第10話 ファンの人たちと対決します
「え? 今なんて? メイメイもう1回言ってくれない?」
「えっと~、オンライントーク会でファンの人たちと対決しようと思うんです~」
やっぱりファンと対決って言ってたよね。ボクの聞き間違いじゃなかった。
メイメイはどうしてしまったんだ?
「対決っていったい何? オンライントーク会だからファンの人と会うのは画面越しだよ?」
「トーク会の1枠ごとにテーマカードを引いて、そのテーマでわたしが言いそうなことを当てられたらファンの人の勝ちゲームで対決しようとも思うんですよ~」
「ゲーム対決ってことか! なんかわかりかけてきたかも。たとえばどういうゲームになりそう?」
「そうですね~。たとえば『好きなうさぎの種類』というテーマが書かれたカードを引いたとします~。私はあらかじめカードの裏に正解を書いておくんですよ。それでファンの人が『ネザーランドドワーフ』って言ったとして、私がカードの裏に書いていたのが『ネザーランドドワーフ』だったらファンの人の勝ちです~」
「メイメイの言いそうなこと連想ゲームってところかな? 楽しそうではあるね。それでそのゲームに勝つと何か良いことがあるの?」
「う~ん、そうですね~。許可が下りるなら、SNSにその人の名前をサインした写真をアップしてダウンロードしてもらうのはどうかなと思ったんですけど」
「わりと良さそう! 正解者が多ければ多いほど他のファンの人にも盛り上がってる感じとうらやましさが出ていいかもしれないね!」
なかなか良いアイディア持ってくるなあ。
トークのネタがない人でも気軽に参加できるきっかけになりそうだし、正解者それぞれにオリジナルの写真をプレゼントにすれば、何回でも参加するメリットが出てくる。
これはいい。あとで花さんに許可を取りに行こう。
「カードに書くお題の募集もSNSでしたいな~って思ってます」
「いつもの匿名のやつだね。良いと思う!」
「わ~い。許可が出たら教えてください~。先に自分でもお題を考えてカードを作っておきますね」
メイメイはうれしそうにカード作りを始めた。
なになに?『好きな靴下の種類は?』
ソックスかハイソックスかの2択問題ってこと?
あー、答えはニーハイかあ。これはひっかけられたなあ。
ありそうでなかった良いアイディア。まだファンが少ないうちなら、チャレンジ成功のファンにサイン入り写真をプレゼントするのも対応できるだろうし、今やる価値はありそうだなあ。
* * *
花さんに確認したところ、あっさりOKが出た。
さっそくメイメイに伝えよう。
「メイメイ、許可出たよ!」
「わ~い、ありがとうございます~」
「ただし、ファンの人にゲームに参加するかは選択させてあげてって。普通のトークをしたい人もいるだろうからってさ」
まあ、たしかにそうだよね。
普通にメイメイとお話ししたい人、話を聞きたい人もいるだろうから、それは尊重しないと。
「は~い。話のネタに困った人用のカードも作っておきます~」
メイメイはそう言ってから、別の色のカードを手に取り、何かを書き込みし始める。
至れり尽くせりだなあ。
こんなに一生懸命ファンのことを考えてるアイドルが他にいるだろうか⁉
いや、いるとは思うけど……うちにもいますよー! どうかみんなメイメイを見つけてあげてください!
なんか1つ強い代名詞があればなあ。
(プロ小説家アイドルはどうですか?)
うーん、ネット小説だとさすがにそれはなあ。何かすごい大賞を取ったりしたら話は別だろうけど。もっと世間が食いつくような何かがほしい!
(変身ヒロインはどうですか?)
それはどっちかというと、レイさんの代名詞ですよね。
(まだ世間には発表していないので、さつきさんにお譲りできます)
いや、レイしかできないやつなので、メイメイにはもう少し地に足のついた企画を用意してあげないと……。
「ところで、さつきさんはどんな代名詞がほしいですか?」
「代名詞ですか~? 月に着陸したアイドルですかね~」
どこからともなくレイが現れ、メイメイと普通に会話を始める。メイメイは気にするそぶりもない。
月に着陸したアイドルかあ。
「アポロ的なやつかあ。なぜか月に憧れるみたいな曲聞くとなぜか涙が止まらなくなるんだよね。ボクの前世は宇宙飛行士かもしれないなあ」
「私も宇宙飛行士になりたいです~。ロケで月にいきたいです~」
「ロケで⁉ ロケットだけに⁉」
「デデン。カエくん、タイキック~」
「なんで⁉」
「かえでくん、つまらないのでアウトです。タイキックです」
2人してひどい。
ちょっと場を和ませようと思って小粋なジョークを……。
「宇宙飛行士以外だと何かないかなあ。今のところ動物博士って感じだけど、それはドカンとメディアに取り上げられるというよりは地味に効く1つの武器って感じだし、『うわっ、すごい!』みたいなのがほしいなあ。東大合格、みたいなやつ」
「じゃ~東大行きますか~?」
「そんな軽いノリで……。いや、いけるなら良いけど……成績良くないですよね? 1人だけ赤点ギリギリの人ですよね?」
毎回試験のたびにうちの部屋に泊まり込んでますけど、いっつも赤点ギリギリですよね。
「う~本気出しますよ~。特待生で飛び級しますよ~」
「大学の仕組み絶対わかってないよね? ボクたち高校2年だけど、来年受験……はしないよね、きっと」
そんな進路相談したことないし。一般的に言うと、高校2年の夏から秋って、本格的に受験勉強を始める時期なはず。今アイドル活動を全力でやっているんだから、受験勉強している場合じゃないよね。
「あまり考えていませんでしたね。はるさんはどうするのでしょうか。成績も良いですし、推薦で大学に入るかもしれませんね」
「うちって付属だから内部受験もあるんだっけ?」
「確かあったと思います。メジャーデビューして事務所所属していれば一芸入試があるかもしれませんね」
「おお、なんかありそう! 花さんに聞いてみないとなあ」
「そういうことですと、うみ先輩は今年受験なのではないでしょうか?」
「たしかにぃ! 先輩は……成績のことは聞いたことないね。頭良さそうには見えるけど」
もともとアイドル志望だから、大学にはいかなそうな気もするけれど、そのあとの進路なんかも考えたりするのかなあ。ウーミーは育ちが良さそうだし、親の反対とかもありそう。
「サクちゃんとウタちゃんは高校受験しますかね~?」
あ、そうか、あの2人って……もしかして中学3年生⁉
サクにゃんは研究者のイメージが強いけど、セクシーお姉さんのウタは、あの色気でまだ中学生だったんだよねえ。もう年上のつもりで完全に忘れてたわ。
「あれ? でも2人とも研究室勤めだよね。そもそも中学校通ってるの?」
「どうなんでしょうか。そういう話は話題に上がりませんし、ぜんぜん知らないです」
「企業秘密って言われるとそれ以上ツッコめないし、プライベートな話って学園組しかしてないかもね」
謎多き大学病院メンバー。
常勤の研究者ってことはさすがにないと思うけど、毎日学校に行って放課後だけ研究、なんてことはないよね。今はアイドル活動やマネージャー活動もやっているわけだし、さらに研究しながら学校になんて行く時間なさそう……。
「そういう意味で言うと、都もナギチも謎だよね。サクにゃんと同じ研究チームっぽいけど、2人ともロボット臭があんまりしないっていうか……」
「ミャコちゃんはロボット好きですよ~。私、昔のロボットアニメのブルーレイボックス全100巻を貸してもらいましたよ~。今20巻目を見てます~」
めっちゃ長編じゃん。
「そうなんだ⁉ 都がそっち系とは意外な……いや、そういえば都ってライダーも好きだったっけか。ロボットとライダーは共通点ありそうな気もしないでもないね」
「アニメと特撮はぜんぜん違いますよ~。アニメにはアニメの良さ、特撮には特撮の良さがあるってミャコちゃん言ってましたよ~」
たしかに言いそうではあるけど。
見始めたら深くはまっていくタイプなんだろうなあ。超真面目だし。
「謎と言えば一番の謎はしおりさんです」
「シオセンセはもう……触れないでおくほうが身のためなんだと思う」
肩書が多すぎてちょっと怖い。
たしか、シオとウタが研究しているのは、麻里さんの本業的なほうの心の研究なんだよね?
メンバー的に絶対やばいやつー。変に秘密を覗いたりしたらたぶん改造人間にされるんだ……。