第20話 オンライン個別トーク会がない週。生配信がある週!
今週の土日はオンライン個別トーク会がない週。
「でも、やっとまわってきた【30分限界チャレンジ】の生配信枠!」
「なかなか順番が回ってこなくて忘れられているのかと思ったわ」
ハルルが興奮気味に言う。
「自己紹介をした初回配信からどれくらい経った?」
「1カ月以上経ったわ。私、花さんに確認したのだけれど、スポフェスやトーク会があるからこの日程になったらしいのよ!」
ハルルが端末でスケジュールを確認していた。
「でもなあ、今日はシオとウタがいないんだよね。ちょっと不安だなあ……」
「仕方ないわよ。2人とも別件で忙しそうだもの」
別件かあ。
たぶん研究の都合ってことだよね。
「2人の分までわたしたちでがんばりましょう。が、がんばるんやで」
レイはいつも以上に気合が入っている様子だ。
「うん、でも……別にシオの代わりに関西弁にはならなくてもいいんじゃないかな?」
「そうですか……。必要ならしおりさんのコスプレを……」
「そうするとシオはいるけど、レイがいなくなっちゃうからね」
「奥の手を」
「今日は大丈夫だから!」
「そうですか。わかりました」
レイは少し残念そうにしていた。
危ないなあ。
そんな切羽詰まっていない状況で奥の手を出されると、フォローのしようもなくなるからやめてよね。
もはやコスプレしたいだけになってるよね。
「おほんっ。みんな! 聞いてくれる? 今日の段取りだけれど!」
都が大きめの声で呼びかける。
「都、まだ全員そろってないかな。というか、ハルル以外いないんだけど」
「あら? さっきまでみんないなかったかしら?」
都がキョロキョロ周りを見渡す。
「いや? まだハルル以外はまだ一度も顔を見せてないと思うよ」
「まだ集合時間まで時間もありますからね」
集合時間は生配信開始の1時間前だ。
打ち合わせやらメイクやらをそこから一気にする予定。
まだ集合時間までに30分弱ある。早めに集まる人がボチボチ現れだす、くらいの時間帯だろう。
「都どうしたの? 集合時間勘違いしてた?」
めずらしいこともあるものだ。
なんだか普段の都っぽくないな。
「ミャコさん! すごい熱よ!」
ハルルが叫ぶ。
都のおでこに手を当てて、熱を確認していたようだった。
「え? 熱? 体調悪かったの⁉」
言われて見てれば、都の顔は赤かった。体調が悪くてふわふわしていたのか。
「一旦医務室へ行こう! 熱があるなら無理せずかいて
「ちょっと体が熱いくらいだから大丈夫よ。咳もでていないし」
そう言って、都はガッツポーズをして見せるが、額からは汗がにじみ出ていた。
もうわりと涼しくなってきていて、過ごしやすい陽気だというのに、だ。
「レイ、悪いけど、都を医務室へ連れて行ってくれる?」
「わかりました。ここはかえでくんにお任せします」
「任されました。配信開始までに戻ってきてくれるとうれしい」
あとは念話で連絡を取れれば何も問題ないよね。
(そうですね。わたしたちの絆通信があれば大丈夫です)
絆通信? なんかオシャレな名前だけど。
(念話というのはあまりかわいくないので、オリジナルの名称を考えてみました)
絆通信ね。まあいいんじゃないの?
「ちょっと解熱剤をもらったらすぐ戻ってくるわ。楓、それまでお願いね」
そう言って気丈に振舞っているが、都はテーブルに手をついて、やっと自分の体を支えている状態だ。
「はいはい。先生が良いって言ったら戻ってきてね」
まあ、今日は安静かな。
レイが都を連れて配信スタジオを出ていくのを確認。
「ん~、たぶん都は無理かな。ちょっと2人だときついから、花さんにヘルプ頼むね」
「そうね。私、みんなに早めに集まるように集合かけておくわ」
ハルルがそう言いながら他の4人にメッセを飛ばしている。
急にわりと切羽詰まりだしたな。
* * *
「というわけで、今日のカメラマンの花さんです。みなさん拍手! パチパチパチ」
予定集合時間の15分前。
緊急招集に応じて、メイメイ、サクにゃん、ナギチ、ウーミーが集合したところで事情を説明した。
「カメラマンとディレクターとアシスタントがいればギリギリ何とかなる、かしらね?」
若干不安そうな顔をしながら、ハルルが首をひねっていた。
「生配信だから、基本カメラで様子を撮るだけだし、カメラマンの腕がすべてかな」
「一応がんばっては見るけれど、栞みたいなスイッチングを期待されてもそこまではできないわよ」
花さんも不安を覗かせる。
「花さんは万能だから大丈夫!」
「せやせや。花ちゃんはなんでもできるから安心やで」
ナギチが囃し立てる。
「放送事故がないようにだけ気をつけるわ……。ところで、渚。あなた今日の配信は関西弁で行くの? 標準語で行くの?」
「え……どうしようかな……」
ナギチが急にしおらしくなる。まだキャラ設定に悩んでいる様子だ。
「昨日そのかっこうで動画出してるよね? わりと評判いいじゃない。もう開き直ってエルフキャラで行ったら?」
「そうなんだけど……生放送でいきなりは……」
「渚さん! サクラはエルフ、良いと思いますよ!」
サクにゃんは全力の笑顔でグッドマークを出していた。
「もちろん私もいいと思いますよ~。とりあえずこれもつけましょう~」
メイメイがナギチに小さな箱を2つ握らせた。
ナギチが手を開いて中身をマジマジと確認する。
「なにこれ? カラコン?」
「そうですよ~。青い瞳のカラーコンタクトです~。エルフに近づいていきましょう~」
「大胆なキャラ変更だし、それくらい振り切ってもいいかもしれないわね」
ハルルも賛成している。
まあ、ボクもそれくらいやってもいいかなって思う。
「わたくしは、金髪仲間がいなくなって残念ですが、渚さんの新しいキャラクターの成功をお祈りしておりますわ」
ウーミーはあいかわらず若干淋しそうにしていた。
「というわけで全会一致でナギチは『関西弁禁止』『エルフキャラに全力振り』ということに決定します!」
その場にいる全員が拍手する。
良かったね、ナギチ!
「ちょっと~、みんなで私のキャラを勝手に……。でもいいわ! 今はカエちゃんに騙されて前に進むって決めたんだもん! ねっ?」
急にナギチがこちらに向き直り、ボクの手をそっと握ってくる。
「えっ、ナギサさん⁉ それってどういうことなの⁉」
「サクラにも詳しく話を聞かせてください!」
「わたくしにも詳しくお聞かせ願えませんこと?……そう、仲間として!」
一斉にみんながナギチに詰め寄る。
「え~ナイショ! カエちゃんが私のことを励ましてくれたから、私はカエちゃんのことを信じるって決めたの! ねっ?」
同意を求めてくるのはやめなさい。
こら、はずかしそうな表情でこっちを見てくるんじゃない!
明らかのこの場の空気が悪くなっていっているでしょ!
(かえでくん……ほどほどにしてくださいね)
はい……。
「みんな仲良しで楽しいですね~」
メイメイはニッコリと微笑んでいた。
花さんはやれやれとため息をついていた。
これから生配信なのに、どうするの、これ……。