第1話「駄女神、落とされる」
天界一のぐーたら神、フランデル=ルミナリナ。
やる気ゼロで人間界を停滞させた罰として、彼女は地上へと落とされる。
果たして駄女神は、この平和すぎる世界を動かせるのか──ドタバタ転生劇の幕開けです。
天界、ぐーたら神の私室(?)
雲に包まれた浮島の上。絹のようなカーテンが風に揺れるその奥で、一人の女神が全力で昼寝していた。
「……んぅ〜……もうちょっと……あと三千年寝たら本気出す〜……」
フランデル=ルミナリナ。創造神にして、天界でもっとも“やる気がない”ことで有名な神様だった。
彼女の仕事は、人間界の設計と進化の監督。だったはずなのに――
「ん? なんか、騒がしい?」
遠くから聞こえる鐘の音に、彼女は片目だけ開けた。
次の瞬間、神界全体に鳴り響くアナウンスが響いた。
『フランデル=ルミナリナ、至急、審判の間へ。繰り返す、駄女神フランデル、お尻に火がつく前にお越しください』
「……え、マジで? やば……」
慌てて身支度を整えながら、彼女はブツブツとつぶやいた。
「いやいやいや、むしろ表彰とか? いや〜嬉しいな〜! 私的には完璧だったし? ……てか、なんで呼ばれたんだろ?」
天界・審判の間
重厚な扉が開くと、そこには神王レウスと数柱の神々が並んでいた。
「フランデル。君の設計した人間界は……完全に停滞している」
神王の静かな声に、フランデルは肩をすくめた。
「停滞って……いや、平和ってことでしょ? 戦争もなくて、みんなのんびりしてるし? むしろいい世界じゃん?」
理知神セレナが眼鏡をクイッと上げて、冷たく言う。
「“向上心”が、完全に欠如しています。進化の兆しゼロ。教育、文化、技術、全停止です」
「え? ……マジで?」
フランデル、頭をかく。
「うっわ、やっちゃった?」
「やっちゃったじゃない!」
激情神バルが机を叩いて立ち上がる。
「貴様の怠慢のせいで、アルトリアの進化は数千年も遅れたんだぞ!」
「……や、ちょっとした調整不足っていうか〜。いや、でもさ、向上心って……最初から入ってなかったような気もするんだよね。あれ? 私、外したっけ……? ま、いいや。あれ入れるとさ、誰かが誰かに勝とうとしたり、すぐ張り合い始めて、技術競争でドッカーンとかやるでしょ? それより全員足並みそろえて、ぬる〜く穏やかに暮らした方が平和じゃない? そういう世界、理想じゃない?」」
「黙れ」
一言でフランデルを黙らせたのは、神王レウスだった。
「罰として、お前を人間としてアルトリアに転生させる」
「えっ、ちょ、待っ――」
言い終わる前に、足元が崩れた。
地上・アルトリア某所の空
青空を引き裂くように、光の矢が一筋、地上へと落ちていく。
「うわああああああ!? これ絶対セーフじゃない落ち方――っていうか着地どうすんのコレええええ!!?」
叫びながら、彼女は地上へ――
堅くて冷たい土に激突した。
どすん。
「……いってぇ……これ、マジで罰ゲームじゃん……」
彼女の目に最初に映ったのは、のっぺりした表情の少年だった。
「……えっと、大丈夫ですか? 空から……落ちてきました、よね?」
「え、そっちの反応が想定外すぎるんだけど……どした、ここ?」
彼女は、自分のやらかしで止まってしまった世界に、ようやく足を踏み入れたのだった。
――そして、世界が、少しずつ、動き始める。
次回予告:「まずいパンとやる気ゼロの村」
止まった世界、硬すぎるパン、無気力な村人たち。駄女神が最初にぶつかる“現実”とは?
戦い、、ありません。
当然魔王討伐もなしで、魔法なんて、ちょっとしか出てこないです。
でも、お読みいただけたら嬉しゅうございます