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第19話「イレア様、揺れる信仰心。」

──教会記録室、夜。


イレアは蝋燭の明かりの下、報告書と向き合っていた。 ページの上に走るペンの音だけが、静寂を裂くように響く。


「……感情表現の増加。劇や演奏など、精神活動の高まり……」


一行ずつ読み上げながら、彼女の眉間にはじわじわと皺が寄っていく。


「これは……神の教義に反する……のか?」


指が止まり、視線が遠くなる。


思い返すのは、村で見た“あの劇”。 笑い声。涙。 そして、心を揺さぶられた自分自身の感情。


──あれを「悪」と言い切ってしまってよいのか。


その迷いに、小さな声が差し込んだ。


「また、難しい顔してる」


振り向けば、そこにいたのは──フランデルだった。


「……あなた、勝手に入らないでください」


「開いてたから、つい」


「鍵は閉めていたはず……」


「気のせいじゃない?」



フランデルは書類に目を通すと、イレアの横に腰かけた。


「で? まだ“地は動かない”とか信じてるの?」


「あなた……まだそんなことを……!」


「だって、地動説って“考える”ってことじゃん? 信じる前に、ちゃんと考えてみようよ。教えだって、止まってちゃもったいない」


「神の教えは、変わらぬものです……」


「ほんとに? じゃあ、“信じる”って何?」


イレアは、言葉に詰まった。


「……子どものころ、信仰は“守っていれば傷つかない”と思ってた。 でも今は……信じてる“つもり”で、ただ考えるのをやめてたのかもしれない」


静かな沈黙。


フランデルはにっこりと笑った。 「それ、もう揺れてる証拠だね」


イレアは、報告書の上にペンを置き、深く息をついた。


「……私は、まだ“揺れて”いいんでしょうか」


「むしろ、揺れない方が怖いよ」



翌朝、イレアの姿は調査室から消えていた。 ただ、机の上には一通の書き置きと、閉じられた聖書。


《私は、もう少しだけ“考える信仰”に、向き合ってみようと思います──イレア》



次回予告:「向上心って、おいしいの?」


子どもたちに“夢”を与える。フランデルと出会った少女が、“将来って楽しそう!”と目を輝かせる──。 感情が魔法に変わる、その兆しが生まれる。

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