92.目星をつける
問題のなかった車はそのまま門を通って町の中に入ってしまった。私たちは門番隊長に車が到着する場所を教えてもらい、その場所へと急いでいった。
その場所に行くと、町の一等地の場所に辿り着いた。車が止まったのはその中でも大きな屋敷がある場所。高い塀に囲まれて、門からも屋敷の様子が見えない。これでは荷台に何が入っていたか分からない。
「この距離だと何をしているのか分かりませんね。どうします、中に侵入しますか?」
「私のサーチ魔法でも何かは引っかかっているんだけど、それが何か分からないのよね」
「この目でアンデッドの姿を見れればいいんだけど……。よし、侵入するか」
「侵入するならこの鎧は邪魔になりますね。脱いできましょうか?」
「いや、私一人で侵入する」
「えっ、ユイ一人で?」
私一人で侵入するというと二人は驚いた顔をした。
「侵入は慣れている。ゾンビに見つからないように建物に入って移動するのは日常茶飯事だった」
「いやいや、一人でなんか行かせられませんよ! 何かあった時、どうするんですか!?」
「そうよ、一人でなんて危険よ! 私たちも一緒に行った方がいいわ!」
「二人はこういう経験ないだろ。だったら、一緒にはいけない。邪魔になる」
そう言うと二人は悔しそうに顔を歪めた。
「……それは私たちとは協力できないっていう意味はありませんよね?」
「ユイがそれが得意だから、自分に任せてくれって言ってるって思ってもいい?」
「……別に協力できないとか思ってない。ただ、自分にはその適正があるからやるだけ。今回は一人の方がやりやすいと思っただけだから」
自然とそんな言葉が出てきた。はじめの頃みたいに絶対に協力したくないっていう気持ちはない。自分がその事に長けているから、自分がやった方が良いと思っただけに過ぎない。
それを言うと二人は安心した表情をした。
「ユイさんはそういう事が得意だから自分に任せて欲しいっていう意味で言ったんですね。手助けができないのは悔しくありますが、私はユイさんを信じます」
「ユイが自信を持って任せて欲しいって言ってくれているんだもの、仲間として信じなくちゃね。無事に戻ってきてくれることを祈ってるわ」
なんだか二人してスッキリとした雰囲気になっている。信じて待ってくれることに、少しだけ落ち着かない気持ちになった。なんかこう、体の奥から力が湧いてくるような感じだ。
「ちゃんと戻ってくるから。その……待っていて」
「はい、分かりました!」
「待っているから!」
話しかけるのがくすぐったく感じるのはどうしてだろうか? ……別に深い意味はないのに。
不思議な感覚に戸惑いながらも、私は塀の上に飛び乗って敷地に侵入していった。
◇
屋敷の裏手に周り、裏口から屋敷の中に侵入する。体を低くして周囲を確認してから、先に進む。扉に耳を当てて廊下に誰もいないことを音で確認すると、扉を開けて廊下へと入っていく。
できれば誰かがいてくれた方が探しやすいんだけど、人が少ないのか遭遇しない。どこかに人はいないか探していると、とある部屋から話し声が聞こえてきた。こっそりと扉を開けると、中でメイドの二人が掃除をしているところだ。
「ねぇ、あんたは新しい職場決まった?」
「決まったわよー。そういうあなたは?」
「私はまだなんだよねー。あーあ、この商会に入れば安泰だと思ったのに、まさかこんなことになるなんてね」
何か気になる話をしていないかとそのまま張り込んでみると、メイドたちは気になる話をし始めた。
「そういえば、最近地下に何かを沢山搬入しているみたいだけど……何かしら?」
「さぁ、良く分からないわ。今の内に商品とか仕入れているんじゃない?」
「でもさー、搬入した男たちの顔色が優れないんだよね。何か良くないものを搬入しているに違いないわ」
へぇ、地下に何かを搬入していると。もしかしたら、あのレンガで覆われた荷台に積まれたものかもしれない。これは地下に行って確かめないと。
ゆっくりと扉を締めると、周囲を確認しながら地下に続く階段を探し始める。廊下を進んでいると人の声が聞こえてきた。このままだと鉢合わせになる。私は咄嗟に空いている部屋に入りこんだ。
そこで扉に耳を当てて、廊下の気配を探る。
「地下に運んだあれって……人の形をしていたよな」
「でも、人にしちゃ軽かったぞ。きっと人形か何かなんだろうよ」
「あんなに沢山の人形をどうするんだよ。あーあ、この商会も終わりだな」
「いやいや、まだやりようはあると思うぞ」
二人の男が話しながら廊下を歩いていた。どうやら地下に何かを搬入している話をしていたみたいだ。だったら、あの男たちが行っていた先に地下へと続く階段があるということか。
廊下から男たちの気配がなくなると、その部屋を出て行く。それから男たちが来ていた方向へと進んでいく。すると、そこに地下へと続く階段があった。注意深く周囲を確認した後、その階段を降りて行く。
地下に降りると、いくつかの扉があった。どの扉に話しに出てきた人形があるかは分からない。これは手当たり次第に探す必要がある。
上階から人が来ないことを注意深く確認しつつ、一つずつ扉を開いていく。殆どが物置になっていて、人形らしきものは見当たらない。
いや、人形を置くようなスペースがある部屋がないことが問題だ。でも、あの男たちは地下に人形らしきものを置いたと言っていた。なら、そういう部屋があるはずだ。
全ての部屋を探してみたが、どの部屋も小さな部屋で人形らしきものはなかった。一体、運んだ人形はどこに行ったのか? しばらく考えていると、廊下の突き当りに目がいった。
そこは壁になっていて、扉はなかった。でも、部屋の配置を見ると、その先に部屋が合ってもおかしくない構造だ。ちょっと調べてみよう。
突き当りの壁を触って確認する。すると、小さな窪みができているのに気づいた。その窪みに指を突っ込んで弄ると、取っ手が現れる。どうやら、この壁は壁じゃないようだ。
その取っ手を引くと壁が扉のように動いた。どうやら、当たりみたいだ。部屋の中に入ると、一部の電灯がついていて少しだけ明るかった。その電灯の明かりが照らし出した物がある。
「これが人形?」
広い部屋には布でグルグル巻きにされた、大人の大きさの物が沢山置かれていた。これが噂の人形だ。扉を締めて部屋に入る。そして、その人形のところに近づいた。
触ってみると、窪んでいる所と固い部分がある。人形というには歪な形をしていた。これは一体なんなんだ? そう思って、布を捲って中身を確認した。
すると、中から出てきたのは白くて細い物。はじめはそれがなんなのか分からなかったが、もっと布を捲ってみる。中から現れたのは、人の白い骨だった。
これは人形なんかじゃない、人間の骨だ。いや……ただの人間の骨じゃない。これはアンデッドのスケルトンだ。本物のスケルトンか確認する必要があるな。
「神よ、無垢なる魂をお送りします」
一体の骨に浄化魔法をかける。すると、突然その骨がビクンと動き出した。この反応は……アンデッド! そして、そのスケルトンは脱力して二度と動かなくなった。
「なるほど、ここにある物は全てスケルトンか」
広い部屋に所狭しと並べられた、布に包まれたスケルトン。この数が町に解き放たれればパニックは避けられない。そして、それを許した公爵の名にも傷がつく。復讐にはもってこいの舞台が整う訳だ。
この場にスケルトンがいることが確認できた。ここで、ここにあるスケルトン全てを浄化することもできるだろう。だが、勝手に動けば敵がどんな手段を取って来るか分からない。
それに他の場所にもスケルトンがいた場合、それを解放して町に解き放つ可能性もある。だから、ここは余計な事はせずに報告だけ持ち帰ろう。
自分の行動が決まると、部屋を出て行こうとする。しかし、扉の向こうから足音が聞こえてきた。その足音はこちらに向かってきているようだ。
ここで出るのはまずい、一旦隠れよう。私は布に包まれたスケルトンにその身を隠し、その時を待った。しばらくすると、部屋の扉が開かれる。誰が来たのか見て見ると、五十代くらいの男性が現れた。
その男性は部屋を黙って見回した後、突然笑い出した。
「あともう少しだ。この部屋がスケルトンでいっぱいになるころ、私の復讐が始まる。待っていろ、公爵めっ。私を除け者にした事を後悔させてやる!」
あの男が公爵に恨みを持つ者、ネクロマンサーという訳か。この町をアンデッドで襲おうと思っているみたいだけど、そんなことはさせない。男の企みは阻止する。
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