第29話 どんな映画に出演するんだろう?
「私たちが映画に⁉」
「映画に出られるんですか~。うれしいです~」
ハルルもメイメイも驚きつつも喜んでいた。
「うれしいよね! 出演時間は短いだろうしセリフもないけど、こういうのも経験だからね! いつか主役を張る時に向けて現場経験を積もう!」
2人は大スターになる。
若い子たちがみんな2人に憧れて、ハルルやメイメイみたいになりたいって真似をするような、そんなスターになっていくんだ。
そのための偉大なる第一歩!
「デビュー作がこの映画だったんだなーって、みんなが振り返るスタート。ステキな話だね」
「映画の出演にはどんな準備をしていけばいいのかしら……。演技? でもどんな?」
ハルルが首をかしげてこっちを見てくる。
「うーん。一応あらすじが書かれた概要の資料は受け取ってるから、目を通してみる? 2人はセリフがないから台本はもらえなかったよ」
そう言って、A4の紙1枚を2人に手渡す。
今回の映画は、大人気少女マンガ『朝日は西から昇る』の実写作品だ。
中身はこんなストーリーだ。
主人公の朝日ヒマリ(16)は、溺れかけている子猫を助けようと川に入るが、自分自身も溺れて生死の境をさまよう。
ヒマリが病院で目を覚ますと、そこは元居た世界とは違っていた。
「太陽が西から昇って東に沈むのが常識」とされる鏡の世界だった。時計の回り方も逆、文字も鏡文字。人間も動物もすべて女しかいない世界(映画オリジナル)
困惑しながら看護師や医者に話しかけるヒマリ。しかし、ヒマリを見るなり、医者たちは問答無用で襲い掛かってくる。
「ヒマリ! こっちだよ!」
なんと溺れかけていたところ助けた子猫が人の言葉をしゃべったのだ。
助けた猫に連れられて必死に逃げるヒマリ。どうやらヒマリがこの世界の人間ではないとバレると命が危ないらしいことがわかる。
ヒマリは子猫のチィタマは、別の世界の人間であることがバレないように隠しながら、一緒に元居た世界に帰る方法を必死に探る。
鏡の世界で触れ合う家族、幼馴染、友人、そしてクラスメイト。
これまで分かり合えていたと思っていた家族や友人たちの隠れた側面があらわになり、だんだんとヒマリは追い込まれていく。
子猫のチィタマもつかまってしまい、とうとうヒマリは1人に。
途方に暮れるヒマリ。
そこでヒマリと同じようにこの世界に迷い込んだ少女ナズナと偶然出会うことになる。
2人で協力しながら子猫のチィタマを助け、元居た世界に帰るためにもがき苦しむ。
そんなちょっぴりホラーな青春ファンタジー。
「2人はヒマリのクラスメイトを演じることになるらしい。教室のシーンでちょっと映るかもね」
「なるほど。ホントにエキストラなのね」
「私、朝西の原作マンガ持ってますよ~」
メイメイが言う。
「へえ、原作読んでるんだ? それなら雰囲気はつかんでる感じかな?」
「はい~。ヒマリちゃんは家族想いのとってもやさしい子なんですけど、外ではあまり人とはお話できない人見知りさんなんです。だから友達が少なくて、いつも動物や植物とお話ししているような子だったんですよ」
「うーん。ちょっと親近感を覚えて息苦しくなるね……」
「鏡の世界では人間は醜く、動物や植物は美しく描かれていて、ヒマリちゃんは鏡の世界では動物や植物とお話できるようになっていて、助けられながらなんとか逃げていくんです」
「風刺も入ったホラーなのかな?」
「聞いてるだけで、ちょっと怖い話ね」
ハルルが鳥肌の立った腕をさする。
ハルルは怖いのが苦手だからなあ。
「ラストはどうなるの? 元居た世界に戻れるの?」
ハッピーエンドなのか、そうじゃないのか。とても気になる。
「わからないです~。まだ連載は続いていますから、どうなるのかは作者の先生に聞いてみないと」
「連載中かあ。それなのに映画化って思い切ったね。もしかして、全部描き切るんじゃなくて、原作の途中までの映画化かもしれないね」
「そうですね~。第一部の鏡の世界編は終わってますから、そこまでかもしれないです~」
「えっ⁉ 鏡の世界以外にも別の世界があるの⁉」
鏡の世界から脱出して元の世界に帰るわけじゃないんだ⁉
マジ、どんな話なの⁉
「はい~。鏡の世界から脱出した先は、心の世界で~、みんな考えていることを黙っていられなくて全部しゃべっちゃう世界なんですよ~」
「え、すごく怖いわ……。鏡の世界より怖い……」
ハルルが身震いする。
「そうだよね。ハルルは妄想ばっかりしてるから、それが人にバレたら大変だ」
「し、してないわよ! そんなのたまによ!」
顔を真っ赤にして大声で否定する。
ハルルは考えていることが顔に出やすいから、心の世界でも普通に変わらないと思うな。素直で良い子だってみんな知ってるから大丈夫なのに。
「わりと長く連載しているマンガなんだね。何巻くらい出てるの?」
「今21巻です~。心の世界編が終わって、大人のいない世界編に突入したところです~」
「ま~た気になる世界が出てきた。ヒマリちゃんは元の世界に帰れるのかな……」
「世界観も絵もステキで、どんどん引き込まれてしまいますよ~。私もこんなマンガのシナリオを書いてみたいです~」
「絵だけじゃなくて、ストーリーでも魅せる作品は惹かれるよね。メイメイもがんばってね」
アイドル業に学業に忙しいのに、投稿小説のほうもしっかり続けられててえらいな。
「はい~。シオちゃんにアドバイスをもらいながらがんばってますよ~」
「最近シオと会えてないな。なんかいろいろ忙しそうだね」
「そうですね~。朝西の脚本チェックが大変って言ってました~。なかなか私の小説を見てもらう時間がなくて困ってますよ~」
メイメイが小さくため息をつく。
「ん? シオは今回の映画の脚本に絡んでるの⁉」
「はい~。原作者が映画化の脚本をチェックするのは当然のお仕事かと思います~」
ふむ。なるほどね?
手元の端末でネット検索をしてみる。
『朝日は西から昇る』作者:三井栞
ふむ。なるほどね?
連載マンガ……。しかも映画化するほどの人気作を……。
シオセンセ、マジでシオセンセじゃん。