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第24話「ただいま、世界。」

──朝の村、パンの焼ける匂い。


フランデルはパン窯の前で、生地をそっと天板に並べていた。 ロルクは隣で、粉まみれになりながら成形を手伝っている。


「この前のやつ、ちょっと塩、効かせすぎたかも?」 「いや、逆にクセになったって評判でしたよ」


何気ないやりとりの中に、ふたりの呼吸が自然に重なる。


ふと、ロルクがパン生地をこねながらぽつりと聞く。


「フランデル、次は何を変えましょうか?」


その声に、フランデルは一瞬だけ手を止めた。


「それはね……もう、みんなが自分で決めていいんだよ」


そう言って、またパンをこねる手を動かす。



外では、ミルたち子どもが色とりどりの夢を紙に描いていた。 イレアは教会の壁に新しい掲示板を作っていた。 「考えることは、信じること」と書かれた手作りの紙が貼られている。


クレドは相変わらず縁側で茶をすする。 「向上心なんて、無理に持つもんじゃない」とぼやきつつも、フランデルの新作パンをこっそり楽しみにしていた。



その日の夕暮れ、空はまるで焼きたてパンのような橙色だった。 パンの配達を終えたフランデルは、村の坂道を登って戻ってくる。


「……あー、疲れた……けど、うん、悪くない」


広場の入り口で、子どもたちが「おかえりー!」と手を振る。 フランデルは、ふっと微笑んで、


「──ただいま」


その一言に、村の空気がふわっと和らぐ。


誰かが返す。「おかえり」


それだけで、世界は、今日もあたたかかった。




やり直して、ほんとうによかった。 そう、心の底から思える。


神じゃなくても、パン屋でも、 誰かの明日を少しでも楽しみにできるなら。


それで十分。


──ここが、今の私の“居場所”だ。



【完】


おまけ:神界愚痴会


──神界・休憩所(別名:愚痴溜まり)


「……で、フランデルさん、帰ってこなかったんですよ」


神界の使者がため息まじりに報告を終えると、周囲の神々が一斉にコーヒー(神界ブレンド)をすする。


「パン焼いてるって聞いたぞ」 「え、神やめてパン屋? それマジ?」 「いやあいつ、最初から妙に地上ノリよかったしな……」


「てか、お前あのとき“絶対戻る”ってかけてたよな?」 「くっ……ぐぬぬ……!」


「でもよ、なんだかんだで楽しそうだったな」 「私もちょっと行ってみたい。……パン、食べてみたい」


「いや、地上送りはもう充分だろ」 「でもパン……」


──こうして今日も神界は、静かに、そしてどこか未練がましく、地上を見上げるのであった。

お読みいただきありがとうございました。

いかがでしたか?


王道ストーリではないですが、もし、もし、もしも、

楽しんでいただけたのなら、うれしいです。

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