第13話「バレた。というか、バラした。」
パン屋の朝は、いつもと変わらないように見えた。 フランデルはせっせとパンを焼き、ロルクはそれを黙々と並べる。
だが、村の空気は少し違っていた。 昨日、広場で誰かが言ったのだ。
「パン屋のフランデルさん、神様なんだってよ」
──誰だリークしたやつ。
ざわめく村。遠巻きに様子を見にくる住民たち。パンを買いに来るついでに祈り始めるおばあちゃん。
ロルクがぼそっと言う。 「……隠す気、ありました?」
「あるよ!? むしろ、めっちゃあった!」
「けど“例の扉”何度も出てきてましたよね……」
「……うん。まあ、それは否定できない」
結局、昼にはパン屋の前に村人が集まり始めていた。 神様にしてはやけに庶民的な服装。 焼きたてパンの香り。 そして、本人のゆるい態度。
その全てが、信仰というよりも好奇心を煽った。
「神様って、朝からパン焼くんですか?」 「お賽銭、どこに入れれば?」 「悩み相談いいですか?」
フランデルはパン屋のカウンター越しにため息をついた。
「……あー、もう、いいや。バレたなら言うわ」
ざわ……
「神様だけど、拝まれんの苦手でさ。だからパン屋やってるの」 「で、ちょっとヤバい世界リセットとか、止めたくて。“やる気”とか、育ててる感じ?」
しーん。
「なんか質問ある?」
手が挙がる。 「やる気って……どう育てるんです?」
フランデルはちょっとだけ考えて、にやりと笑った。
「……あー、うん。パンみたいなもん、かな。気まぐれで、焦ると失敗するし、でも待てば、ちゃんと膨らむ」
村人たちは一瞬きょとんとして──そして、なんとなく納得したように頷いた。
「じゃあ、俺もちょっとがんばってみるか」 「私、明日早起きしてみます」 「パン買って帰ります」
フランデルはほっと息をつき、ロルクを見る。
「……改革って、宣言した瞬間が一番こわいんだな」
ロルクはうなずいた。 「でも、それって“前に出た”ってことですよね」
フランデルは笑った。 「……まったくもう、いいこと言うなあ、うちのバイトくん」
次回予告:「地動説 vs 天動説バトル勃発!」
神はいない──そう断言する少女、イレアが現れた。 パン屋の神様は、それを聞き流すかと思いきや、真っ向からぶつかっていく。 信じること、変わること、その違いってなんだ?パン屋の壁に貼られた“供給停止”の文字。その裏にある、もうひとつの世界。