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第11話 壁ドンからのキュンです

 朝が来た。


 夢を見ていた。


 あったかもしれない出会い。

 あったかもしれない日常の会話。

 あったかもしれない未来への期待。


 ……ふむ。

 このやわらかさ……すごくやわらかいです。けしからん。

 

 さて、早く寝て起きなければ。


 …………。

 ……。

 …。


 この感触触り心地……物足りないくらいがちょっとクセになる。

 うん、寝られるわけないよね。


 …………。

 ……。

 …。



 さて、どう理解したらいいんだろうか。

 寝ぼけた頭で考えてみる。

 いや、本当は昨日の夜から考えていた。

 いくつか考えられる選択肢がある。


1.まだ長い夢を見ている

2.壮大なドッキリ

3.やばい薬か何かで見えている幻覚

4.実は死んでいて異世界転生

5.チート能力でメイメイを召喚

6.知らない誰かと体が入れ替わっている


 1の線は薄くなってきたけれど、3は嫌だな……。

 希望を言えば4か5がいいかな。

 魔法使ってみたい。

 今のはメラゾーマではない。メラだ……。


「まあ、今答えが出るわけでもないし? 顔でも洗ってしゃっきりしようかなと」


 誰に聞かせるでもなし、独り言を口に出してみる。


 そして、洗面所の鏡に映っているのは、ちょっと寝ぐせのついたショートカットの少女だ。

 クラスにいたら、顔面偏差値が真ん中よりちょっと前のほう、くらいかな? あ、自分にもチャンスありそうかもしれないと思うような子。

 丸顔。目はたれ目気味だが、眉をちょっと上げていて、キリリとした印象を与えようとしている努力がうかがえる。鼻は低くめで、口は小さく、唇も薄い。笑うと目がなくなるけれど、小さなえくぼが生まれるらしい。歯並びはよし。

 背は150センチあるかどうかというところで、体の線はかなり細い。特に首から上半身にかけて薄く、手足も細いため、幼さを感じさせる。


 つまり、どこにでもいそうな普通の子。

 誰なんだ。

 この子は誰だ。


 ボクは誰だ。


 もしかして、本当に誰かと入れ替わっているとか。

 誰かというと、この場合はこの体の持ち主の子なわけだけど。

 

 フニフニ……。


 ふむ。


 フニフニフニ……。


 フニフニフニフニフニ……。


「お取込み中でしたでしょうか」


「うわあああああああああああああああああああ」


 鏡越しにジト目の仙川さんが立っていた。


「これは、あの、その、けっしてやましいきもちがあるわけではなくて……」


 しどろもどろになってしまう。

 あやしすぎる。


「失礼しました。起き抜けに揉むと血行を良くするのは効果があるそうですし。ごゆっくりどうぞ」


「ちちちちちがっ!」


 スッと音もなく、仙川さんがリビングのほうへと消えていった。

 言い訳さえも聞いてもらえない。ぐすん。


 これは……大きさを気にして胸をマッサージしてたと思われてる……。

 自分の胸を揉みしだいている変質者だと思われなくて、逆にラッキーなのかな。

 仙川さんは背が低いのに、胸が大きいからな……うらやましい。


 うらやましい?

 ボクは何を言っているんだ?



「えっと、さっきのは違くて……」


 リビングに戻ると、仙川さんはソファーに座って本を読んでいた。

 こちらを一瞥する。


「大きくてもダンスの邪魔だし、良いことはないと思います。わたしは七瀬さんの体型のほうが細くてうらやましいです」


 仙川さんは大きなため息をついて、また手元の本へと視線を戻した。


「ええ……!? 男の子の人気は絶対に大きいほうが……」


「アイドルだったらそうかもしれませんね。でも、わたしはマネージャーですから。それに男の子は嫌いです。胸ばかり見てくるので」


 本から目を離さずに、吐き捨てるように言った。


 苦労、してるんだろうな。

 ううっ、チラチラ見てごめんなさい……。


「いいですよ、じっくり見てもかまいません。女の子にうらやましそうな目で見られるのは案外悪くないです」


 仙川さんは本をパタンと閉じ、ソファーに置くと立ち上がった。


「え、あ、と、ごめん」


「どうしたんですか? 何を謝ってるんですか? もっと近くで見たいですか? ……なんなら触ってみますか?」


 なんだって⁉ 何を言っているんだ、この子は。

 

 仙川さんが息荒くにじり寄ってくる。

 セリフと行動が一致していない!


「ええ……チラ見にしてホントごめんて……」


 ボクは後ずさりしながら謝る。

 と、背中に衝撃。

 壁。


「もう逃げられませんよぅ。そうだ、お互いに触りっこしますか!」


 こ、これが壁ドン。

 キュンッッ。

 

 でも、背の高さが同じくらいだから、いまいちキュン度は低いめかもしれない。

 

 それよりも……。


「先生……その……当たってます……」


 圧倒的な敗北感と弾力!


「何がどうあたっているのか、ほら、せんせいにも教えてくださいよぅ」


 そう言って、股の下に膝を入れて足をからませてくる。

 

 太ももがやわらかいです……。

 なにもかもやわらかいし、なんかもうむり……。

 

「まっかですね。かえでくんかわいい……」



 と、胸が振動する。

 仙川さんの胸だけではなく、ボクの胸……の前の端末も。


「えーと、なになに? 7時から朝食なので全員集合。時間厳守!」


 花さんからのメッセージだった。


「ジャマされちゃいましたね。続きは今夜ですね?」


 髪をかき上げながら仙川さんが上目遣いにこちらを見てくる。

 

 目。

 

 初めて見た。かも。

 紫紺色の瞳。

 

「どうしました? 今続きしたいんですか? そんなに見つめられると、せんせい困っちゃいますよぅ」


 見つめていると吸い込まれしまいそう。それも悪く……。 


「それじゃあ食堂にいきましょうか」


 仙川さんはボクから体を離すと、くるりと背を向けて歩き出した。


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