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第5話 ソフトとハードの線引きはいったいどこ?

「とまあそういうわけで、今日言いたかった1番大切なことはこれや」


『常にキメ顔を見せる相手を想像しろ!』


 どんなに破壊力があっても、なんとなくマス的に放射したら威力は弱まるってね。意味はわかりました。確かにアイドルには大切なことのように感じます。


「そして、いよいよ本題や。百合営業を成功させたければ、そのキメ顔を向ける相手はファンやない。ビジネス百合の相手だけや」


 ビジネス百合……。熱く語っているのに急に仕事の話でなんか醒めるんだよねえ。本気は本気で困惑するけれど、ビジネス……はい。


「明らかに他と対応を変える。『特別な相手はあなたです』それをかなり誇張気味にフルオープンするんや」


「恋する乙女になれ、そういうことよね?」


 ウタが言う。


「そや。恋している姿をファンにも、メンバーにも、その他すべての人間にも見せつけるんや」


「アイドルが恋……炎上してしまわないんですの?」


 ウーミーが恐怖する。

 たしかにその不安はわかる。アイドルに恋愛はご法度。世間に広まっている常識はそうなっているからだ。


「そこが今回の話の肝や。グループ内の百合だけは、アイドルに許されとる唯一無二の恋なんや」


「相手が同性で、しかもグループ内のメンバーだから……」


「そやで。みんなが見てる。常に監視されている。隠しごとができない状況の中の恋だけはみんな好意的に受け取る。そういうからくりや」


 なるほど……。

 アイドルなのに恋愛を武器にできる唯一の方法。それが百合営業なのか。


「すごいです! サクラ感動しました!」


 サクにゃんが立ち上がって拍手を贈っている。まさにスタンディングオベーション状態だ。

 でもこの講座、まだ0章なんだよなあ。


「おおきにおおきに。でも、ここからが怒涛のノウハウ共有の時間やで。百合営業のノウハウを短時間で完璧にたたきこむで」


「サクラがんばります! お願いします!」


 最敬礼し、サクにゃんが席に着いた。


「ほな、第1章や。『ファンが求めているのはソフト百合!』これの意味は理解できとるな?」


 シオが辺りを見回す。が誰も手を上げようとしない。

 まあもう、生徒はウーミーとサクにゃんの2人だけで、ほかの参加者は若干観客っぽくなっているんだけどね。


「それなら私が答えるわ。フルオープンな状態でドロドロして濃厚な恋愛模様を見せられても引くだけだからよ」


 ウタがため息をついた。

 いつもハードな百合モノを嗜好されている方が言うと説得力がありますね? そのかばんに入っている本は、ホントは年齢的に超アウトだからね?


「百合マスター、補足おおきに。まあ、そういうこっちゃ。軽いイチャイチャはほほえましいが、マジの乳繰り合いは引いてまう。とくにアイドルオタクは恋愛経験値が低めやからな。リアルな恋愛なんて見せられたら卒倒してまう。で、クレームや呪詛の嵐やから気をつけるんやでっ!」


 シオが吐き捨てるように言った。


 シオの過去に何があったの? 絶対それ、実体験の何かからくる嫌悪感だよね?

 一般的にもアイドルオタクはそんな偏見で見られがちだけど……まあ、正直ボクも恋愛経験はありませんから強くは否定できないね。


「シオセンセ! 軽いイチャイチャとはどこまでのことですか?」


 サクにゃんが手を挙げて質問する。


「はい桜さん。ごっつええ質問やで。逆に桜さんが想像する軽いイチャイチャと、これはあかんと思うドロドロの線引きはどこや?」


 シオの質問返しに、サクにゃんはしばらく沈黙して思案していた。

 ほどなくして小さくうなずき、口を開く。


「サクラが思う軽いイチャイチャは……昼間のデートまでです! 日が暮れたらドロドロです!」


 お、おう。

 わりと抽象的な答えが返ってきたね。言いたいことのイメージはわからないでもないかもね?


「つまり昼間なら何してもええんやな?」


 センセの質問、意地悪ーい。


「ええんやな? 桜さん的には、朝から夕方までホテルに行ってても昼間のデートっちゅーこっちゃな?」


「え……それはちょっと……」


 サクにゃんが引いている。

 まあそれはちょっとね……。


「そう、その顔や。その顔をファンにさせたらあかんのや。たぶん誰に訊いても今の質問はNO。ソフトやない恋愛や。体の関係は絶対NGちゅ~のが日本における一般的な倫理観やな」


 倫理観と来ましたか。

 ソフトとハードの線引きは倫理観の問題かあ。


「手をつなぐのはOKか、恋人つなぎは? 腕を組むのは? 肩を組み腰に手を当てるのは? キスをするのは? 頬? 額? 口? 胸や尻を触るのは? その先は? とまあ、ソフトハードの線引きはそれぞれの倫理観によるわな」


 必ずここ、って決まっている線はないよね。

 ボクだったらそうだなあ……額にキスまではほのぼの見られるかなあ。そう、百合ならね。男とだったら半径1メートル以内に近寄っただけでヘッドショットするね。


「今想像した線引きがどこかをそれぞれ発表してもらおか。じゃあまず海さん」


「わたくしですか⁉」


 ウーミーが飛び上がる!


「想像したやろ? ほれ、正直に言うてみーな」


「えっと、わたくしは……こ、恋人つなぎまでですわ!」


 ウーミーさん顔真っ赤。なんかもう湯気が出ているくらい真っ赤だ。

 ピュアッピュアでかわいいことこの上ないんだけど、その状態で百合営業なんてできるのかが心配すぎる!

 海桜じゃなくて桜海ならなあ。ピュア後輩攻めピュア先輩受け。捗るわあ。


「よしよし、ちゃんと言えてえらいで。海さんはいちいち反応が初々しくて、心が浄化されそうやわ……。それじゃ次、レイちゃんにも聞いとこか」


「わたしは口にキス……をしているところを見せずに絶妙に隠して周りに想像させる、というところで線を引きます」


 細かくてマニアック!

 でもなんかすごいわかるー! 逆光でシルエットだけ見せるとかね!


「さすがレイちゃん。しっかり想像できとるね。じゃあカエちんいっとこか」


「ボクは額にキスかなあと思ってたけど、レイの周りに想像させるってのも良いなあと思いました!」


「ありがとうございます。それでは失礼して」


 レイがボクの顔を見ながらにじり寄ってくる。

 いや、今やれってことじゃないからね⁉ どうどうっ!


「はい、一般人カエちんもおおきに。続いて桜さん」


「サクラは! サクラは……頬にキスしようとして、『え、何?』と顔の位置をずらして口と口にキスするハプニングでお願いします!」


 サクにゃんが大声で宣言する。

 マンガでよくあるやつー。「今の事故だから! ノーカンだから!」って、自分の好きなシチュエーション発表会じゃないよ?


「桜さんはそういうのが好きなんやなあ。ほなまた今度な。じゃあ次、早月さん」


 なにが「ほなまた今度」なのか……。一応言っておきたいのだけど、チェリプルでそういうのは……まあマンガの中なら良いけどね。


「私の番ですか~。私は、ホントに好きなら全部良いと思います~」


 あら大胆。でもホントに好きなら、か。


「営業的に言うとどうなんや?」


「そうですね~。みんなが見たいのは耳たぶ甘噛みまでだと思います~」


 選択肢にないやつを言うんじゃないの!

 たしかにそれはめちゃくちゃ見たいですけど!


「ブラボ~! さすが早月さんや。すばらしい答えや! じゃあラスト、百合マスター」


「その百合マスターというのは、なんとかならないのかしら……。私は見せるなら最後別れる時に口でのキスをせがむけれど、おでこにキスをして去っていくのを希望するわ」


「別れること前提なんや?」


「そうよ。百合営業も最後きちんと終わらせてほしいわね。なあなあでそのキャラ設定を捨てて普通に接されても、見ているこっちとしては2人の関係どうなったのかモヤモヤが残ってしまうのよ」


 ウタが声を荒げてテーブルをバンバン叩いている。


 めちゃくちゃいらだってますけど、やっぱりそれは実体験ですよね?

 以前アイドルファンをやっていたのかな?


「生々しいご意見おおきに。はい、全員出そろったな。これでわかったと思うんやけど、線引きは人それぞれ。気持ちの良い引き時なんてないっちゅ~ことやね」


「つまりどうしたら……」


 サクにゃんもウーミーもおろおろしていた。


「つまりや。少しずつ、自分たちのペースで、無理のない範囲で段階を踏めばええんや。背伸びは厳禁。普通の恋愛と一緒やで~」


「ありがとうございますですわ。少し安心しましたわ!」


 2人とも天啓を得たかのように晴れやかな笑顔をしていた。

 めでたしめでたし。


「では続いて第2章や」


 え、まだ続くのこれ?

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