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第22話「私たちが変えた、世界のカタチ。」

──夜明け前、村の広場。


フランデルは焼きたてのパンを並べながら、空気の“匂い”を確かめるように深く息を吸った。パンの香ばしさに混じって、何かが変わり始める気配があった。 「……今日、なんかある気がすんだよな。鼻がざわついてる」


その勘は、的中する。


「ロルク! ちょっと来て!」


呼びに来たのは、ミルのばーちゃんだった。 手には、古びた布に包まれた何か。


「うちに昔っからある唄でね。意味はさっぱりだけど、最近これ口ずさむと……なーんか胸がソワソワすんのさ」


ばーちゃんが詠んだその旋律には、どこか聞き覚えのある響きがあった。


フランデルの顔が凍りつく。 「……それ、ただの民謡じゃない。神言語ルーン……しかも、祝詞のりとに近い構文だ」



フランデルはロルクを連れて、自宅の奥に封じていた巻物を取り出す。 その名は、《神文書グリモアル・リザード》。


「みんなネタだって笑ってたけど……ほんとにあったんだな、これ」


巻物に記された文と、ばーちゃんの詩が一致していた。


──《目覚めしは、意志持つ種子。その名は、未来を紡ぐ声。》


その言葉に、空気がひとしきり震えた気がした。


「これ……俺のこと?」 ロルクが戸惑う。


「あるかもな。だって、お前だけだったろ? 誰に言われたわけでもなく、勝手に動き出したの」



その日の午後、村の広場でロルクは、子どもたちに手伝ってもらいながら何かを作っていた。 「“パンが焼ける音”で目覚まし時計を作りたいんだ」


「それ意味ある?」と誰かが聞いた。


「意味? うーん……まだない。でも、“あったら楽しいかも”って思ったら、止まんないんだ」


その言葉に、大人たちが足を止める。


「意味なんかなくても、やってみたくなるなんて……そういや、いつ以来だったっけね」



その夜。


空に浮かぶのは、巨大なルーンの紋章。 フランデルが手を掲げた瞬間、それは光を帯びて、村全体を包み込んだ。


「これが……ヴィスベルクの“第二段階”……! 心が、直接世界に触れてる……」


村人たちの胸に、それぞれ光が宿る。


それは、“こうなったらいいな”の形。


誰の目にも映らなかった。けど、確かに胸ん中にあった“あったらいいな”のかけら。


未来の欠片。



次回予告:「さよなら、駄女神。」


フランデルに、神に戻る選択肢が与えられる。 だがそれは、この世界を見捨てるということ──。 彼が選ぶのは、“再び神になる”か、“人としてここに残る”か。

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