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第6話 私がこの壺を手作りしました

「第2章読んだか~? よし、ほんなら、『グループ内に百合営業カップルは1組までとする』これの意味は理解できたな?」


 マンガを読んでみたら何のことはない。あっちもこっちも百合カップルができて、なんなら三角関係や略奪なんてことになったら営業どころではないし、ほほえましくもない。

 なるほどねー。

 確かに言われてみればそうだ。


「は~い。アイドルグループは恋愛バラエティショーではないからで~す!」


「はい、早月さん正解! よく読めました」


 あっちでもこっちでも恋愛していたら、さすがにファンを置いてけぼりにしすぎだもんね。みんなが温かく見守れるのは1組が限界。それもソフトなやつ。納得。


 そういえばグループ内で結婚しても良いのは1人までっていうルールも聞いたことがある。あれ? でもそれは男性アイドルの話だったかな?


「この辺りは単純な知識や。意味を理解して不用意な行動をとらないように注意すればええちゅ~こっちゃ」


「はい、わかりました! グループ内の二股は禁止ということですね!」


 サクにゃんが感心したようにうなずく。


 いや、そうじゃない。

 サクにゃんはもっとちゃんと教科書を読みなさい。


「もちろん二股もソフトじゃないからNGやで。他のカップルができるもNGや。ちゃんと覚えておいてや」


「わかりましたわ」


 ウーミーがメモを取り始める。

 もうあれだ、サクにゃんの手綱を握るのはウーミーに任せよう。



「よしゃ、サクサクと第3章に進むで。『最初にすることはプライベートデート』これは教科書を読む前に理由を考えてみよか」


 あえてプライベート、と言っているところがミソなんだろうなあ。

 百合の営業、つまり作られた恋愛なのに、なぜプライベートでデートをする必要があるのか。


「桜さん、理由わかるか?」


「う~~~~~ん。みんなの前で失敗しないため、でしょうか?」


 長考した後、サクにゃんは自信なさげに答えた。


「半分正解や。ちょっとだけおしい。みんなの前で失敗しないために、どうして2人だけでデートする必要があるんやと思う?」


「それは……相手の方がどんな方なのかわからないと、受け答えがぎこちなくなるからでしょうか?」


「そう、それや! 満足に準備もせずに成功するほど仕事は甘くない。しっかりとお互いのことを知り、何が好きで何が嫌いで、どんな時に笑ってどんな時に泣くのか。誰よりも1番相手のことを理解しようとする。そういうプロフェッショナルな気持ちを持った者だけが真の百合営業マスターになれるんや!」


「なるほど、普通の恋愛と同じなんだね」


 営業だろうとホントの恋愛だろうと、相手を知らないと恋なんてできないよねえ。言われてみれば当たり前のことだけど、なんでぶっつけ本番でできると思ってたんだろ。


「なんや~? カエちん訳知り顔やけど、恋愛経験ありか~? その話、詳しく聞かせてもらおか」


 シオが悪~い顔をして、胸元に刺したボールペンをいじりだす。

 それ、ペン型のレコーダーだってバレてるからね?


「いや、モテない歴=年齢の陰キャですけど……。恋愛の知識はマンガとドラマと小説だけです! 何か問題がありますか⁉」


「え~そんなふうに見えな~い。いが~い! やさしくてモテそうなのに~。わたしに彼氏がいなかったら付き合っちゃうのにな~」


 急にぶりっ子シオが現れた。

 え、どうしたの? ペン型のレコーダーに精神支配でも受けたのかな?


「って、言われるタイプやな」

 

 いそうだけど、その女子、腹立つわー! 絶対眼中にない時に言うやつでしょ!


「いいえ、そんなことすら言われたことないのでご安心を」


 はい、そんな腹立つことすら言われたことはありません! クラスで女子としゃべるのは、掃除当番を代わる時だけです。どうも便利屋です。


「コーチ! たくさんの人にモテる必要なんてないんですよ! たった1人特別な相手を見つけた人がしあわせになれるんです!」


「えっと……その壺を買えばしあわせになれるんですか⁉ はい、壺買います」


「50万円になります。まいどおおきに」


「お前が売るんかいっ!」


「なんや~? うちが売ったらなんか不満か~? ほれ、『私が壺を手作りしました』の証拠チェキもついとるで」


 シオが証拠のチェキとやらを懐から取り出して見せてくる。


 ろくろの前で超ミニのセーラー服きて女の子座りして太もも出しまくりで、顔が見えないように目のところを手で隠して、ちょっと土がほっぺたについてて……なんかもう演出が細かいし、絶対怪しい写真じゃん!


「もうなんか詰め込みすぎてツッコミ待ちの渋滞なっているので、早いところ交通整理して次の章に行ってもらってもいいですか?」


 ちょっと待てよ……。これって普通に陶芸中っぽいチェキだけど、シオ……ホントに怪しい壺を作って売ったりしてないよね?

 なんだかこれ以上考えるのが怖くなってきたわ。もうやめとこ。



「さて、4章は、百合営業が始まる下準備から公表する手前までの話やな。『SNSでの匂わせ投稿は多すぎず少なすぎず』つまり、最初は気づかれない程度に薄く小出しにしていかないと急にキャラ変したとか、嘘くささが出てバレてしまうちゅ~話や」


「ちょっとわかりづらいですわ。詳しく教えてくださいまし」


「ふむ、匂わせ投稿はわかるか?」


「付き合っていることを公表していないのに、同じ場所の景色を投稿したり、ペアの持ち物を投稿したりすることですわね」


「まあ正解やな。その匂わせは自然の中の不自然を意図的に演出する必要があるんや。わかる人にだけわかる。『あれ、これに気づいたのって俺だけ?』みたいな特別感をいかに作り出せるか。その量と質。なんや難しいと思うし、最初のうちは一緒に演出を作っていこな~」


「助かりますわ~。初心者には荷が重すぎますことよ」


 ウーミーでなくてもこれは難しいと思う。

 本来の意味は、普通の投稿に紛れ込ませた私信で、お互い以外が絶対にわかっちゃいけないものなわけだけど、あえてファンに見つけさせる演出が必要というわけなんだね。

 ウーミーもサクにゃんもさりげない匂わせが器用にできるタイプには見えない……。シオセンセ、頼みます!

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