第22話 最悪の空気の中、生配信が始まる
「は~い、みなさんこんにちは!≪The Beginning of Summer≫です」
生配信が始まった。
……始まってしまった。
あの後5人はお互いに口を利くことなく、ただただ無言のまま準備を終え、いつもの円陣もなく、生配信が始まってしまった。
ホント頼むよ……。
とりあえず座席順はいつも通り。前列は左からハルル、サクにゃん。2列目は左からナギチ、ウーミー、メイメイ。
そしてみんな、どことなくぎこちない感じでカメラに向かって手を振る。
“待ってました!”
“動画いつも見てるよ”
“初参加です”
“約1カ月ぶり!”
“みんなかわいい”
“やっぱり生がいい”
ファンの人には異変に気づかれていないか……。ボクの考えすぎかもしれない。
一旦このまま様子を見よう。
「ハルちゃん、今日は私たち何をするんですか~?」
台本通り、メイメイがハルルに振る。
「え~っと、今日は、配信タイトルにもあるように『【30分限界チャレンジ】○○できたらご褒美獲得!』という内容でお届けしたいと思います!」
ハルルがタイトルの書かれたフリップボードを掲げながらしゃべる。
「サクラ)事前にSNSでお題のアイディアを募集していましたが、みなさまからいただいたアイディアは、このゴールデンに輝くお題ボックスの中に全部詰め込んでいましゅ!」
サクにゃんの噛みキャラはどこまでいけるかな?
あと、自分の名前のところは読まなくていいからね。
「今回のチャレンジ内容がどんなものになるかは、この場でお題ボックスからくじを引いて決定するという、この先を誰も予測できないドキドキの生配信になる予定ですわ」
「そうなのね。それはとっても楽しみね!」
ナギチがさわやかなコメントを普通のテンションで言う。その瞬間、ハルルが吹き出して笑いだす。
「ぶふっ……ちょっとタイムタイム! 収録一旦ストップで!」
何かがハルルの笑いのツボに入ってしまったようだ。
「春さん、これ生配信なのでカットはちょっと……」
サクにゃんがオロオロしている。
“なんだハプニングか?”
“ハルルどうした”
“放送事故?”
“しばらくお待ちください”
“カメラ前で何かあったか?”
“いやナギチだろwwwおまえキャラどうしたwwwwww”
“知らんのかwww最近wキャラ変したwww”
“マジ普通に美女じゃんwww誰だよおまえw”
“数日前だからキャラ変知らんやつもいるかw”
“僕のアニーはどこ?どこ?”
“アニーマイラブ”
“渚って美少女だったんか(殴)”
“こういうのって配信では触れずに進むもんなのか”
“わざわざキャラ変しました、とは言わんだろw”
ハプニングでめちゃくちゃコメントが伸びている。
止めずにこのまま様子を見よう。これも生配信ぽくていい。
「ハルにゃんどうしたの? 何かおもしろいことでもあったの?」
ナギチが不思議そうな顔をしながらハルルのほうに視線を送る。
いや、コメント見て! 真実を確かめて!
「ナギサ……髪型は良いのよ。前のパーマもかわいかったけど、今のストレートもかわいいから好きよ。でも……そのしゃべり方! ぶふふっ」
またツボに入ったのかハルルは笑いだす。
いや、言いたいことはわかるけどね?
“めっちゃ普通に触れてきたw”
“言いにくいことを生配信でwww”
“なんで標準語なんw”
“【30分限界チャレンジ】渚としゃべって笑わなかったらご褒美www”
“もうタイトルコールで笑ってもうてるやんw”
“ダメだ今日すでに神回だわw”
「私、埼玉県出身なのよ! 関西弁も金髪パーマもキャラ作りの一環だったの!」
ナギチが顔を真っ赤にしてぶっちゃける。
「良いじゃないですか~。ナギサちゃんエルフみたいでかわいくないですか~?」
メイメイがイスから立ち上がって、ナギチの耳を後ろから引っ張った。
「サッちゃんやめ~や。恥ずかしいじゃない」
“お?関西弁がもどって?お?お?”
“エセ関西弁なのは周知の事実”
“堂々とキャラづくりと言われると逆に好感持てる、、、か?”
“言われてみればエルフっぽいな”
“顔めっちゃ整ってるのに今気づく”
“顔ファン増えちゃうな”
“アニーどこー?”
“アニーは死んだ”
“エルフにも名前つけようず”
「渚さんのために動くエルフ耳を作成します!」
サクにゃんが宣言する。
「チップを入れ替えるだけなら私でもできるけど……耳がもにょにょ動いたら気味悪くない?」
「渚さんなら……大丈夫です!」
「どういう意味よ⁉」
ナギチが立ち上がる。
「ナギサちゃん、座ってくださいよ~。そろそろ限界チャレンジ始めましょうよ~」
メイメイがナギチの袖を引っ張って座らせる。
進行できてえらい。
「そうね! ごめんなさい。そもそも私が脱線させてしまったわね。時間も押してるのでさっそく今日のお題を引きましょう!」
ハルルが慌てて進行する。
ボクはフリップに『5分遅れ』と書いて、みんなに見せる。
まあ、5分くらいなら遅れたところで、後ろの放送枠がみっちりつまっているわけじゃないし、ちょっと謝ればそれで済むんだけどね。
「はい、お題の候補がたっぷりつまったボックスはこちらに!」
サクにゃんがボックスを上下左右に振って、中に紙がたくさん入っていることをアピールする。
ガサガサと紙が擦れあう音をマイクが拾う。
「さて、記念すべき第1回限界チャレンジは何が選ばれるでしょうか⁉」
「さっそくわたくしがボックスからお題を引きますわ!」
ウーミーが静かに席を立つ。
さあ、台本上の最初の盛り上がりどころ、の予定!
ウーミーがサクにゃんの真後ろに立つ。サクにゃんの頭の上から覆いかぶさるように手を回して、その膝の上に置かれたボックスの中に手を入れようとする。
ウーミーの胸が、ゆっくりと時間をかけてサクにゃんの頭の上に乗っていく。
ウーミーの胸とサクにゃんのネコミミがつぶれて一体化していく様子を、ぜひスローモーションでお楽しみください!
感想は『#海桜』でお願いしまーす!
そうです、ボクの演出ですけど何か⁉
“まじか”
“マジ⁉”
”けしからん”
“そうはならんやろw”
“すごくすごいです”
“立派!”
“家宝にします!”
“好きです”
“海桜尊い!尊い!”
“サクラの表情マジ好き!”
“今日のハイライト⁉”
盛り上がってる!
狙い通り、やったぜ!
(かえでくんが喜んでいるならそれでいいです)
レイ……そんな目で見ないでよ……。ファンの人も喜んでるし……。
ウーミーがボックスから1枚のくじを引き、ゆっくりと逆再生のように起き上がっていく。つぶれてくっついた胸とネコミミがゆっくりと離れていき、形を取り戻していった。
「お題引けましたわ。厳正なる抽選の結果、今回限界チャレンジに選ばれたお題はこちらですわ。春さん発表お願いしますわ」
ウーミーは小さくたたまれた紙切れを高々と掲げた後、ハルルに手渡した。
ドラムロール!
ポチっとな。
『どぅるるるるるるるるるるるる……ドン!』
「はい、今回の限界チャレンジのテーマは『目隠しして、かき氷の味を全員当てられたらご褒美獲得!』に決定しました~」
「かき氷です~」
「もう秋なのにかき氷ですか⁉」
「がんばりますわ!」
「スイーツ対決なら私の出番ね!」
おお、季節感はあれだけど、わりと盛り上がりそうな……どうなんだろう。
シオもいないし、ボクがルールを書き出しておこう!
「レイ、食堂に行ってかき氷の手配を! ボクはこっちでルール作りしておくから」
「わかりました。シロップが何種類か必要ですね。集められるだけ集めてきます」
レイがスタジオを飛び出していく。
よし、がんばりますか。