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第8話 オンライン個別トーク会はどうなる?

「配信ランキング速報きたわね」


 都が神妙な顔で言う。


「やりました~! 初登場10位です~!」


 メイメイによる初登場10位喜びのダンス!


「デイリー10位……っていいのかしら?」


 ハルルが首をかしげている。


 初動で10位は、ちょっとまあ、正直微妙なところだと思う。

 正確に言うと、『The Beginning of Summer』が10位、『サツマイモラブ』が13位。デイリーランキングだからもうちょっと上に行ってほしいなって気持ちはある。


「まだランキングを気にするような時期ではないとは思うのだけれど、それでもやっぱり『初登場1位!』に憧れるわね……」


 都の本音が見えた気がする。

 まあ、たしかに、『デビューシングル初登場1位!』みたいな華々しい感じでいきたいけれど、まだシングル発売まで時間があるからね。


「本番はシングル発売日のデイリー! そしてそのウィークリーのランキングだから、まだまだこれからだよ! ファンの人たちにオンライントーク会でいっぱい積んでもらおう!」


 そう、結局のところ売上はファン頼みになる。

 どれだけ推してもらえるか。

 たくさんの人に買ってもらうのはまだまだ先の話だ。デビューしたばかりのアイドルは、1人に何枚買ってもらえるか、そういう戦いを強いられるのだ。


 お小遣いをはたいてCD買って、足りなくて日雇いのバイトをして……思い出すと切ない。

 でも以前の握手会やタッチ会は、CD1枚分で10秒のチケットだったりしたけれど、オンラインになってからは、1人30秒はもらえるようになった。だからボクとしてはオンラインのほうが好きかもしれない。実際に会えないのはちょっとさみしいけれど、画面越しのほうが少し緊張が和らいで話したいことも話せるというか……。

 他の人はどうなんだろうなあ。どっちが好きなんだろう。今度ファンの配信で聞いてみたいかも。


「オンライントーク会と言えば枠の埋まり具合は確認してる?」


 都が端末をいじりながら言う。

 

 オンライン個別トーク会なので、CDの予約をしてくれたファンの人は、事前に誰とおしゃべりしたいか枠を予約するシステムだ。

 つまり、現時点で誰がどれだけ人気があるのか一目瞭然に……。


「えっと、私14日は全部埋まってるわ。15日は残り5枠……」


 ハルルが遠慮がちに言う。

 さすが大人気の演技派女優!


「私は14日も15日も12枠ずつ空いてますよ~」


 メイメイはさして気にするふうでもなく、普通のテンションで言う。


 うさぎ界隈の人たちはオンライントーク会には来てくれないのかな……。もうボクが全部枠を買っておこうか……。いや、でもそれだとこれから予約しようとしてくれている人との出会いが……まだ2日あるからがんばってバズ動画を作るか!


「えっと桜さんと海さんはすでに全部埋まってて、渚さんはそれぞれの日の残りが5枠、7枠ね」


 都チェック完了。

 つまり……メイメイの人気が……。何でよ⁉


「それにしてもみんな特徴のある予約のされ方してるわね」


 都が少し笑いながら言った。


「予約のされ方の特徴ってなんですか~?」


 メイメイが端末を見ながら首をひねっている。

 特におかしくはないと思うけれど。都が言っているのはなんのことだろう。


「えっとね、まず春さんは1~2枠で予約してくれているファンの比率が大きいわね。桜さんと海さんも似たようなものだわ。でも、早月さんは連続枠上限のぶち抜き5枠を取ってくれているファンの人が3人もいるわね。それも2日とも同じ顔ぶれね。そして渚さんは……今のところ予約してくれているのは全部同じ人よ」


「同じ人……だと⁉」


 こわいこわいこわい。

 ナギチ、すでにガチのファンおるやん! メイメイもわりとコアなファンがいてくれてうれしいけれど、ナギチのところの異様さに霞むね。


「ええ、全部同じ名前での予約だからきっと同じ人よね」


「ちなみになんて人かな?」


 聞きながら自分でも予約状況を端末で確認してみる。


 あっ。


「ナギチのSNSと動画に毎日コメントしてくれてる人じゃん。ちなみに、この人ファン配信もしてて、ガチの料理好きだったよ。ちなみにかわいい声の女性でした」


「女の子のファンなんだ⁉ ナギサさんうらやましいわ」


「へぇ、ハルルは女の子のファンがほしいんだ? 男の子のファンが聞いたらきっと悲しむなー」


「ち、ちがっ! ナギサさんのファンの子が女の子だって言うから言葉の綾で!」


 必死になって否定するハルル。耳まで真っ赤になっていた。

 ハルルはかわいいなあ。


「春さんの枠に応募してくれてる人は全員男性のようね」


 都がとどめを刺しにかかる。

 まあそりゃね。正統派ヒロインの雰囲気出してるし、まずはハルルの枠を押さえたいと思うのが普通のファン心理かなと。そこに女性が混じっていたらそれこそガチ恋の可能性があって、まあそれはそれで複雑な気持ちになりそう。


「ちなみに、早月さんのコアなファン3人は……男性1人女性2人よ」


「サツキさん!」


「は~い。ハルちゃんどうしました~?」


「強がってみたけれど、やっぱり私も女の子のファンがほしいのよ!」


「そうですか~? 私はたくさんたくさん応援してほしいので、男の子も女の子もいっぱいきてほしいです~」


 メイメイはいつになくニコニコしていた。

 初対面の人と話すのが苦手。だから握手会やトーク会は苦手のはずだ。この余裕っぷりはどういうことなんだろう。

 何か臭うな……。


「私もそうよ! たくさん応援してほしいわね。女の子にも!」


 やたらとこだわるハルル。

 どうしたんだろう?


「春さん女の子のファンがほしいの? どうしてかしら?」


 都が不思議そうに尋ねる。


「だって~、ファンの人とガールズトークするのってなんだかキラキラしてない?」


「キラキラ……?」


 その場にいる全員が首をかしげる。

 キラキラとはいったい何を表現しているんだろう。


「キラキラはキラキラよ。化粧品の話したり、メイクの話したりしてみたいなって思うのよ」


 ハルルがうっとりした表情で語る。

 これは……だいぶ幻想を見ている気がしてならない。


「言いたいことはわからないでもないけど。おしゃべりに来てくれる人が望んでいる話をしてあげないとダメだよ?」


「そんなのわかってるわよ~」


「ホントかなあ。相手が話したいならしゃべらせてあげないといけないし、緊張してしゃべれなそうな人なら、ハルルが話題を振ってあげて、それでもダメなら笑える小話でもしてあげないとね?」


「笑える小話⁉ アイドルってそんな高等技術が必要なの⁉」


 ハルルの目が泳ぐ。

 かわいいなあ。もうその姿だけでファンの人は十分白飯がうまいはず。


「そうね~。そんなたいそうなものは必要ないと思うのだけど、お金を払っていただいている以上、無言の時間があったらまずいわね。ファンの方もしゃべれなくて失敗したと思ってしまうでしょうから、少なくとも春さんのほうは楽しい時間を過ごしたよという印象付けをするような話を……具体的にちょっと練習してみましょうか」


「お、いいね。ハルルのオンライントーク会にみんな並ぼう!」


「私も並びますよ~」


「えっ、えっ⁉」


 挙動不審が行き過ぎて、ハルルの全身がカタカタ震え始める。

 おもしろすぎる……この様子を動画に撮っておけばよかった!


「春さん、大丈夫よ。私たちが順番に30秒の枠で入るというていでいきましょう。あくまでオンライントーク会だから、机を挟んで座ってお話してみましょうか」


「ががががががんばります!」


 ハルルは目をグルグルさせながら席に着く。


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