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第10話 タロット占いの結果は?

 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。

 冷めたオムライスもおいしかったし、花さんのパフェ踊り食いも、まあ楽しかったし、仙川さんがコーヒーに謎の液体を入れて透明にする手品(?)もすごかった。

 メイメイはあのあとオムライスを3杯もおかわりして、パフェも2つ……すごく大食いなことも新情報として手に入れられた。


 メイメイとバディかあ。

 最高かよ。

 

 遠くから眺めているだけでよかった。

 Eternal Loveうちわを振っているだけでよかった。

 握手会が復活すればな、とは思っていたけれど、メジャーデビューしたらそんなの無理なことくらい理解していたし、それでも売れてほしかった。

 ずっとずっと≪初夏≫の成長と活躍を見守っていたかった。


 と、思ってたんだけど、深層心理ではメイメイの特別になりたいって気持ちがあった、のかなあ。

 

 我ながらキモイ夢を見ていると、客観的に思ってしまう。

 こんな妄想垂れ流しているオタがいたら、速攻ブロックするね。

 はい、ボク、キモイキモイ。


「100面相をずっと見ているのもおもしろいので良いのですが、そろそろ消灯時間ですよぅ」


 声に驚き、反射的にソファーから立ち上がろうとする。

 

 ゴッ。

 痛っっ……。


 頭蓋骨を通して鈍い音がする。

 ボクはあまりの痛さにソファーに倒れこんでしまった。


「痛いです、ひどいです……」

 

 見ると仙川さんが鼻のあたりを抑えてうずくまっていた。

 どうやらさきほどの声の主は仙川さんで、ボクはあごに向かって頭突きをしてしまったようだった。


「ごめん! 大丈夫⁉」


「大丈夫じゃないです……。鼻血出ていないですか?」


 仙川さんが押さえていた手をどけてみせる。

 ほんのり赤く腫れているように見えるが、血は出ていなかった。


「ちょっと赤いけど、鼻血は出てない、かな」


「とても痛いです。今日は運勢が悪かったので気をつけていたのに最後の最後で……」


「ごめんね……。あ、そうだ。仙川さんは占いが得意なんだっけ?」


「得意というほどではありません。師匠の指示で最近少し始めた程度です。毎日の行動の指標にするために、朝は必ずタロット占いをするようにしています」


 そう言って、仙川さんは顔のサイズくらいある細長いカードを広げて見せてきた。


「高級そうな……本格的だね」


「これは師匠に譲っていただいたんですよ。占いは形から入りなさいと」


 そういうものかね。

 占い。

 女の子は好きだよね、という程度の関心……だけど。


「ぼ、ボクも興味あるなあ、もし良かったらちょっと占ってほしいかも」


「しかたないですね。同室のよしみで占ってあげましょう。今日だけは特別にタダにしてあげますよ」


 そう言って、口元だけがにやりと笑う。


 だからそれ怖いって……。

 顔も一緒に笑って?


「わ、わーい。ありがとう……」


「ではしばらく準備を」


 仙川さんはタロットカードを手にしたまま、自室へと入っていった。

 今占ってくれるわけじゃないのね。

 準備……形から入るって言ってたけれど、生贄を捧げたりとか? まさかね?



「おまたせしました」


 五分ほどして、仙川さんが戻ってきた。

 

 準備ってそっちか。


 黒いとんがり帽子に、黒いローブ。

 右手にはタロットカードで、左手には煙の出ている陶器の器。良い香り。アロマかな。

 ホントに形から入るタイプだったんだね。


「ではそちらにおかけください」


 ソファーではなく、ダイニングテーブルのほうへと誘導される。

 大理石調のテーブルの上には、怪しげな模様が描かれたマットを敷かれていて、真ん中にタロットカードの束が置かれている。マットの左隣には、アロマの香り漂う器。


「そちらへ」


 再度促されて、テーブルに備え付けられたイスに腰掛ける。

 魔女っ子仙川さんは、テーブルをはさんでボクと反対側の椅子へ。


「では始めます。深呼吸をして、タロットカードを眺めながら思いを集中させてください」


 深呼吸。


「……思い?」


「はい、今一番関心があること。現在のことでも、未来のことでも、過去のことでも……今一番気になっていること、もの、人」


 関心。

 ……人。

 メイメイ。

 何か悩んでいたのか。

 願わくは、今笑っていてほしい。

 メイメイにボクができることがあるのか。

 ボクが何かできることがあるなら教えてほしい。


「はい、終わりました」


 ボクの前には三枚のカードが並べられていた。


「これはスリーカードと言って、過去・現在・未来を占うものです。まずは過去から見ていきますね」


 そう言って、仙川さんはボクから見て右側のカードをめくった。


「これは過去。月のカードがでました。正位置です。不安、恐怖、誤解などを表しています。何か手の届かないものや見えないものに手を伸ばそうとして、それに届かず不安を感じていた、夢を見ていたのかもしれません」


 夢か。今の状態がまさにそうなのかもしれない。2年前の夢だから、これが過去の幻想なのか。


「次のカードは現在。死神のカード、正位置です」


「死神⁉ もしかして死ぬの?」


「違いますよ、そんな怖いカードではないです」


 仙川さんは小さく笑った。


「死神のカードは終焉、停止などを表すカードです。強制的な終わり、そして再生。自己変革ととらえることもできます。これまでの自分が死に、新たな自分が生まれる。ある意味チャンスのカードです」


「新たな自分か……」


 たとえば女の子になる、とかね?

 はい、笑えない冗談でした。


「最後が未来のカード。……なるほど、悪魔の逆位置ですか」


「また物騒な……これはどんな意味が?」


「これはとらえ方が非常に難しくて。カード自体の意味は、自立、克服、困難な状況からの解放です」


 そうですね、と仙川さんは少しの間あごに手を当てて考え込んでしまった。


「そうですね……過去、現在からの流れで言うと、何か見えないものと戦っていた状態が強制的に終わりを迎えた。そして生まれ変わり、幻想に打ち勝ち解放される、といったところでしょうか」


「……良さそう、な感じなのかな?」


 難しいけれど、悪くない気がする。


「おそらくは。……良い未来のように見えます。ですが、未来が悪魔のカードなので気をつけなければいけませんね。せっかく生まれ変わった状態なのだから、自ら行動して、悪魔に打ち勝つ、そういう気持ちで積極的に行動しないと、悪魔の誘惑に負けて良くない未来へと変わってしまうかもしれません」


 積極的に行動、か。

 考えているばかりじゃダメなんだよな。

 自分にできることはないか。

 なくてもとにかく何か行動しよう。

 そこから見えてくるはず。

 死神のカードで生まれ変わったんだから。


 これだけは夢から覚めて起きた時にしっかり覚えていたい。


「仙川さん、ありがとう。なんだかすっきりしたよ」


「それは……よかったです。お役に立てたみたいでうれしいです。もう消灯時間過ぎているので部屋に戻って休みましょう」

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