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第13話 サクにゃん迷う

 オンライン個別トーク会2日目。

 午前の枠が終わってお昼休憩中。残すは午後の枠のみ。

 ボクとメイメイは食堂に向かっていた。


「メイメイはもう午前中で終わりだっけ?」


「そうです~。今日は午前の1枠目と2枠目だけの予定でした~」


「そかそか。2日間お疲れ様。昨日の夜にアップした対決正解者プレゼント写真の反応もなかなか良かったし、次のトーク会が楽しみだね」


「はい~。この後、今日の分の写真撮影もお願いします~」


「OKOK。何人分だっけ?」


「25人です~」


「今日はけっこう多いね!」


 昨日の対決で配った写真は14人分だった。今日はわりと正解が出たってことかな。ポーズを考えるのも大変そうだ。


「コ~~~~~チ! サクラもうダメかもしれないです~~~~~~~~」


 エレベーターから降りて2階についた瞬間、大声で呼び止められた。

 うわっ、サクにゃんだ。


「どしたの、こんなところで大声出して?」


 まあ、十中八九トーク会で悩んでいるんだろうけどさ。


「サクちゃんこんにちは~」

 

「早月さんもこんにちは! 写真の企画うまくいっていそうで何よりです!」


「ありがと~。サクちゃんは今日午後の枠もあるの?」


「午前1枠終わったのですが、午後にあと2枠あります!」


「それは大変だね。早めに何か食べて休憩しないとね。一緒に行こう」


 ボクはそう言って食堂方面へと歩き出そうとする。


「ちょっと食欲がなくて……」


 サクにゃんの足が止まったまま動かない。


「んー、ちょっとでもお腹に入れておかないと、午後持たないよ? 軽くうどんとか、糖分補給だけでもいいかもしれないし」


「滋養強壮の効果があるスイーツをシェフに作ってもらいましょう~」


「ありがとうございます!」


 サクにゃんが小さく頭を下げて歩き出す。

 

 滋養強壮の効果があるスイーツってなんだ……。



「ところで、サクにゃんは何かに悩んでいるのかな? トーク会?」


 押し黙ったまま歩くサクにゃんに話しかける。


「トーク会です……。ファンのみなさんがたくさんきてくださって、スポフェスの感想や動画の感想を話してくださるんです」


「いいじゃない。サクにゃんのファンの人たちは熱い人多いよね」


 サクにゃんのファンの人たちが一番ファン活動に熱心かもしれない。ファンの人数というより、SNSでの動きが活発な人が多い印象。


「みなさんいろいろ考えてくださっていて、とてもうれしいです。先日みっちゃんと時間差で匂わせ写真を投稿したんですけど、その話題を話される方も多くてびっくりしました」


「あーね。ど定番の『今日はオフの日なので映画館にいきました』投稿ね」


「みっちゃんのほうは映画と言わずに、『カフェでお茶しました』投稿の奥に、映画のパンフレットが写りこんでいるという感じで」


 ウーミー。海。みっちゃん。なるほど。


「シオの演出、ボクはわりと好きかな。甘酸っぱくていいよね。実際に2人で映画見たの?」


「見ました! 2人で話し合って、SFサスペンスの洋画に決まったんですけど、みっちゃんは邦画専門であまり洋画を見ないらしくて、意外ですよね!」


「へえー意外だね。フランスの恋愛映画とか見てそうなのに。そうだ、メイメイは普段どんな映画見る?」


「私はアニメが多いですよ~。海外のも日本のも長編アニメ映画は良いものが多いのでチェックするようにしてます~」


「そうなんだ? 今度おすすめのアニメ映画を発表していく動画も撮ってみようか?」


「映画実況風の動画はどうですか~?」


「あーそれ見たことあるかも。映画の映像や音声は権利関係で絶対流せないから、配信者のリアクションと解説や感想を楽しむやつね。DVDをタイミングあわせて同時再生すると一緒に見ている雰囲気になれるやつだ!」


「う~、早月さんはアイディアが豊富でうらやましいです……」


 サクにゃんが悲しそうな声を上げる。

 やばい、サクにゃん置いてけぼりだった……。


「サクにゃんだって、研究分野があって知識が豊富だし、良いと思うけどなー」


「トーク会でファンの方のちょっとしたジョークみたいなものにうまく反応できなくて……もっと盛り上がれたらいいのになと思ってます……」


「ジョークに反応するのは難易度高そう。その人のことを知らないと冗談を言っているのか本気なのかもわからないしなあ」


 ジョークだと思っておどけて返したら、相手は真面目に話していて険悪なムードになることもあるし、逆にまじめに話してると思って聞いていたら、実はふざけていて変な空気になることもあるし。

 トーク会でそこまできれいに拾うのは経験を積んだアイドルでも難しいんじゃないだろうか。


「もうちょっと肩の力を抜こう? 全部完璧にやろうっていうのは疲れちゃうよ」


「はい……わかってはいるんですけど」


「百合営業の話も抱えているんだから、キャパいっぱいでしょ?」


「そうですね……。そっちはわりとよくて、ファンの方たちの反応も温かいというか、興味を持ってくださっている方も多くて、すごく助けられています」


「なるほど。じゃあ百合営業に食いつかないファンの対応が大変なんだ?」


「大変というわけでは……。みなさん興味はそれぞれ違いますから、望まれればネコ語で話すのもやぶさかではなく」


「あのネコ語の動画! あれだけコメント欄の流れがおかしくて笑っちゃったよ」


 3分間ネコ語でロボットの仕組みを解説する動画。

 サクにゃんがバグったとファンの間で話題になっていた。

 ボクとしては、「マジでやったんか!」って感じで見始めたんだけど、途中からもうなんか雰囲気でかわいいからいいかって気分になれる、そんな動画だった。


「あれがお好きな方はけっこういらっしゃってですね……。続きを出してくれと」


「続きって何⁉ あれにどんな続きが? そもそも一言も内容理解できなかったんだけど」


 徹頭徹尾、完全にネコ語だったからね。


「ネコになったつもりで本気で解説はしたので、続きを作ることはできます……が、栞さんに止められていてですね……」


「そうなんだ? なんで止めてるんだろ」


「今は百合営業に集中すべきだから、ネタは分散させてはいけないと」


「なるほどねー。まあなんか言っていることはわかる気がする。うまくいきかけている企画はちゃんとメインとして打ち出しておきたい気はするね」


「やっぱりそうですよね……。なのでファンの方から、『ネコ語の新作期待してます』と言われた時にあいまいにしか返事できなくて心苦しくて」


 サクにゃんが再び悲しそうな顔をする。

 そうか、そういうところで悩んでいたのか。ファンは先の予定や展望を知らないから、純粋な感想や希望を言ってくる。でも、こっちは予定しているものがあるから、そっちには進めないんだよなーって思いながら微妙な対応を強いられることになる。


 難しい問題だね!


「さらっとかわす技術は一朝一夕には身につかないだろうし、『ありがとう、新作考えるね』くらいで濁していくしかないだろうね。あとはその場でネコ語を披露してあげるとか!」


「カエくん……そうじゃないです」


 メイメイが割り込んできて悲しそうな顔をした。


「え? 違うの? ちゃんと理由を伝えたほうがいいって思う?」


 ボクとしてはさすがにこの場合はかわしたほうがいいと思うんだけど……。


「カエくん、そういうことではなくて……」


 メイメイが小さくため息をついた。

 え、どういうこと?


「サクちゃんだってそうやって答えなきゃいけないことくらいわかってますよ~。今カエくんに求められているのはそういうことじゃないです~」


 そう言って、メイメイが急にサクにゃんを抱きしめた。


「ちょっ、早月さん⁉」


「サクちゃんはいつもまじめにがんばっていてえらいですね。かわいいかわいい。スイーツ食べて午後も笑顔でがんばりましょうね」


 メイメイは、サクにゃんを抱き寄せたまま、背中をやさしく撫で続けていた。


「はい……。サクラがんばります……」


 サクにゃんも受け入れて、メイメイの背中に手を回して抱き合っていた。


 うーむ。

 また熱くなってやってしまっていたか……。

 難しいなあ。

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