第7話 ライバルキャラは強ければ強いほど良い
「続いて5章や。『2人だけの空気感を認知され始めたら勝ち確』これは説明せんでもわかるな? はい、海さん」
「え、ええ。2人は付き合っていることが知れ渡れば、あとは周りが良いように解釈しだすから百合営業成功……ということかしら?」
ウーミーが頬に手を当てながら自信なさげに答える。
「まあ、そういうこっちゃな。その界隈での常識として認知されたら成功というよりスタートラインに立てたっちゅーこっちゃ。百合が自分たちの武器になったからじっくり攻めろの合図や」
武器になったらその武器を使って存分に攻撃をしよう。ただし、ファンが飽きてしまわないように小出しにしながら。
「わかりましたわ。匂わせ投稿で種まきをして、空気感を認知されれば良いのですわね」
ウーミーが嬉しそうにメモを取る。
まあそこが1番難しいポイントなんだとは思うけどね……。
「次、6章や。『受け攻めはある程度方向を意識する程度で良い』これは……たぶん正解はでーへんやろし、マスターに聞いとこか」
シオが頭を掻きながら、ウタのほうを見る。
5章からいきなり難易度上がった感がある。
「だから! 私を百合マスター扱いするのやめなさい。……まあいいわ。あなたたち、受けと攻めという言葉の意味は分かる?」
ウタが気だるそうに髪を払いながら、ウーミーとサクにゃんに問いかける。
「はい! えっと、受ける側が受けで攻める側が攻めです!」
「そのまんまじゃないの。……桜さんはわかっていそうだけど、まあいいわ。受け攻めというのは、もともとはBLの用語よ。男役が攻め、女役が受け。主導権を握る方が攻め、握られる方が受け。イメージつくかしら?」
「ええ、一応それくらいは学習済みですわ」
ウーミーがBLを学習……意外といけるんだ。頬にキスしただけでハレンチだと思う人がBLを……感覚の違いが判らぬ。
「OKね。BLとGLは似ているようで全く違うのよ。男同士の恋愛、女同士の恋愛。それだけ聞くと似ていると思うかもしれないけれど……まあ、中身は全然違うのよ」
ウタが一瞬言葉に詰まった後、説明を端折った。
とても言いづらい問題を端折ったな。
「どう違うんでしょうか⁉」
サクにゃんがツッコんでいったー! これは天然かー⁉
「あまりお子様には聞かせづらい話なのだけど、BLもGLもソフトではない領域も存在するわ。つまり精神的な関係だけではなく、肉体的な関係を表現することもあるのよ」
「はい!」
サクにゃんがとても良い返事をする。
いや、はいじゃないが。
「ハードなBLの場合の受けと攻めというのは、精神的な主導権をどっちが握るかだけの問題ではなくて……その、あれよ……」
ウタが顔を赤くして、完全に固まっていた。
ウタさんここでギブアップかー⁉
さすがに百合マスターにBLの話は酷だったかー⁉
「マスター解説おおきにな。そう、BLは肉体的な主導権を握るのは必ず片方なんや。精神的主導権と肉体的主導権の両方を握って、男役が女役を攻める。攻めのパターンは無数に存在するけどな。ほいで、BLにおいてこれを逆にするんは重罪。ギルティー。そのカップリング好き仲間からの追放を意味するんや」
「男役と女役は固定……なるほどですわ」
主に2次創作の話だと思うけど、自分の好きなキャラクターがそんなセリフを言うはずない、攻めのキャラが急に立場逆転されて……なんて。ってね。狭い世界だから排他的なのは否めないね。
「しか~し、百合の世界はそこまで法律が厳しくないんや。わりと攻めと受けを行ったり来たりしていても、楽しめる人が多いのが実情や」
「それはなんででしょうか⁉」
サクにゃんツッコんでいくねー。天然なのか、わざとやっているのか。
「まあ、あれやな。百合の世界にはいれるっちゅ~概念がないからやな」
さすがシオセンセ。サラッと言ったね。
「いれる?」
「海さんにはまだ早いかもしれんけど、男女が深い仲になった時のあれや。NLやBLにはあって、GLにはないんや……」
ウーミーはきょとんとしているが、サクにゃんはめっちゃうれしそうにしている。
やっぱり養殖だったか。
きわどいクイズ大会みたいになってるけど……。
「これ以上は本筋から外れるから別に知識としてはなくてもえんやけど、海さん、あれやで、子作りのなんやかんやや」
シオのその言葉を聞いて、ウーミーの頭から湯気が噴出した。
すべて理解できたらしい。めでたしめでたし。
「ハレンチですわ……」と小さくつぶやいた後、一瞬で真顔に戻る。
「すべて理解しましたわ。本題に戻ってくださいまし?」
「そかそか。それは良かった。諸々の理由から百合の受け攻めの逆転に関しては、界隈も寛容なんや。ソフト百合ならなおさらやな。だから今はあのキス以降『海×桜』として認知されつつある方向性も、ある程度は意識する程度でええんや。基本的に海さんが男役で主導権を握りつつ、桜さんが女役で受ける。でもたまになら逆に桜さん側からアプローチをしてもええっちゅ~こっちゃ」
「基本わたくしが男役なのですわね」
「サクラが女役なんですね」
「そやで。基本はそのスタンスを守りつつゆっくりやっていこか」
「はい、がんばります!」
「よろしくお願いしますですわ」
3人は深くうなずきあった。
まあこの3人+ウタがいれば問題ないでしょうよ。がんばって。何もできないと思うけど、応援はしてる!
「最後の7章はおまけや。ある程度百合営業が進んでいくとマンネリ化することもある。その時に収束させていくか、また盛り上げるためのカンフル剤を打つかの2択を迫られる時が来るんや」
終わらせ方は難しい。
百合マスターも言っていた通り、なんとなく収束はモヤモヤするものだからね。
「カンフル剤として使われるのがそう、『しばらくしたらライバルの強キャラを投入しよう』やで」
シオがホワイトボードをバーンと叩いた。
ライバルキャラね。連載マンガだと絶対出てくるよね。
「この場合のライバルキャラは強ければ強いほど良いとされとるで。百合カップルの障害となるような強いライバル。たとえば桜さんを奪おうとする男役が現れる、とかな?」
「サクラを巡って争わないで!」
「ノリノリやんか。そう、それや! あとは誰をライバルキャラにするかやけど……まあ、それは後々考えるとしよか」
シオが一瞬レイのほうを見たような気がするが気のせいだろうか。
まさかダークウーミーとしてレイを登場させてサクにゃんを奪い合う展開に……ってバトルマンガじゃあるまいし、それはないか。
「よし、これで百合営業講座は仕舞や。あとは実践していくしかない。2人とも気合入れてゆる~くソフト百合営業しような」
シオがウーミーとサクにゃんの肩を叩いて回る。
気合入れて緩く。
なかなか難易度が高そう。
がんばって2人とも。手伝えることがありそうだったら手伝うね!