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第11話 オンライン個別トーク会1日目

 10月14日(土)午前9時55分。

 いよいよ10時から1stシングル予約購入特典のオンライン個別トーク会が始まる。


 いつもよりも広い会議室に5人がかなり距離を開けて座っている。

 目の前には飲み物、鏡、予約順リスト、ペン、メモ帳、そして正面に今回の通話用のタブレット端末がセットしてある。


「いよいよ始まりますね~」


 メイメイがうれしそうにボクに話しかけてくる。


「緊張は……なさそうだね。それは良かった」


 メイメイの目の前にだけ、他のメンバーとは違って、2種類の手作りカードが置かれていた。

 緑の縁取りのほうが「対決用のカード」で、ピンクの縁取りのほうが「お題トーク用のカード」だ。


 事前にカードのテーマ募集の告知を行ったおかげが、今日と明日の予約は満員御礼となった。やったね!


「楽しくトーク会ができると良いね」


「はい~。私のことをもっと好きになってもらえるようにがんばりますよ~」


 メイメイはとても前向きだった。

 以前のメイメイもこんな感じでトーク会に臨んでいたのだろうか。

 メイメイが手を抜いているところを見たことはなかった。オンラインでもオフラインでも、いつもファンを楽しませようと一生懸命話しかけてくれていた。


 キャラが薄い。

 顔がちょっと良いだけ。


 そう言われ続けて、メイメイは不人気でいつも端っこだった。


 強烈な個性がないとアイドルになっちゃダメなのか?


 笑顔がかわいい。なぜかずっと見ていたくなる。応援したくなる。

 それだけじゃダメなのか?


 あの時のボクには、周りのメイメイに対する評価が理解できなかった。


 だけど、今になって少しわかる気がしている。


 たくさんの人に支持してもらうには、たくさんの人を納得させる何かがないといけないのだ。

 それは強烈な個性なのかもしれないし、秀でた技術なのかもしれないし、他を圧倒するビジュアルなのかもしれない。人それぞれ、自分が生来持っている武器、努力して磨くことのできる武器で戦うしかないのだ。


 わかる人だけがわかれば良い。


 それで売れるアイドルはとても少ない。

 みんなをわからせることができないのは、アイドル側の努力不足やセルフプロデュースの失敗でもあり、同時にファンたちがさらなるファンを増やす布教活動に失敗しているせいでもあるのだと思う。


 もちろん運の要素は多分にあれど、アイドルとファンが協力して一緒に大きく成長していくしかないのだ。

 どちらかが諦めたら、それ以上の拡大は見込めない。

「気づいたら売れている」なんてうまい話はないのだと思う。


 偶然のバズりだって誰かの仕掛けだ。

 その基を作っているのはアイドル本人であることがほとんどだが、それを広めているのはファンや偶然興味を持ったインフルエンサーたちなのだ。

 何もないところから偶然は生まれようもない。


 まず今できることはトーク会に集中することだ。

 ファンと直接触れ合い、その感想を広めてもらう。


 メイメイはすごいんだぞ。メイメイはステキなんだぞ。


 さあ、これから大事な一歩を踏み出すんだ。


「時間だね。メイメイ、ファイト!」



 10時になった。

 最初の予約者とビデオ通話がつながる。


「こんにちは~! まだおはようございますかな? アイアンマンさん、きてくれてうれしいです~。いつもSNSでもコメントくれてありがと~」


『こんにちは! 鍵開けできました! オレのコメント見てくれてるんですか? うれしいな。メイメイのトップオタ目指してるんでよろしく!』


 アイアンマンさん。

 ボクは以前からこの人を知っていた。

 メイメイのトップオタで周りのファンたちの信頼も厚かった。コミュ障なボクにもよく絡んでくれて、一緒にコールの練習をしたり、ライブの感想会をしたり、とてもよくしてくれていた。


「うれし~。今日は5枠も予約してくれて。5枠は150秒? 150秒って何分だろ~。あ、時間なくなっちゃう! どっちかのカード引きますか?」


 メイメイが2種類のカードを見せる。


『せっかくなので対決カードを! どんな対決かな』


「カードをよく切って~。1枚引いて~はい、これ!『私が好きなラーメンの種類』」


『ラーメンか。なんだろう。……しょう油かな?』


「ドキドキの答えは~?」


 メイメイがカードを捲って答えを見せる。

 どんぶりっぽい絵の横に、『みそラーメン』と書かれていた。


「あ~残念! 正解はみそラーメンでした~」


『うわ~みそと迷ったんだよね。外したか~。みそはバター入ってるとおいしいよね』


「私もみそバター味が好き~。一緒だね! いっつもバター増量しちゃうの~」


『わかるわ~。バターは多ければ多いほどいい!』


「うんうん。まだ時間あるからもう1枚引く?」


 メイメイがカードの束を持ち上げて見せる。


『引く! 次こそは当てるぞ~!』


 アイアンマンさんがんばって!

 せっかくだから当ててほしい!


「はい、出ました。『サービス問題! 私は右利き? 左利き?』」


『2択問題だ! やった! もちろん右利き!』


「どうでしょ~? カードをめくりますよ~」


 メイメイはニヤニヤしながら溜めて、一気にカードを裏返した。


「正解です~! おめでと~! あとでサイン入りの写真をアップするからダウンロードしてね~」


『うれしいよ~。どんな写真がもらえるのか楽しみにしてるね』


「まだ撮影してないから、アイアンマンさんのことを思いながら撮ってもらうね」


『うひょ~! 最高じゃん!』


「喜んでもらえるようにがんばるね。もう時間! またきてね~」


『また明日もくるからね! ばいば~い』


 2人は手を振りあったまま、画面がホワイトアウトして通話時間が終了した。

 1人目終了かあ。

 2人目は1分後だね。


「お疲れ様。初めてのお客さん、どうだった?」


「話しやすい人で良かったです~。無事に写真も当たって良かったです~」


 メイメイは興奮気味に話す。


 最初の人だし、手ごたえがあって良かった。

 アイアンマンさんは社交的でちゃんと話もできる人だから、最初に来てくれて助かったよ。


 次からは1枠の予約がしばらく続くかな。

 がんばっていこう!

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