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第6回小説家になろうラジオ大賞byごはん

散歩してくると言い張る賢者に婚約者は待つことをやめた





「ちょっと散歩してくる」




 ──婚約者は、何でもない事のようにそう言って、私の前から度々姿を消した。



 王宮魔法師団の先鋭。

 類稀なる魔法のセンスと戦闘能力から「賢者」の異名を持つ彼が最初に散歩に出かけたのは、五年前。


 その時は国内で暴れ回っていたドラゴンが討伐された。

 その次は国境沿いの盗賊団が根絶やしにされ。

 冒険者ギルドも手を焼いていた魔物の大氾濫の鎮圧に、王宮騎士団も総出になった王族の誘拐事件。

 

 記憶に新しいのは魔王討伐だった。流石にその時は彼も一瞬疲れた表情を見せ、傷だらけの満身創痍で私の前にあらわれ。

 それでも何でもない事のように「ただいま」と口にした婚約者に、私は内心複雑な心境をかかえ、返す言葉もなかった。


 王国の七英雄のひとり。彼の増える実績と勲章に比例して、二人で過ごす時間は少なくなり。



「ちょっと散歩してくる」



 その、いつもの言葉が何度目かも分からなくなって──いや、私が考えるのを諦めたとも言う。



 彼は「散歩」と言い張っている。

 ここに帰って来る気はあるのかも知れない。


 ──それでも。


 とうとう、私は待つことをやめる決心をした。




 度重なる遠征に、各地で増える彼の愛人や行きずりの相手。

 英雄、色を好むとは言うけれど、凡人の私には耐えられなかった。



 本当は彼を支える立場にならなければいけないのかも知れない。

 でも、もう、その役目は他の方に譲ろうと思う。



 私は婚約破棄の書状をしたためる。


 「散歩」なんてなまぬるい。




 婚約破棄の書状と共に、



 『ちょっと冒険して来ます』



 と、置き手紙を添えて。



 私は彼の元から姿を消した。










 それが、三年前の話。

 冒険者ギルドに登録し、がむしゃらに働いて頭角を現した私は、数多の魔物を討伐。

 最高ランクの冒険者として名を馳せ、今では彼に並び立ち、時に追われる立場となった。


 待たせた数年分、彼の誠意をこれから確かめようと思う。


 でも、広がりを見せた視界に、お付き合いをするなら、元婚約者はナシだと最近思えるようになった自分は、色々と成長したのかも知れない。



 待つことをやめた私は、今度こそ、彼を忘れて未来に向けて本気で冒険しようかと思います。

 

 

 

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― 新着の感想 ―
拝読させていただきました。 そうです。 ただただ待って、嘆くのはおしまい。 自分の力で羽ばたきましょう。
そうだそうだ、置いていってしまえ! 待つだけなんて辛いもの。『自分こそ主人公』の心意気良しです!
婚約者は気持ちを伝える言葉足らずなだけのパターンだったのかな。 ラジオ大賞の文字数制限も大変ですね。主人公が何者かもわからないのは内容にあまり関係ないとして 最後の何行か(これから誠意を確かめようと思…
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