョロ見回してしまう。


 今回の撮影場所は、首都圏の郊外にある巨大な撮影スタジオだ。

 広大な敷地の中に、屋内・屋外の撮影用施設が点在している。邦画、ドラマ、バラエティー番組など、たくさんの撮影で使用されているスタジオらしい。


「カエデちゃん。恥ずかしいからあんまりキョロキョロしないで」


 ハルルが小声でボクの袖を引っ張ってくる。


「せっかくきたんだし、いっぱい見ておかないと勉強にならないよ?」


「ここの芝生でお弁当食べたいです~」


 メイメイが青々と茂った芝生を指さす。


「おおいいねー。ロケ弁ってもらえるのかな⁉」


「あなたたち、相変わらず元気ね……」


 ボクとメイメイがはしゃいでいると、MINAさんがあきれたように笑った。


「MINAさんはこういう撮影慣れているの?」


 女優としてはまだそんなに実績がないと聞いてはいるけれど。


「ドラマで映像の撮影はいくつかこなしたけれど、映画は初めてよ」


 ほう、それでその余裕なのかあ。


「じゃあ同じ新人じゃん! 新人なら新人らしく、初々しくはしゃごうよ!」


 MINAさんの手を引っ張って、芝生へと強制連行する。


「ちょっと。こんなことしてないで、早く監督たちに挨拶に行かないとまずいんじゃない?」


「あ、そうか! 最初にアイサツに行けって、花さんにも言われてたんだった」


 やばい。

 忘れるところだった。


「ほら、メイメイ。いつまで遊んでるの? 早くアイサツに行くよ!」


「え~わかりました~」


「変わり身早いわね。代理ちゃん……ううん、マネージャーちゃんはいつ見ても飽きないわ~」


 MINAさんがうれしそうにボクの頭を撫でてくる。


 MINAさんはことあるごとにボクのことを子供扱いしてくるなあ。

 こうやってやさしい目で見つめられるのはぜんぜん悪い気はしないけどね。


「ちょっと! MINAさん! 私たちのマネージャーに気安く触らないでくださいませんか⁉」


 ハルルがボクを抱きかかえるようにしてMINAさんから距離を取る。


「いいじゃないの。今日はクラスメイト4人で楽しくやりましょう♡」


「ハルちゃん。カエくんは私のマネージャーさんですよ~」


「わ、わかってるわよ!……私が悪かったですっ! みんなで仲良く……とにかく早く挨拶に行きましょっ!」


 ボクから手を離すと、ハルルは1人でノシノシと歩いて行ってしまった。


「うーん。今日のハルルは気が立ってるなあ。緊張してるのかな」


 ハルルを眺めながらぼんやりとつぶやく。


「そうでしょうね。私も緊張してるもの♡」


 MINAさんがボクの背中をバシバシ叩いてくる。


「痛いよ。MINAさんが緊張ねえ。ん、メイメイ、どうしたの?」


 メイメイが芝生の上でしゃがみこんでいた。


「早くいくよー。おーい?」


 反応がない。

 まさか、緊張でお腹痛いとか⁉


 慌ててメイメイのもとに駆け寄る。


「ありました~!」


 メイメイが大声を出していきなり立ち上がった。


「おわっ⁉」


 あごに頭突きを食らう寸前のところで何とか回避!


「カエくん、見てくださいよ~。四つ葉のクローバーですよ~」


 メイメイの弾んだ声。

 その手には小さな四つ葉のクローバーが握られていた。


「四つ葉のクローバーかあ。それは良かったね。これで撮影成功間違いなしだ!」


「幸運ですよ~。もしかしたら主役になれちゃうかもしれないです~」


 光にかざしながら、四つ葉をクルクルと回す。


「そうなったらいいなあ。いつかメイメイが主役の映画を見たいよ」


 ボクは本気でそう思ってる。

 メイメイはいろいろ趣味、いろいろな考え方を持っている。だからこそ、良い演技ができる人なんだとボクはわかっている。

 それをどこかで世間に知ってもらえるようにするのがボクの仕事だ。


「2人とも~! おいていくわよ~」


「今行くー」


 MINAさんの呼びかけに答えてから、ボクはメイメイの手を引いて芝生を駆け下りた。



* * *


「ダブルウェーブから来ました。遠藤美奈、新垣春、夏目早月です。本日はよろしくお願いいたします」


 ボクに合わせて全員が深々と頭を下げ、アイサツをする。


「はいよろしく~。オハナ……黒川花から話は聞いている。私は新人女優のお守りは得意だから、気になることがあったら遠慮なく声をかけろよ。みんなピカピカに磨いて大空へ羽ばたかせてあげるからな」


 秋岡監督はボクに向かってにこやかに手を差し出し握手を求めてくる。

 ボクはそれに応えて右手で握り返した。


 秋岡洋子監督。

 前情報から勝手に偏屈なおばさんなのかと思っていたけれど、想像していたよりもずっとやさしそうだ。緊張している新人たちにしっかり挨拶してくれるなんて好感が持てる。しゃべり方は豪快だけど。


「花さん、黒川花のことはご存じなんですね」


「ああ、もちろんだとも。オハナが新人マネージャーだった頃に、あなたと同じように新人女優を連れて現場にやってきた。その時からの付き合いだな」


「そうだったんですね。花さんにも新人マネージャー時代が……」


 今はとても立派で貫禄のある……30歳まで秒読み。彼氏募集中の婚活中……がんばれ花さん。


「オハナがあなたのことをくれぐれも頼むと、わざわざ連絡を寄こしてきたな。あなたが七瀬楓さんだよな?」


「はい、ボクが七瀬楓ですが……。くれぐれも頼みたいのは、後ろの3人でして……」


 花さん、連絡はちゃんとしてよ……。

 ちょっとでもセリフのある役をもらえるようにお願いするとかさ!


「なるほどな。オハナの言う通りおもしろい子だわ。うん、気に入った! 楓、あなた今日1日、私のそばでアシスタントをしなさい。私が満足できたら……そうだな、ちょっと脚本を書き換えさせて、出番を増やすのも検討しよう」


 秋岡監督がにやりと笑った。


「なん、ですって⁉」


 ボクがアシスタントをしたらみんなの出番が増える⁉


「やります! アシスタントやらせてください!」


 こんなチャンスはまたとないぞ!

 出番が増える! もしかしたらセリフも⁉

 やったぞー!


「ちょっとカエデちゃん! そんな安請け合いして、大丈夫なの……?」


 ハルルが小声で耳打ちしてくる。


「大丈夫だって。花さんからも現場で起きたことは任せるって言われてるし。みんなの出番を増やすためにがんばるよ!」


 ハルルの肩を軽く叩く。

 後ろの2人に向かってガッツポーズを取る。


「カエくんありがとうございます~。私も応援してます~」


 メイメイがうれしそうに手を振っている。


「お、アシスタント引き受けてくれるんだな? じゃあこの契約書にサインして~」


「契約書ですか? ずいぶん本格的な……」


「口約束でもし私がタダ働きさせたら困るだろ?」


「え、ええ。まあそんな心配はしてませんでしたが……それなら」


 今日1日アシスタントをしたら出番を増やすように調整を検討する、というようなことが小難しい文章で書かれた契約書になんとなくサインをする。

 秋岡監督はまじめな人なんだなあ。


「サインできたな。それでは今から楓は私のアシスタントだ。早速で悪いがまずはアシスタントの衣装に着替えてきてもらおうか。……マキ、更衣室へ連れて行ってあげなさい」


「はい、わかりました。洋子ちゃん」


 洋子ちゃん?

 聞き間違いか?


 ボクは、メイメイとハルルとMINAさんをその場に残して、マキさんと呼ばれた子の後ろをついていく。

 廊下を2回曲がったところですぐに更衣室に到着した。


「マキさん、で良いですか? マキさんもアシスタントさんなんですか?」


 マキさんはずいぶん若そうだ。

 10代、だよね。ボクたちと同じくらい?

 グレーのスウェットの上下を着て、寝ぐせでぼさぼさの髪。さっきまで寝ていたのかと思うくらいラフなかっこうだ。瓶底の分厚いメガネをかけていて、あまりその表情も伺えない。


「私ですか? 私は十文字真紀(じゅうもんじまき)と言います」


 真紀さんは、ぺこりとお辞儀してから、分厚いメガネを外した。


 え、うそ、何この美人……。

 

「改めましておはようございます。朝日ヒマリ役の十文字真紀です。よろしくお願いいたします」


 えええええええええ⁉

 今回の映画の主役の人じゃん!

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