第2話「まずいパンとやる気ゼロの村」
地上・アルトリア、辺境の村
朝。鳥も鳴かなければ、村人の掛け声もない。静かすぎる田舎の空気の中、フランデルは地面にうつ伏せで埋まっていた。
「……痛い……土、かたい……てか空気うす……」
昨日落ちてきた衝撃の余韻を引きずりながら、なんとか上体を起こす。周囲には小さな畑と、くすんだ屋根の家々。
「これが……私のやらかしで止まっちゃった世界……?」
ゆっくりと立ち上がる。そこへ、昨日出会った少年――ロルクがパンのカゴを抱えて近づいてきた。
「おはようございます。……あの、大丈夫でしたか? 落ちてきたわりに、普通に立ってるので……」
「神だからね。……たぶん。」
ロルクは「?」という顔をしつつ、差し出してきた。
「よかったら、朝ごはん……パンです」
フランデルは受け取ったパンを見た。
丸い。硬い。やけにずっしりしてる。
「……これ、武器?」
「え? パンですよ?」
とりあえずかじってみる。
バキィ。
「っ……歯ァ折れるかと思った……! なにこれ!? パンの皮か!? 中身は!?」
「全部それです」
「全部それ……」
フランデルはパンをまじまじと見つめた。
「いや、待て……これ、まさか……この世界の標準……?」
ロルクは少し申し訳なさそうにうなずく。
「みんなこういうパン食べてます。昔から変わってません」
「変わってない……つまり、誰も“もっと美味しくしよう”って考えたことないのか……」
その瞬間、フランデルの中で何かがチリッと火花を散らす。
「ふーん……じゃあ、変えてみようか」
ロルクが目を丸くする。
「えっ?」
「いや、パンがまずいとかそういう話じゃなくてさ。いや、まずいけど。問題は、“それが当たり前”になってることだよ」
村を見渡す。誰もが無表情で、同じ動作を繰り返している。
「……うわ、マジで止まってる。文化も感情も、全部省エネモード……」
彼女は拳を握った。
「よし、まずはパンだ。世界が止まってんなら、パンで殴って動かすしかないでしょ。……名付けて! パン革命ッ!!」
ロルクはますます理解が追いつかない顔になっていた。
「……パン、ですか?」
「パンだよ。パンがすべてを変える。……たぶん」
その日、フランデルは村のパン屋に向かった。
だがそこには、思った以上に“強敵”が待っていたのだった――。
次回予告:「パン革命、起こしてみた。」
頑固なパン職人。硬すぎる常識。そして、ふわふわの奇跡――。世界を動かすのは、バターでも神力でもなく、“ちょっとの面白がる力”だった。