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第16話 パティシエなぎさのスイーツ講座1

「なんや~。それで2人してシュークリームを作りたいんか~。そかそか~」


 ナギチが腕組みをしながらうれしそうに何度もうなずく。


「いやね、ボクは別に……。メイメイがどうしてもシュークリーム作って写真をアップしたいって言うから……」


 ボクの言葉は尻すぼみに小さくなっていく。


「ええんやで。恋のシュークリーム、お姉さんと一緒に作ろっか。なっ!」


「そういうんじゃないから……」


 ホントそういうのじゃない……。


「まん丸の恋のシュークリーム作りますよ~」


 そして、めちゃめちゃ張り切っているメイメイがとても怖い。


「ナギチ、メイメイは……爆発するから気をつけて……」


「お、おう。せやな……。サッちゃん! 絶対にあーしの言う通りに作るんやで。今日はあーしがパティシエや! パティシエの言うことは絶対! ええな?」


 絶対やで。とナギチがメイメイの肩を強く握った。


 頼むで! 絶対やで!



「さ~て、『パティシエなぎさのスイーツ講座』今日も張り切って始めていくで~」


「わーパチパチパチ」


「ナギサちゃん先生! よろしくお願いします~」


「今日はゲストを招いてのスイーツ講座や。料理初心者の2人を紹介するで!」


 ついでに動画も撮りたいとのことで、ボクとメイメイはナギチのスイーツ講座の動画にゲストとして呼ばれたかっこうになった。

 ちなみにパティシエの衣装もちゃんと用意されていて、キッチンスタジオでの撮影だ。

 とっても本格的!


「『The Beginning of Summer』の夏目早月ちゃんや! よっ、雪月の姫!」


「は~い。羊の鳴き声は~(メイメイ)みんな元気~(メイメイ)メイっぱいがんばちゃうぞ。メイメイこと夏目早月です~」


 ノリノリの自己紹介。

 観客がいない時に1人で合いの手入れるのめっちゃ恥ずかしいんですけど……。


「もう1人紹介するで。我らの愛されマネージャー、七瀬楓ちゃんやで! よっよっ、代理ちゃん!」


「はい、こんにちはー。カメラに映るのは恥ずかしいけど、今日はがんばって作ります!」


 代理じゃなくて自分としてカメラの前で自己紹介とか、変な汗出るわー。


「よっしゃ。紹介も済んだところで早速スイーツ作りに入っていくで。今日は2人のたっての希望でカスタードシュークリームに挑戦や」


「わ~い。恋のシュークリームです~」


 メイメイが大きな拍手で応える。


「なんやその恋のシュークリームてのは?」


「えっと~。ないしょですよ~」


 まあまだ、曲名の情報は解禁されてないからね。

 ないしょです。


「シュークリームを上げたい恋の相手でもおるんかな? おっ? おっ?」


 ナギチがメイメイの背後に回って肩を揉みだす。


 絡み方が酔ったおっさんか。

 若い子に嫌われるぞ。


「はいはい。パティシエなぎさ先生! ウザ絡みは取れ高バッチリなので、そろそろシュークリームの作り方教えてくださいよー。ぜんぜんシュー生地が膨らまなくて困ってるんですよー」


 強引に調理をスタートさせにかかる。

 これ以上つっこんでも曲名の件をカットしないといけなくなるし。


「ウザ絡みて……。まあええわ! さっそくシュークリーム作り始めていくで~。まずはちゃんと手を洗い~な」


 ボクとメイメイは並んで手を洗う。

 肘までちゃんと石鹸をつけてきれいに洗ってーと。



「さて、今日のシュークリームは、初心者でも簡単! 電子レンジだけで作るシュークリームやで」


「おおー電子レンジだけ! それならメイメイにもできそ……電子レンジで……ひよこ……うっ頭が……」


 きっとボクは何か重大な過去を思い出そうとしている……。

 右目の奥がうずく……封印されし闇の力に覚醒しようとしているのか⁉


「大丈夫ですよ~。今日はちゃんとシュークリーム作りに全力です~」


 メイメイはガッツポーズで気合が入っている様子。

 うーん、まあさすがに大丈夫……かな?


「まずはカスタードクリームから作っていこか。卵の殻を使って、上手に卵黄と卵白を分けられるかな? 最初にやり方を見せるから、2人とも真似してみ」


「は~い。なるほど……黄身をつぶさないように……できました~」


「お~ええやん。2人とも上手やで。卵黄はこっちのボールに入れて~な」


 ナギチの指示通り、卵をうまく分けられたようだ。

 本来メイメイは手先が器用だからね。

 スタートは上々だ。


「砂糖を入れて~、薄力粉をふるいにかけながら入れていくで」


「ふるいってなんですか~?」


「粉と水を混ぜた時にだまにならないように、こうして薄力粉を細かい網目を通して均一にするんや。だまができるとなめらかなクリームやシュー生地にならなくなってまうからな。お菓子作りはこういう細かい作業をていねいにやるのがコツや。手を抜くと絶対おいしくできんから、ゆっくりていねいにな」


「わかりました~。おいしくな~れ、おいしくな~れ」


 メイメイが指示通りていねいに小麦粉をふるいにかけていく。

 いいよいいよー。

 ちゃんとできてるよー。


「あとは泡立てないようにゆっくりと混ぜてから牛乳を入れていくで。なめらかにな~」


 泡立てないようにていねいに……。


「先生、こんな感じでどうですか?」


「よしよし、そんなもんやな。早速電子レンジにかけていくで。30秒ごとにレンジから出してしっかり混ぜる。これをクリーム状になるまで何回か続けるで」


「なるほどー。何回くらいですか?」


「ま~だいたい7~8回くらいってとこかな」


 言われた通り、電子レンジにかけて、出して、かき混ぜて、また電子レンジにかけていく。

 なかなか根気がいる作業だけど、クリームのいい匂いがしてくるからがんばれちゃう。


「そろそろええと思うで。サラサラのクリームになっとるやろ」


「クリームです~。味見しても良いですか~?」


「冷やしてからのほうがええで。今なめるとやけどするしな」


「しゅ~ん。冷やしたら味見させてくださいよ~」


「香りはいい感じやし、冷えるのを楽しみしとき。30分ほど冷蔵庫で冷やして待つんや」


 ナギチはカスタードクリームを、ラップを敷いたトレイに流して冷蔵庫に入れた。

 1時間後かあ。


「よっしゃ。本命のシュー生地を作っていくで。ここからが楽しいところや!」


「わ~い。まん丸に膨らませたいです~」


「シュー生地を膨らませるのって難しいんだよね? どうやってやるとうまくいくの?」


 ボクの質問にナギチがにやりと笑う。

 待ってましたと言わんばかりの表情だ。


「おうおう。そんなに気張らんでも、最近の電子レンジは優秀やからな。電子レンジを信じて、ちゃんと規定通りの時間焼いて、取り出すだけやで」


「ホントにぃ? だってすぐしぼんじゃうんでしょ?」


「それは焦って取り出すからや。絶対うまくいく。そう信じてちゃんと焼き上がりを待つ心があれば失敗はしないんやで」


 ナギチは自信満々だった。

 経験者は語る、か。


「今回はさらに念を入れるために、薄力粉は2回ふるってもらうで。さ、始めようや」


「は~い。私がやりま~す」


 メイメイが手を挙げて、薄力粉係になる。

 ボクは、っと。


「カエちゃんはこっちや。バターを温めてや。ボールにしっかりとラップをして、水分を逃がさないようにするんやで」


 なるほど。水分を逃がさない。了解。


「よしよし。溶けたな。じゃあ、サッちゃんのふるった薄力粉としっかり混ぜていこか。ていねいにていねいに。恋のお相手は誰かいな~と。その人が食べるのを想像しながらていねいに混ぜていこ~な~」


「なぎさ先生には恋のお相手がいらっしゃるので?」


 ちょっといじわるしてみよう。

 どんな反応をするんだろう。


「パティシエなぎさちゃんはみんなの恋人やで~。世界中の人にシュークリームを配って歩いたるで~」


 女神のような微笑みを見せる。

 うーん。こういう揺さぶりには全く動じない人だなあ。大人だなあ。


「カエちゃんはどうなんや?」


「どう、とは?」


「シュークリームは誰に食べてほしいんや?」


「えっ、と……。まだいない、かな……」


「そっかあ。早ういい人が見つかるとええやんな」


 ナギチの目はとても穏やかだった。

 明らかに動揺したボクのことを責め立てたりはしなかった。


 ボクは……。

 本当にどうしたいのかわからない。


 頭に浮かんだその人のことをぼんやりと想った。

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