表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/331

第19話 スタジオに知らない女の子がいる

 放課後、いつも通り練習場に行くと、知らない女の子が柔軟体操をしていた。

 あれ? レッスンスタジオ間違えたかな。


 一度部屋を出て、カレンダーと部屋番号をチェック。

 部屋は……合ってるな。


 もう一度練習場に入ってみる。

 気のせいじゃない。やっぱり知らない子がいる。

 ……体めっちゃやわらかいな。


 まさか新メンバー⁉

 こんな時に限ってまだ誰も到着していない。

 仕方ない……一応話しかけてみるかな。


「こ、こんにちはー」


「ん、こんにちは?」


 その子は開脚ストレッチをやめて、こちらに顔を向けてきた。


 うわっ、めっちゃ美人!

 大きくてパッチリとした黒目がちな目でこちらをじっと見てくる。小さな鼻、桜色の薄い唇。さらさらストレートな黒髪からちょこんと飛び出した耳が特徴的でかわいい。


「ん、そんなに見つめてどうしたの?」


「えっと、その……」


 なんて声をかけたらいいんだろう。

 緊張する。


「やっぱりヘン……かな?」


 美人さんが自分の髪の毛を指に巻いてくるくるいじりだす。


「え? 何が?」


「この髪……」


「え、っと……素敵だと思いますよ?」


「何で疑問形なの。カエちゃんがやれって言ったのよ?」


 ん? カエちゃん? うっそ、まさか⁉


「ナギチ……なの⁉」


「気づかないで話しかけてたの⁉ やだもう~」


 美人さん……ナギチは笑いながら足を畳んで胡坐をかいた。


「ごめん、ホントにぜんぜん気づかなかった……。いきなり練習場に超絶美人がいるから、新メンバーかもしれないと思って……」


「だから褒めすぎよ! ストレートにして色も黒にみたけど、どう、エルフっぽい?」


 ナギチは照れ笑いしながら、自分の耳を引っ張ってみせる。


「すっごい似合ってる! えーなにー。めっちゃいいじゃん! 写真撮らせて!」


 返事も待たずに端末のカメラで連写する。

 うわー、これはすごい!

 マジかー。みんなにシェアしよ。


 10人のグループに写真を投稿する。


「ちょっ、個人情報!」


『零:なぎささんナイスエルフ』


 さっそくレイからの返信。


『都:渚さんイメチェン⁉』


『桜:素敵です!』


『詩:やるじゃない』


『栞:すぐロードオブザリングの撮影準備をするわ』


『月:ナギサちゃーん日サロの予約しましょ~』


『海:素敵ですけれど、金髪仲間が減ってしまいましたわ』


『春:ナギサさん⁉ みんなのコメント見るまでわからなかったわ!』


 高速で全員からの反応が返ってくる。


『渚:これは違うのよ~。カエちゃんが無理やり……』


『楓:美人エルフ爆誕。勝ったなガハハ』



「ナイスエルフです」


 うぉ、レイ!

 急に音もなく現れた。平常運転。


「レイちゃん……私、これで人前に出ても大丈夫かなあ?」


 相変わらず自信なさげなナギチ。

 アニーより遥かに良いと思うよ!


「とても良いと思います。かえでくんの顔を見てください。鼻が広がっているでしょう? なぎささんを見て興奮しているんですよ」


「え、そうなの⁉ やだも~」


 ナギチが爆笑しながら背中を叩いてくる。

 ボクは思わず鼻を押さえて隠す。


 鼻が……ボク、そんな癖があるの⁉ 自分でも知らなかったんですけど⁉


「興奮とかそういうのじゃなくてね? ナギチはもともと美人だし! すっごい良いと思うよ!」


「2人ともありがと。そんなに褒めてくれなら自信持っちゃおっかなあ」


 そう言って微笑むナギチの顔は、まんざらでもなさそうな表情だった。


「花さんの許可は取ってるんだよね?」


「もちろんよ。ちゃんと事前に話を通してあります。賛成してくれたわ」


「それなら良かった。CDのジャケット写真の撮影はまだだし、大丈夫そうだね」


 あれ? でも先行配信のサムネイルは……まあ細かいことはいいか。どうせCDが出たら差し替えだろうし。


「わたしたちのソロユニット曲の雰囲気にも合いそうですね」


 レイが言う。


「せやな~。着物にはやっぱり黒髪やんな」


 ナギチが同意してうなずいた。


「そういえば2人のユニット曲は、やっぱり演歌なの?」


 そこを確認するのを忘れていた。

 メイメイによると演歌だという事前予想だけど。


「そうやで。演歌や。正式な演歌かはわからへんけど、演歌風?」


「デモを確認しましたが、こぶしをきかせて歌っていましたから、演歌だと思います」


「ホントに演歌なのかあ。あまり聞かないジャンルだから、何とも言えないけど、逆に新鮮ではあるね?」


「あーしはわりと演歌好きやから、プレイリストにも入ってるで」


 ほら、と端末のプレイリストを見せられても、演歌の曲名になじみがないので「そうなんだ」くらいの感想しか出てこない。

 だけど、男性アーティストの名前が多いね?


「わたしは音楽をあまり聞かないのですが……こんなリストです」


 レイが遠慮がちに端末を見せてくる。

 

 なんていうか、「アイドルグループの勉強をしてます」って感じのプレイリストだね。


「アイドルソング以外のジャンルも聴くと幅が広がるかもよ?」


「そうなんですね。演歌も聞くようにしてみます」


「お、演歌ならあーしがおすすめを紹介するで」


 ナギチが嬉しそうにしている。

 まあ、2人で演歌の勉強をしたほうが、ユニット曲にも生きてくるだろうし、がんばってね。


「ところでカエちゃんのプレイリストを見せてもらってないわよ?」


 ゆっくりとフェードアウトしようとしたボクの肩を、ナギチががっちりとつかんでくる。

 急に美人モードでしゃべりかけるのやめて? ドキッとするから。


「いや、ボクのプレイリストは別におもしろいものはないから……」


 じゃあ、と言ってその場を後に……。だが、大魔王からは逃げられない!


「良いからみせ~や。そういう流れやろ?」


「はい……」


 しかたなく端末を操作してからプレイリストを見せる。


「まあ、J-POP中心かな。月並みで面白みがないから見てもね、ハハハ。それじゃ」


 そそくさと端末をしまってその場を後に……。


「なぎささん、そのリストではありません」


 ドキッ!


「ほう? おもしろいのがあるんや?」


「一番下の『BGM4』というプレイリストがおすすめです」


「ちょっ!」


 レイ! なんでそれを!


「BGM4……こ、これは……自作のファイルか? ファイル名からだと内容がわからんな」


 はい……。


「ASMRですので、再生する時はヘッドフォンをつけてください」


 おお、神よ! お許しください。


「おおきに。どれどれ、ASMRか。初体験や」


 うきうきのナギチ。

 いや、もうホント許してください……。


「えっ、おわっ⁉ なんやこれ⁉」


 慌ててヘッドフォンを外すナギチ。

 再び恐る恐るヘッドフォンをつけるナギチ。


「ダミーヘッドマイクという特殊なマイクを使いまして、顔を嘗め回す音をですね――」


 ころしてころして……。


「へ、へえ……カエちゃんはこういうのが好きなんや?」


 ほら……ドン引きじゃん……。


「そうなんです。かえでくんのためにわたしが録音しました」


「これ、レイちゃんなんや?」


「そうです。わたしは3番目の頭を撫でる音が好きなのですが、かえでくんは8番目の――」


「レイ! それは!」


 ホントそれは口にしたらダメだからっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ