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第15話 ソロユニット曲

平日の夕方。

いつものようにダンスレッスンのための準備運動をしていると、そこにいた全員の端末にメッセージが着信した。


『ソロユニット曲の詳細について』


「ついにソロユニット曲が……」


 メイメイ、ハルル、ウーミー、レイ、そしてボクの学園組は息を飲む。


「と、とりあえず内容を見てみましょう?」


 ハルルが恐る恐るメッセージを開封する。

 ボクたちもそれに習って自身の端末を開いた。



*********************************

ソロユニット曲の詳細について


1stシングルに収録予定のソロユニット曲のタイトルは下記の通り。


新垣春&市川都 :危険水域アルマンディンガーネット

小宮桜&三井栞 :Dreamy Games

夏目早月&七瀬楓:シュークリームが膨らまないの

糸川海&後藤詩 :Honey, Feel The Rhythm

水沼渚&仙川零 :涙の雷雲


デモ音源については後ほど配布する。

ソロユニット曲のMVの公開は、11月6日から順次行う予定とする。

詳しい日程については後日通達する。


以上

*********************************


 ふむ。

 なんにもわからない!


「曲名だけ……ですわね」


「これだけではなにもわかりませんね」


 ウーミーとレイが顔を見合わせている。

 うん、ボクもぜんぜんわからない。


「え~そうですか~? ハルちゃんのところがアニソンで、サクちゃんのところがR&Bで、私たちのところがアイドルソングで、先輩のところがロックで、ナギサちゃんのところが演歌じゃないですか~?」


 メイメイが端末を見ながらさらりと言う。


「えっ、そうなの⁉ タイトルだけでなぜ?」


「だってそんな感じしないですか~?」


 メイメイが時々見せる謎の洞察力。


「言われてみれば……そんな気もするような……」


 うーん、どうなんだろう。

 なんとなくそんな気もしてくるけれど、曲名だけじゃわからないなーという空気が辺りを支配する。


「まあ、そのうちデモ曲が送られてくると思うからそれからでも……」


「だけど、アルマンディンガーネットって何……」


 メッセージを見ながら、ハルルが首をひねっていた。


「アルマンディンガーネットは果物のざくろに似た宝石ですわ」


「そうなんだ? アルマンディンガーネット……きっと歌詞にも出てくるわよね。噛みそう……」


 アルマンディンガーネット。アルマンディンガーネット。アルマンディンガーネット。

 これは確かに早口言葉みたいだ。

 それに……何が危険水域なんだろう。謎すぎる。


「『シュークリームが膨らまないの』楽しみですね~」


「あ、うん、そうだね?」


 メイメイのうれしそうな言葉に、若干同意できずに複雑な気持ちのボクがいる。

 そもそも曲を自分の名義で歌うこともそうだけど、メイメイと2人で歌うなんて緊張しちゃう……プロデュースってこういうことだったかな……。


「きっと片思い中の女の子が相手のことを思ってシュークリームを作る歌ですよ~」


「なるほど?」


「早く恋のシュークリームを膨らませたいです~」


 メイメイの中ではすでに曲のイメージができているようだった。

 今にも歌いだしそうだ。


「ずっと黙っているけど、レイはどうなの? メイメイによると『涙の雷雲』は演歌だってよ?」


「演歌ということは、着物が着られるということでしょうか」


 レイはわりとうれしそうにしていた。

 そうだよね。レイにとっては歌よりも衣装が大事。たしかに着物を着る機会はあまりないから、それはそれで良い経験になるのかも。ある意味新鮮でジャケット映えもしそうだし。



* * *

 

 練習の少し後、各ユニットのところにデモのダンス映像と歌詞が送られてきた。

 メイメイと一緒にチェックする。


 メイメイが言うアイドルソングのカテゴリーなのかはちょっとよくわからなかったけれど、激甘の純度100%のピュアピュアな片思いソングだった。


 歌詞も曲調もめちゃくちゃラブい!

 まぶしすぎて直視できない……マジこれボクたちが歌うの⁉


 歌詞の流れはこう。

 仲良し男女4人組のグループで休日に遊園地に行くストーリーのようだ。

 その中の1人の男の子に片思いしている。その彼のことを思って、早朝からシュークリームを手作りしているところから始まる。

 とくにサビのところが印象的。

 上がったり下がったり、気持ちが乱高下していて、とっても危なっかしい恋する乙女という感じ。


------------

 シュークリーム ふわふわどうして

 まん丸に膨らまないの

 何度焼き直しても

 触ったらしぼんじゃうの

 

 ぺちゃんこのシュークリーム

 まるで私の気持ちみたい

 この想い伝えられない

------------ 


 出発の時間が迫る。

 でもまだシュークリームはうまく焼けない。

 最後の1回、これでうまく焼けなかったら彼への気持ちはあきらめる。そう神様に祈りながらオーブンに火を入れる。


------------

 シュークリーム ふわふわふくらむ

 まん丸に膨らんだんだ

 たっぷりカスタードクリーム

 入れたらはみ出しちゃった

 

 まん丸のシュークリーム

 まるで私の気持ちみたい

 この想いバレちゃうかな

 ------------


 一生懸命作ったのに、勇気が出なくて結局渡せなくて、遊園地の帰り、1人泣きながら家の近くの公園でシュークリームをかじる。

 その公園に彼がやってくる。

「そのシュークリーム僕にもちょうだい。ずっと甘い匂いが漂っていたよ」と。


------------

 シュークリーム ふわふわ2人で

 まん丸に膨らんだんだ

 クリーム口についたまま

 彼がありがとうって微笑む


 まん丸のシュークリーム

 まるで私の気持ちみたい

 この想い届いたらいいな

------------


「シュークリーム作りたいです~」


 デモのダンス映像を見終えた直後、メイメイが目を輝かせて訴えてきた。


「え、あ、うん……シェフにお願いしたらいいんじゃないかな……」


 まーーーーねーーーーー! 気持ちはめっちゃわかる!

 この曲を聞いたら誰でもそんな気持ちになるよね。誰かに手作りのお菓子を食べてもらいたい。そんな強く想う相手がいたら、って。


「自分で作りたいです~」


「うーん。わかるよ。でも料理はちょっと……」


「今度はちゃんと本気で作りますから~」


 メイメイが食い下がる。

 気持ちはわかるんだよねえ。ボクもけっこう作ってみたい気持ちになってるし。


 あー、恋の曲って好きだなあ。

 気持ちが洗われるっていうか。


 恋したい。

 ……ボクは恋したいのか? 恋する気持ちに憧れているだけなのかわからないな。

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