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第4話 世界一かわいいキメ顔と百合営業の関係とは?

「よ~し、全員0章を読んで、世界一かわいいキメ顔をキメとるな? みんなごっつかわいいやん。さすが現役のアイドルや!」


 現役のアイドル……とてもいい響きだ。

 2ページ目に進める資格があるのは、現役のアイドルだけっ!


「なぜ世界一かわいいキメ顔をさせるのか。わかる人おるか?」


 シオがボクたち生徒のほうを見てくる。

 うーん、ボクには見当もつかないなあ。


「お、元気よく手があげられてえらい! はい、早月さん」


 シオがメイメイを指す。

 え、メイメイ手を挙げてたの⁉


「は~い。えっと~、アイドルは世界一かわいいからです~」


 ん?


「はい、正解や!」


 え、正解なの? ぜんぜん理解できなかった。もしかしたらボクは頭が悪いのかもしれない……。


「アイドルになるんは、自分を世界一かわいいと思っとる人間だけや! つまりアイドルは世界一かわいい! かわいいは正義や!」


 シオセンセがホワイトボードを叩きながら熱弁する。

 うん? わかったようなわからないような。でも、最後だけ他の人の言葉の引用ですね。


「ほか、わかる人おるか?」


「はい、ですわ」


 ウーミーが行ったぁ!


「よし、海さん言ってみよか!」


「アイドルとは人に見られること。自分自身をどれだけかわいく魅せられるか。どれだけ自分の魅力を見つけてもらえるか。キメ顔はアイドルの名刺代わりなのですわ」


 お、おおー。キメ顔はアイドルの名刺代わり。

 めっちゃそれっぽい!

 さすがウーミー。アイドルというものをしっかり研究してるなあ。


「うむ、正解や!」


 やっぱり正解か!

 しっくりくるもんね。


「キメ顔は自分の魅せ方の集大成っちゅーこっちゃな。名刺代わりちゅー表現もなかなかわかりやすくてええで」


 シオセンセのグッドボタンいただきました。


 自分をどうセルフプロデュースして、ファンにどう見てほしいのかはキメ顔に現れるんだなあ。

 つまり、悪役令嬢顔でキメたウーミーは、自分のことを少しミステリアスでセクシーに見てほしい。

 にゃんこポーズのサクにゃんは、自分のことをネコみたいにかわいがってほしい。

 口に人差し指を当ててナイショポーズのメイメイは、黙って私を見てほしい。

 頬に手を当てて困ったわポーズのウタは、察して助けに来てほしい。

 目をつぶってキス顔のレイは、とてもかわいい。


 みんなちゃんとキメ顔を持ってるなあ。

 ボクのキメ顔? はずかしいから秘密です。


「はーい! シオセンセのキメ顔が見たいです!」


 わざとらしく大声で叫んでみる。

 さて、困らせてやろう!


「なんだね、カエちん。この百合博士とも呼ばれるシオセンセにキメ顔がないとでも思っとるのかね? 1000のキメ顔を持つ女・三井栞とはうちのことやでっ!」


 シオセンセが首をかしげてウィンクしたまま4秒静止。


 き、キメ顔だぁ!

 なるほど、そう来ましたかあ。恥じらいはなく、自信に満ち溢れた表情でのウィンク。細身の長身でスタイルの良いシオにピッタリすぎるキメ顔だあ。


「お見それしました!」


 ボクは素直に頭を下げた。

 良いものは良い。認めます。


「うむ。わかればよろしいのだよわかれば」


 シオは満足そうにうなずいた。


「さて、ここからが本題や。『キメ顔と百合営業、どんな関係が?』そう思っとる人も多いやろな。これがわかれば他の章はサラサラっとノウハウだけ吸収したらええねん。キメ顔を制する者は百合営業を制す。この質問に答えられたらもうほぼほぼ卒業や!」


 ほぅ。あと少しで百合営業とは何かをつかめるのか。

 さあこいっ! 受けて立つ!


「さっきのキメ顔を見せたい相手は誰か、ですか~?」


 メイメイがのんきな声で言う。

 相手? それはもちろんファンじゃないの?


「な、んだと……。早月さん、すでにその領域に……。もはやうちが教えることは何もない……卒業おめでとうや」


 シオがわざとらしく膝をつく。

 え、うそでしょ? マジで?


「わ~い。卒業です~! ありがとうございます~」


 メイメイが喜びのダンスを始めてしまった。

 そしてメイメイは卒業した。

 

 なぜだ⁉


「何が起こったのか、その領域にない一般人のボクにも説明してくれない?」


「すまんすまん。次の質問は、ほんまに早月さんの言った通りなんや。『さっきのキメ顔は誰に見せるための顔か。その顔を見せたい相手は誰か』」


「それと百合営業に関係があるんですの?」


 ウーミーが不思議そうな顔で尋ねる。

 うーん、ボクも今のところわからないな。


「関係おおありや。ほんなら、海さんはさっきの顔は誰に見せたい顔だったん?」


「そう、ですわね。とくに考えておりませんでしたが、ファンの方たち、ですわね」


 まあそれが普通の答えっぽい。

 アイドルだし。


 シオが人差し指を小さく横に振りながら微笑する。不正解、という意味だろうか。


「具体的に誰に見せたいかも定まっていないんは、真のキメ顔とは言えへんな。海さんが言ってるんはこういうことやで。『誰でも良いけど誰か私を見てくれる人、好きです! 結婚してください!』っていうのと一緒や。そんなターゲットも定まってない告白になんか意味あるんかっちゅー話や」


「キメ顔は固定レス……。そういうことですの……。わたくしが間違っておりましたわ」


「そうや。固定レスもええな。名刺代わりも固定レスも、特定の相手がいるっちゅーことは一緒やで。誰に向けた顔なのか。誰に見てほしいのか。キメ顔の真の目的はそれなんや」


 なるほど、なんとなく意味がわかってきた気がする。

 

「サクラ、ぜんぜんそんなこと考えていなくて……ネコになりたいな~ってことしか……アイドル失格ですか……」


 サクにゃんのネコミミが萎れてしまった。

 精神的な大ダメージを受けたようだ。


「今気づけた。新人アイドルなんやから何の問題もあらへん! これから一緒に百合営業道を歩んでいこうやないか!」


「はい、シオセンセ! サクラ、百合営業がんばります!」


 手に手を取って、たぶん2人だけに見えている夕日を指さして感動の涙を流していた。

 なんていうか、入り込みやすい2人だなあ。そっとしておこう。


「わたしは最初からかえでくんをイメージしてキメ顔をしていたので卒業ですか?」


「まあ、あえて触れんかったんやけど、レイちゃんは最初から講座を受ける必要はあらへんねん。海さんのサポートに回ってくれたら助かるわ」


 シオが微妙な笑みを浮かべている。

 最初から受ける必要がない、とは?


 レイさんのキメ顔って……キス顔ではなかったですかね?

 ボクとキスしたいの……? まいったな。


(かえでくんはキスしたいですか?)


 えっ……と。

 そうストレートに聞かれると、なんだろう……やっぱりわからない。


 レイのキス顔は正直かわいかった。レイのことも好きだ。

 でも、キスしたいのかと聞かれると……わからない。ボクの好きは恋愛の好きなのか、まだその答えにはたどり着けていないんだ。もう少し待ってほしい。


(わかってます。わたしの気持ちを固定レスしただけなのですよぅ)


 このかわいさよ……。

 世間に発表したい欲と、誰にも見つかってほしくない欲が複雑に入り混じって頭がおかしくなりそう。

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