第18話「天界からの刺客!?駄神オルグ登場!」
──天界。
「オルグ、そろそろ行ってもらえるか?」
「……え? どこに?」
「下界。転生任務だ。フランデルの進捗チェックに行ってくれ」
「……やだ」
「却下だ。荷物まとめとけ」
*
村の空に、ふわりと小さな光が落ちてきた。 それは、ゆっくりと降下してくる茶色い布団だった。
中身は、
「……寝てたのに……どこだここ……」
──駄神・オルグ。
長髪ボサボサ、肩は落ちて、目の下には深いクマ。 気配もテンションも地面スレスレ。
フランデルは、その姿を見てぽつり。 「……寝落ち系か……」
*
「オルグ。神らしいけど、働かないし、たぶんよろしく」
自己紹介ですら立ったまま言えず、布団にくるまりながらの挨拶。
ロルクは警戒しながら囁く。 「本当に……神、なんですか?」
「たぶん? 神の名簿にまだ残ってる……かも」
「“思う”って……」
*
オルグは特に何をするでもなく、村の縁側に横たわり始めた。
「仕事? 神が汗かいてたら、逆に信用なくなるでしょ」 「信仰? いや〜……俺、あがめられるのとか苦手でさ」
フランデルは苦笑しつつ、パンを焼く手を止めない。 「で? あんたが来たってことは、天界は何か進展を気にしてるってことだよね?」
「うん……まあ……チェックしに来た、っていう建前はあるけど……正直、地上って暖かいし……パンうまいし……もう帰りたくない」
「ダメです」
「えっ」
*
村人たちは最初、警戒していたが── 「逆にこの神様、なんか安心する……」 「だって、動かないし、怒らないし、寝てるし」
一周回って、**“空気のような神”**として受け入れられていった。
そんな中、ロルクがぽつりと呟く。 「……でも、この人……何かを変える気は……あるのかな……」
フランデルはパンを取り出しながら、にやりと笑った。 「さあね。でも、来たってことは……きっと、それなりの意味がある」
そのときだった。 オルグが、布団の中でわずかに目を開け、寝返りを打つ。
「……うーん……まあ、しょうがないか……」
ごそりと指をわずかに上げたかと思うと──
ぱちん、と小さな音。
その瞬間、空気が一変した。 風が静まり、光が村全体をやわらかく包む。
空にひとすじ、虹がかかった。けれど、それは水滴の屈折ではない。 色のないはずの空に浮かぶ、七色の“気配”だった。
「……なんか今日、空気いいよね。いや、気のせいじゃないよ、たぶん」
そのままオルグは布団にもぐり込んだ。
ロルクが息をのんで呟く。 「……今のって……祝福……?」
「寝ながらでもやるんだなぁ、あいつ……いや、やる気出てないのに、やっちゃうのが一番すごいのかもね」
フランデルはそう言って、焼きたてのパンをトンとカゴに置いた。
*
次回予告:「イレア様、揺れる信仰心。」
教義監察官イレア、再登場。 信仰と理性、過去と今、神と人──そのはざまで揺れる“信じる”という行為の物語。




