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第9話 オンライントーク会の予行演習をしてみよう!

「では私からファンの役をやるわね。5秒前、4、3、2、1、スタート! こ、こんにちは、はじめまして……」


 ハルルのトーク会(予行演習)がはじまった!

 都はちょっと緊張気味のファンを演じている様子だ。

 はじめましての時は緊張するからね。なかなかの名演技が飛び出したかな⁉


「わ~こんにちは~! 今日はきてくれてありがとう! とってもうれしいよ~!」


「え、あ、春ちゃん。本物だ~! 動画見てファンになって、CD予約しました!」


「動画見てくれたの⁉ はずかしいけどうれしいわ。CDもいっぱい聞いてくれるとうれしい!」


「たくさん聞きます! また会いに来てもいいですか?」


「もちろんきてきて~! 都くん、名前覚えたからね! バイバイまたね!」


 30秒終了。

 ひたすらハイテンションで手を振り続けるハルルが見られた。


「どう……でしたでしょうか?」


 1枠の30秒で疲労困ぱいの様子。大丈夫なの、1枠にそんな全力で……。


「無難に悪くない、というところかしらね。ファン目線でも悪い気はしなかったと思うわ。ファンの方の名前を読んであげるのはとても良いけれど、できれば最初のほうがいいかもしれないわね」


「なるほど、最初に呼んであげるほうがいいと」


「そのほうが特別感があって、テンション上がる人のほうが多いと思うの。できるだけ名前は呼んであげましょう」


「そうなんですね~。私もお名前を呼ぶようにしてみます~」


 メイメイの気づきにもなったようだ。

 収穫があって良かった。



「じゃあ次はボクの番かな」


 さて、いきますかね。


「こ、こんにちは……」


 ボクは緊張で画面が固まったように動かないファンを演じてみる。


「こんにちは~! カエデくん、今日は来てくれてありがとう!」


 にこやかに手を振ってくるハルル。うわ、笑顔がまぶしっ!……いけない。ファン目線だとこれは速攻で落ちてしまいそう。チョロチョロのチョロですみません。


「緊張してるのかな? 私もアイドルになったばかりだから緊張してるよ~。みんなとたくさんお話したいけど、誰かとお話しするのって緊張しちゃうよね~。そうだ! 一緒に深呼吸してみよっか? いくよ~せーの」


 すーはー。

 2人で深呼吸をする。


「どう? ちょっとは緊張ほぐれた? 初めての共同作業だね! うれしい! カエデくんの思い出になったらうれしいな。また良かったらお話に来てね」


 と、ここで30秒タイムアップ。



「どうだった……?」


 ハルルは険しい表情をしている。


「良かったんじゃないかな! ボクだったらまた来ようかなって気持ちにはなったと思う」


 笑顔がかわいいし、一生懸命もてなそうとしてくれていたし、とても良い思い出になりました。


「楓はずいぶん高評価なのね。身内びいきはダメよ? 気づいた点を指摘してあげないと」


「うーん、でもちゃんと最初に名前も呼んでくれたし、ハルルの笑顔はかわいいし、お互いに緊張しているのに緊張をほぐそうとしていろいろ考えてくれたのが伝わってきたし、ファンになっちゃうかなーって。ハルルの笑顔はかわいいからなあ」


「ほめすぎよ~。そんなにほめてばっかりだと調子に乗っちゃうから厳しいことも言ってよ~」


 ハルルがファンに見せるオンの顔から、身内に見せるオフの顔へ。照れまくったクネクネダンスを披露している。……やっぱりオンのハルルのほうがステキかな?


「都は傍から見てて何か気になった点あった?」


「そうね……。全体はきれいにまとまってて良かったと思うのよ。でもあと1歩、深呼吸以外にファンの人からリアクションをもらいたかったかもしれないわね。会話のキャッチボールをあと1つ何か。たとえば春さんの言ったことでちょっと笑ってもらうとか……」


「たしかに一方的に私だけがしゃべってたかも。聞いてくれているのはわかったけれど、好意的にとらえてくれているのか、それとも早く終われって思われてるのか、カエデちゃんの気持ちはくみ取れなかったわ……」


「まあ、そう言われるとそうだね。30秒ってすごく短いけど、何か1つキャッチボールできたらステキだよね」


 ね? と、メイメイに同意を求めようとしてみたけれど、メイメイは机に向かって何かを必死に書き込んでいてまったく反応してくれなかった。

 何をしているんだろう?


「おーい、メイメイさーん。次、順番ですけどどうしますかー?」


 気持ち大きめの声で呼びかけてみる。

 無反応。


「メイメイ、忙しい?」


 仕方ないので近寄って肩を叩いてみる。

 肩を叩いた瞬間、メイメイの体がビクッと体が反応し、そのままイスから飛び上がるようにして直立した。


「はい! 私の番ですか⁉」


「そうだよー。大丈夫?」


 何か忙しそうなら、まあファン役は、絶対やらないといけないわけではないからね。


「もちろんやりますです! 準備はばっちりです」


 さっきまで書いていた何かを掲げて見せてくる。文字がびっしり。何かのリストだろうか。字が細かすぎて読めない……。


「大丈夫ならいいんだ……。ハルル、メイメイいけるってさ」


「はい、それではサツキさんもお願いします!」


「は~い。いきますよ~。30秒スタート!」


 メイメイが元気よくスタートを宣言する。


「こんにちは! 最初からハルルさんのところに並ぼうって決めてました。なんでかって言うとですね、SNSの更新を見ていてハルルさんが一番気になったからです。動画もステキですけれど、いつも投稿に添えてある文章が好きなんです。さりげなく季節感を伝えてくれたり、他のメンバーやマネージャーさんたちが仲良さそうなところを伝えてくれていたり、何気ない日常の一コマを紹介してくれたり、飾らないメッセージがとても心地よくて、ハルルさんの人柄を表しているなと思っていつも楽しく見させてもらっています。今日は顔を見られただけで満足です。たくさんの人としゃべってお疲れでしょうから、私のような者がいて応援しているということだけ伝えらればいいかなと思っています。30秒だけで恐縮ですが休憩の時間に充ててください。あ、もう時間ですね。また今度遊びに来ます。お体にお気をつけてアイドル活動がんばってください」


 30秒が経過して、トーク枠が終わった。

 メイメイが超早口で一方的にしゃべって終わった。

 なるほど、さっき一生懸命書いてたそれは、しゃべるための原稿だったのね。


「えっと、うんと……サツキさんありがとう」


 ハルルは圧倒されていて、お礼を言うのが精いっぱいという感じだった。


「メイメイ……なんかすごいね。早口得意なんだ?」


 我ながらバカみたいなコメントだと思った。だってほかに感想が出てこなくて……。いつもメイメイはわりとゆっくりしゃべるから、結構油断してたわ。


「え~早口でしたか~? 私、いろんな曲が歌えるようにボカロの超早口の曲も練習してるんですよ~」


 メイメイが嬉しそうに言う。


「そうなんだ⁉ めっちゃえらいじゃん! 今度聞かせてほしいな」


 そんなこともやっていたんだね。

 やっぱりメイメイは人知れずひっそりとした努力家だなあ。ますます尊敬できる。こんなにがんばっているのにどうして世間はメイメイを見つけてくれないんだ!


「早月さんのコメントすごく良かったわよ。春さんのことよく見ているのね。トーク会の練習というより春さんへの応援コメントみたいでちょっと感動しちゃったわ」


 都の目が潤んでいた。

 ん、どんな内容だったのか早口すぎて入ってきてない……そんなに良かったんだ?


「ごめん、ボクはちょっと聞き取れなかったかも。ハルルはちゃんと聞こえてた? できたら少しゆっくり目でもう一度お願いできる?」


「私もちょっと圧倒されちゃって……」


「そうですか~? もう1回読みますね~。こんにちは――」


 メイメイはめんどくさがることもなく、もう一度ゆっくりと、感情たっぷりにコメントを朗読してくれた。


「サツキさん……ありがとう。私、そんなに見てもらえてるなんて……地味な投稿ばかりであまりファンの人からも反応もらえなくて悩んでいたんだけど……」


 ハルルが泣いていた。わりとマジ泣きだった。


 自分の努力を見つけてもらえる、これ以上うれしいことはないよね。でも大丈夫。ファンの人だってちゃんと見てくれてる人はいると思う。ハルルは360度どこから見てもステキなんだから、もっと自信を持ってほしい。


 トーク会もきっとうまくいくよ!

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