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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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99.仲間との旅路の始まり

「二人ともこれを見て!」


 寝る前にセシルがスマホの画面を見せつけてきた。その画面を見ると、そこには一台の自転車の写真が載ってあった。


「これは……魔動自転車ですか?」

「そう魔動自転車!」

「それがどうしたの?」

「この魔動自転車を……買おうと思います!」


 えっ、魔動自転車を買う? いきなりどうしたんだ?


「ほら、一千万オールも報酬貰ったじゃない。それを何に使おうかなって思っていたのよ」

「無難に武器や防具でいいんじゃない?」

「でも、今は武器や防具に困ってませんしねぇ」

「だーかーら! 三人で使えるものを考えたのよ」


 私の武器は三百万オールしたから、そう簡単に買い換えることもできないしな。フィリスの防具も家から持ってきた一級品だし、双剣も良い物を買ったからまだ使える。そうなると、別の物になるか。


 その画面をよく見ていると、魔動自転車の値段が書かれてあった。


「……十万オールもするけど」

「へー、それくらいで買えるんですね」

「三台買っても三十万オールよ! これくらいの値段なら買っても平気じゃない?」


 貰ったのは一千万オールだから、三十万なんてはした金のようだ。


「これから私たちは不死王を追って旅をしなくちゃいけないじゃない。だから、足の代わりがあったほうがいいと思うのよね」

「その時々の乗り物じゃダメなんですか?」

「それだと、深夜バスの二の舞をくらうかもしれないじゃない。それに私たちの移動は町から町への移動が多いでしょ? それくらいの距離なら、この魔動自転車で済むと思うのよね」

「まぁ、歩くよりは楽だね」


 今のところ不死王は通ってきた町に寄って、その度にネクロマンサーを置いていっているみたいだ。それを考えると、私たちの行動はその都度町に寄ってネクロマンサーを探す感じになってくる。


「今後は町から町に移っていく感じになると思うから、それくらいの距離を楽に行ける手段があったほうがいいと思うの」

「他人が乗っている乗り物に乗るよりも、その方が気楽でいいですね。私は賛成です」

「私もいい。他人と一緒じゃないから気楽に行ける」

「良かった! じゃあ、明日は魔動自転車と野宿道具を買いに行きましょ!」

「野宿道具ですか?」


 ……そうか、一日で移動が完了する訳じゃないから、途中で野宿が必要な時があるんだ。


「これから野宿しながら町から町に移っていくから、野ざらしで寝るのは嫌でしょ? だから、テントとか買っておかないとって思って」

「確かに、野ざらしでずっと野宿は不安ですね。本格的な野宿の道具が欲しくなりました」

「いいんじゃない。お金も沢山あるし、必要な物は買っておかないと」

「じゃあ、明日は魔動自転車と野宿道具を買いに行こう! ふふっ、楽しみね」

「買い物がですか?」

「野宿も結構楽しかったじゃない。それに、ユイの手料理が食べられるからね」

「あぁ、確かに! それはいいですね!」


 私の料理が? 別に普通の料理だと思うんだけど……そんなに楽しみにしてくれているのか。でも……。


「……料理は交代制にしない?」

「無理ですー! 私に料理は無理ですー!」

「私も無理よ! 絶対にできないわ!」


 二人に料理を勧めると、二人は手を首をブンブン振って拒否した。


「覚えれば簡単だからやってみない? ……まぁ、私が教えてもいいけど」

「うっ……ユイに教えてもらえるのは魅力的だわ」

「あのユイさんが自ら協力を……」


 私の申し出に二人の心が揺れ動いているみたいだ。そんな反応をされると逆に恥ずかしくなるな。


「と、とりあえずユイが料理をしているところ見るところから始めるわ」

「私もそれくらいから始めたいです。いきなり手を出すのは怖いです」

「えっ……見られながら料理するの?」


 それはそれで恥ずかしいな。料理をするって言っても、自分のための料理ばかりだったから、人に見られるほどに手際がいいわけじゃない。


「……まぁ、それで二人がやる気になるんだったら」

「ふふっ、ユイが私たちのために何かをやってくれるのが嬉しくてね」

「ですね、あのユイさんが……」

「……もう、それはいいでしょ」


 いかに前の私が素っ気ない態度を取っていたか、だな。これからはそうしないように気を付けないと。そうしないと、いつまで経っても二人が慣れてくれない。


「じゃあ、明日に備えて寝ましょう」

「はい、おやすみなさい」

「おやすみ」

「ユイがおやすみの挨拶をしてくれてるー!」

「これは貴重ですよ!」

「……こんなんで一々テンションあげないでくれる」


 全く、二人ときたら……。でも、こうしてちゃんと面と向かって挨拶をするのはいつぶりだろうか? ちょっと照れ臭いけど、嬉しい気持ちだ。大丈夫、少しずつ慣れていけばきっと私も普通になれる。


 ◇


「今日もいい天気ね。絶好のサイクリング日和だわ!」


 第三領都の後門に私たちは立っている。空は快晴で気持ちがいい。強い風も吹いていなくて、魔動自転車が進むのに楽な環境だ。


「必要なものは昨日買っときましたよね。忘れ物はないですよね」

「昨日、散々確認したから大丈夫」

「うんうん。昨日一日買い物に費やしたから、漏れはないと思うわ。それにしても、昨日の買い物は楽しかったわね。お金のことを気にせずに買えるのがあんなに楽しいなんて思わなかったわ」

「ですね。私は貴族ですが、お金を気にせずに買ったことはなかったです。だから、あの体験はとても貴重でした」

「欲しい物が買えるのは楽しかった」


 昨日は三人で必要な物を買いに行った。仲間と認めてから初めての買い物で、仲良く買い物することができたと思う。まだ距離感が取りづらいのが大変だったが、それはこれから慣れていこう。


「ユイと仲良く買い物ができるのがあんなに楽しいなんてね」

「ようやく、築けた関係ですから。楽しいに決まってます!」

「またそんなことを……。慣れてもらわないと困る」

「えへへっ、つい嬉しくて」

「うんうん、その気持ち分かります」


 意識されすぎて少しやり辛い。でも、私も同じ気持ちだ。それを素直に言えればいいんだけど、中々言えない。今までは好き勝手なことを言っていたのに、どうして臆病になってしまったのか。


 きっと関係を築いてしまったから、それが壊れるのが怖くて好き勝手な事を言えなくなってしまったんだ。人間関係は面倒な事が多い、それでも人は関係を切ることはない。


 これから私はこの二人と良い事も悪いことも一緒に共有する旅路に出る。色んな事が起こるだろう……困った事や嬉しい事を沢山経験するだろう。一つずつ経験を積んでいって、絆を深めていく。


 それを思うと少しだけ心が弾んだ。悪いこともあると分かっているのに、どうしてこんなに楽しみだと思う心があるのだろう。その理由はこの先の旅路で見つけていく。


「……二人とも」

「ん、何?」

「どうしたんですか?」

「その……」


 自分の気持ちを伝えるのがこんなにも難しいとは思わなかった。少し口ごもった後、二人をしっかりと見つめて口を開く。


「これから……よろしく」


 そう言うと、二人は少し驚いた顔をして、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「めちゃくちゃよろしくするよ!」

「今まで以上によろしくします!」

「いや、普通でいいから」

「普通じゃあ、つまらないじゃない」

「楽しいことを沢山しましょうね」

「はー……もう行くよ」


 テンション高めの二人にはついていけない。私は魔動自転車に跨ると、ペダルを漕ぎ出した。すると、後ろから二人が慌ててついてくる。あっという間に私の両隣に並んだ。


「次の町に向けて、出発です!」

「楽しい旅の始まりよ!」

「……もう、うるさい」


 楽しそうな二人の声を聞きながら、ペダルを漕いでいく。道は真っすぐ続いていて、次の町まで私たちを導いてくれる。


 仲間との旅路が始まった。

ご愛読ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
え〜 もっと読みたい 久しぶりに読んでいて楽しくなる物語に出会えたのに、 もう終わりだなんて寂しい
完結おめでとうございます!昭和風な異世界が良かったです!ちょっと寂しいですが次回作に期待します
見事な打ち切りエンドお疲れ様でした。「終わってやがる」「ヒロインの周りがウザ過ぎたんだ」 これから普通に恋や冒険が楽しくなると思っていたのに残念。
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