第28話 ビッグニュースが舞い込む
「え? 今なんて?」
ねえ、花さん! 今なんて言いました⁉
ちょっと空耳だったかもしれない。今すごくとんでもないことを言われたような。
「だから、春と早月に映画出演の依頼が来たわ」
「えええええええええ映画ーーーーーーーーーー⁉」
ボクはひっくり返って驚いた。
空耳じゃなかった!
「ちょっと驚きすぎよ。そんなに大したものではなくて、うちの親会社が出資している映画の端役よ。期待してるところ悪いんだけどセリフはないわよ?」
「それでも映画ですよ、映画! 銀幕デビューですよ!」
とんでもないビッグチャンス!
「銀幕って。事務所の新人にこういう枠が回ってくることは珍しくないわ。でも過度な期待はしないこと。エキストラとほぼ同じ扱いだから、変に意識せずに、現場経験を積むくらいの気持ちで行きなさい」
「承知いたしましたっ!」
でも映画ですよ、映画!
すごいなあ。
「あれ? でもなんでハルルとメイメイなんですか?」
「それは……」
素朴な疑問を投げたつもりだったのに、花さんがとても言いにくそうにしている。
「え、っと聞いちゃいけませんでしたか……」
「本人たちには言わないと約束できる?」
「あ、はい……」
あんまり良くない話かあ。お金、か?
「……監督の趣味よ」
うわー、マジで良くない話だったわ……。聞かなきゃ良かったわー。
「それ、大丈夫なやつです? なんかほら、枕営業とか強要されたり……」
「まさか。その心配はないわ。そういうことではないのよ。えっと――」
かなり言いにくそうにしていたが、渋々説明をしてくれた。
監督の名前は、秋岡洋子さん。52歳。
これまで手掛けた作品は、一般受けというよりは少しとがった作品が多いらしい。名前がめちゃくちゃ売れている映画監督というわけではないが、ある方面からは絶大なる支持を受けている。
どんな層の支持かというと……秋岡監督の作品の特徴を聞いてピンときた。そう、どの作品にも女性しか出演しないらしい。
どんな原作の映画化を手掛けたとしても、主役からエキストラまですべての出演者が女性で構成されるのだそうだ。ちなみにスタッフもすべて女性という徹底ぶりだ。
「男性嫌いは元夫との確執によるものらしいわ」
なるほどね。
ちなみに元夫とは、昔は2枚目俳優として、現在は名脇役として、日本映画を背負って立つ大御所俳優だ。元ビッグカップルの意地の張り合いといったところなのだろうか。詳しい事情はわからないけれど。
「それで、なんでハルルとメイメイ何でしたっけ」
「秋岡監督は……若くてきれいな新人をたくさん使いたがるのよ……それと……現場の雰囲気をみてアドリブを入れることが多くて……まあそれは追々わかるからいいわね」
「でも、ウーミーやサクにゃんやナギチも若くてきれいなんですけど……」
ウーミーとナギチは18歳だけど、サクにゃんは15歳だしなあ。年齢で決まったってわけじゃないよね。
「言い忘れていたのだけれど、うちの事務所からもう1人、遠藤美奈も今回の映画に参加するわ」
「MINAさんが⁉」
遠藤美奈。
ボクたちと同じクラスで、人気モデルのMINAさんだ。
めちゃくちゃ美人で、しっかりしているし、面倒見がいい。ボクにもやさしくしてくれる。
MINAさんと一緒に仕事ができるのはうれしいなあ。
「モデルとしてではなく、女優としての活動だから、遠藤美奈名義になるわ」
「女優としての活動も始めてるんですね。すごい!」
「美奈は新人枠ではあるのだけれど、春と早月と違って、役名があって少しだけど、セリフももらえる予定よ」
「おお、さすが芸能界の先輩! これで世間にも認められて女優としての活躍もありそうですね!」
「芸能界はそう簡単ではないのだけれど、チャンスではあるわね。でもそこは……≪The Beginning of Summer≫のマネージャーとして悔しがりなさい」
花さんが少し険しい表情でボクのことを見る。
「え、はあ、たしかにそうですね……。映画に出させてもらえるだけでうれしくて、MINAさんのことも知っているし、がんばってほしいなと思ってしまって。もっと貪欲にいかないといけませんね」
「今回アイドルの現場から離れて、役者が集まる現場に行く。つまり、いつもとは違う業界に行くと言っても過言ではないわ。マネージャーとして、やれることは多いわよ」
アイドル業界でも新人だから、コネやつながりを持てるほど活動できていない。でも、役者の界隈となるともっと未知の領域になるわけで、何とか次の仕事につながるようなきっかけを作らないといけないってことだよね。
「爪痕を残せるようにがんばってきます!」
「しっかり頼むわよ。都は別件で参加できないから、楓、あなたが春と早月を見ることになるわ」
「おお、2人ともボクが。がんばります!」
「よろしく頼むわね。秋岡監督は……なんでもない。とにかく、撮影現場ではイレギュラーなこともいろいろ起きると思うわ。すべてあなたの判断に委ねます。臨機応変に対処しなさい」
「≪The Beginning of Summer≫の未来のために、粉骨砕身の気持ちでハルルとメイメイが活躍できるように尽力します!」
「かたいわね……。まあいいわ。2人にはあなたから伝えなさい。都には私から言っておくわ」
いやー、それにしてもいきなり映画かあ。
エキストラ出演だとしても名前がスタッフロールに載るんだよね。すごいなあ。
どんな映画かは聞けてないけど、女の子ばっかりの現場なら、まあ、危険はないかな。
でも2人の演技が監督の目に止まって「なんだあのかわいい子たちは⁉ エキストラで使うのはもったいない! 台本を書き換えて、重要な役を与えよう!」ってなるかもしれないし!
早いところ映画の台本を入手して演技の練習をさせたいな。