表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

第14話「地動説 vs 天動説バトル勃発!」

その朝、村の通りに緊張が走った。 教会の使者が来た、と誰かが言った。


しばらくして、神聖教会 教義監察官──イレア・セレフィーネが村に入る。 銀の刺繍の濃紺のコート、背筋の通った姿勢。


「神の名を騙る不届き者がいると聞き、当該人物の引き渡しを求めます」


誰かがパン屋を指さした。 イレアの視線がそこに向く。


「また会いましたね。あの時“地が動く”などと、軽々しく公言なさった方」


店内でパンを焼いていたフランデルが顔を上げ、ふわっと笑う。 「えー、覚えてた? つい言っちゃったやつ。発想の自由って怖いよね〜」


「公開の場で、討論させていただきます」


  *


村の広場に即席の壇が組まれた。 片側には、神の不在を唱える教義監察官イレア。 もう片側には、“神は今ここにいる”と笑いながらパンを焼くフランデル。


地動説 vs 天動説。 信仰とは何か、神とは何か── 言葉の一つひとつが、空気を震わせる。


村人たちが集まり、ざわつく。 「パン屋の前で討論会って……」「いやパンはうまい」


「……“神はいない”。今の教会は、そう結論づけています」


「おお、きたな」 フランデルはパンの焼け具合を確認しながら軽く返す。


「“かつてはいた”。だが今は去った。だから、教義が人々を導くのです」


「で、“神様がパン焼いてる世界”は想定外ってわけだ」


「そう。神とは崇高で、計り知れない存在であるべき──」


「ふーん。私、けっこうわかりやすいよ? バターも塩も多めだし」


笑いが漏れ、しかしイレアは揺るがない。 「発想の自由は、教義の否定になりかねません」


「じゃあ、“考えること”も否定するの?」


村人のひとりがつぶやく。 「……なんかさ、この人……パン焼いてるとき、ちょっと、楽しそうだった」


ロルクがぽつりと。 「イレアさん……怒ってるっていうか、悲しそう」


その言葉に、イレアの眉がかすかに揺れた。 「……神が、いればよかったのに」


パンの香りが、ひときわ強くなる。


フランデルが焼きたてのパンを差し出す。 「熱いから気をつけて」


イレアは、それを静かに両手で受け取った。 パンの温もりが掌にじんわりと広がっていく。


──こんな感情、教義には書かれていない。


「……私は、神などいないと思ってきました」 「そう信じなければ、生きてこれなかった」


フランデルは何も言わず、ただ横でパンを切った。


「けれど……」イレアの声が少しだけ震えた。 「それでも、こんなにも温かいものが、あるのなら」


彼女はパンを見つめたまま言った。 「今はただ、それを疑わずに受け取ることにします」


それが、信仰なのか、人間としての弱さなのか──彼女自身、まだわからなかった。


フランデルが小さく笑う。 「……うん。うん、そっか。……それでいいよ」


次回予告:「魔族の王も無気力でした。」


敵国との接触。現れたのは、戦う気ゼロの“寝たい系男子”な魔族の王!? やる気ゼロの王に、フランデル式“やる気出させ大作戦”が始まる──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ