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第20話「向上心って、おいしいの?」

──早朝、パン屋の前。


フランデルは開店準備をしながら、少し不思議な違和感を覚えていた。 最近、子どもたちの間で“歌”が流行っていることにも、何か通じる気配だった。


「……なんか、今日はやけにザワザワしてんな」


ざわざわとした空気。その理由はすぐにわかった。


「ねえねえ、フランデルさん! これ見てよ!」


元気な声で走ってきたのは、村の少女・ミルだった。 手には紙と、子どもらしいカラフルなクレヨンの絵。


「これ、将来の夢の絵なんだって!」


「へえ……なに描いたの?」


「“空飛ぶパン屋さん”!」


「ほう、それは高度な技術が……」


「あと、ロルクくんと結婚して、パンを二人で焼くの!」


「はいストップ!」


後ろからロルクが顔を真っ赤にして現れる。


「それ俺、初耳だから!」



村の子どもたちは、フランデルの店の前で“将来の夢”を描くようになっていた。 きっかけは、フランデルがぽつりと語った一言だった。


「夢ってさ、“今ないけど、あったらワクワクする”ってやつだよ」


その言葉に子どもたちは目を輝かせ、紙を広げ、色を塗り始めた。


「お空でお料理したい!」 「水に潜れる家がほしい!」 「お兄ちゃんの病気が治ったらいいな……」


最初は“絵のお遊び”だったはずなのに、村の大人たちも立ち止まるようになった。


「……あんな夢、いつから見なくなったんだろうね」


誰かのそのつぶやきに、フランデルはパンを焼きながら答えた。


「向上心って、頑張るってことじゃなくてさ……“ちょっと面白くしてみようかな”って感じのやつだよ」



その日、子どもたちが描いた夢の絵のひとつが、ふと風に乗って宙へ舞い上がった。 その絵には、空に響く歌を歌う少女が描かれていた。


ふわり、と空に浮かぶ一枚の紙。


それはまるで、自分の意思で飛んでいくかのように、静かに高く、ゆっくりと。


──その瞬間。 空気が一変した。


パンの香ばしい匂いに混じって、胸の奥がふるえるような気配が走る。


空が、きらりと震えた。 まるで、世界そのものが“それ”に反応したかのように。


浮かぶ絵の紙がやわらかに光を帯び、白昼の空に虹のような波紋がひろがっていく。


ロルクが呆然とつぶやいた。 「……あれ、魔法……? え、マジで……?」


その中心に、ゆっくりと言葉が浮かび上がる。


《共鳴:ヴィスベルク》 ──それは、以前エルフの森で目にした“感情と音の共鳴”が、初めて形を持った瞬間だった。


誰かの“こうなったらいいな”が、 確かに、世界に届いた瞬間だった。



その夜、パン屋のカウンターの片隅に、小さな貼り紙が貼られた。


《将来って、楽しそう。──ミル》


フランデルはそれを見て、小さく呟いた。 「……その言葉、ちょっと借りるね」



次回予告:「神界からの最終通告。」


天界でついに、世界リセット案が正式に議論される。 “やり直す”ことの意味と重さ。人々の意志は、神の決定に届くのか──?


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