第9話「発明ドワーフと爆発の日々。」
「ちょっと通るよー!」
叫び声とともに、村の広場に突っ込んできたのは、見たこともない乗り物だった。 まるで壊れた屋台に虫の脚をくっつけたような代物。車輪が三つ、脚が四本、上にはパラソルのような屋根。操縦しているのは、煤まみれの小さな男だった。
「ブレーキ! どこだっけ!?」
次の瞬間、車体が派手に横転し、白煙とともに爆音が響いた。
ロルクが叫んだ。「うわっ!」
フランデルが声を上げた。「爆発芸か!?」」
転がるように飛び出してきたその男は、丸ゴーグルに焼け焦げたエプロンを着けた、典型的な“何かをやらかす側”のドワーフだった。
「大丈夫か?」
ロルクが駆け寄ると、男はケロッと笑った。 「うん、大丈夫! 爆発したけど、意図的なやつだから!」
フランデルが肩をすくめた。「いやいや、今のは偶発でしょ!?」」
「どうも、ノームです! 発明家やってます!」
そのまま彼の“研究小屋”という名のジャンクヤードに案内された一行。
内部には、歯車、ばね、謎の薬品、紙に書かれた数式の走り書き……というか、爆発物予備軍の山。
ロルクは眉をひそめた。「……これ、何を作ってるんですか?」
ノームは胸を張った。「世界を変える装置(仮)!」
フランデルがつっこんだ。「括弧仮!? それ、まだ構想レベルだよね?」
壁の一角には、年季の入った設計図が飾られていた。
「これ、じいさんが描いたやつ。むかし、この装置で世界変えようとしたらしい。危なすぎて、自分で封印したけどね」
「じゃあなんで、引き継いでるんだ?」
「んー、あの人失敗が怖かっただけかも。だったら俺が爆発して、限界見とこうと思って」
無邪気な笑みと、そこはかとなく焦げ臭い実験装置の山。
「失敗って……まあ、ちょっと燃えるよね!」
フランデルがぼやいた。「いや、実際に燃えてるのが問題なのよ……」
その日、一行は“火を吹くトング”“勝手に動くお玉”“爆風式換気装置”の実演を受け、もれなく全員ススまみれになった。
けれど、どこか楽しかった。
ロルクがつぶやく。 「……ノームさん、失敗ばかりでも、めげないんですね」
「そりゃそうだ。失敗ってのはさ……名前のない素材みたいなもんなんだよ。あとで気づくと、もう使えてたりする」
フランデルがふっと笑った。
「文化ってさ、だいたい火薬と紙と好奇心からできてんのよ」
誰かが鼻をすすった。「……焦げくさ」 でも、なんとなくその匂いが、未来っぽい……ような気もした。
次回予告:「エルフの森は今日も沈黙。」
詩に、魔法に、心がない。感情を捨ててなお、美しい音を奏でるエルフたち。 けれどその中に、わずかに揺れた心があった──それが、共鳴の始まり。