91.しつこい人たち
「だから、私は他人を信じられない」
今の私になった原因と言えるホームの話をした。二人とも辛そうに表情を歪めていて、口を開かない。まぁ、こんな話を突然されても困ると思う。
「ずっと一人で生きてきた。だから、そう簡単に生き方を変えられない」
一人でなんでもこなしていたから、今更他人と協力する生き方ができるとは思えない。二人も早く私から離れて、自由になればいいのに。心の中で突き放そうとすると、少しだけ胸が痛んだ。この痛みはなんだ?
部屋は静まり返り、誰も何も言わない。そう思ったのに――
「ユイさんの事は良く分かりました。私たちを突き放す理由も見えてきました。だから、余計に思うのです。私はユイさんと一緒にいたいと」
「は?」
「そうね……今の話を聞いて私も同じ気持ちよ。というか、余計に離れちゃいけないって思ったわ」
「い、いや……どうしてそんな話しになる?」
今の話を聞いて、どうしてそんな思考ができるのか分からない。混乱する私を置いて、二人は喋り出す。
「ユイさんの強さも弱さも良く分かりました。強くならなくちゃ生きていけなかったかもしれません。ですけど、ユイさんに必要なのは信用できる仲間だと思うんです」
「大切な人を失って、それが原因で他人が信じられなくなる気持ちは分かるわ。でも、そんなユイを支える事ができるのは他人である私たちだと思うのよ」
私に必要なのは……仲間? 私には支えが必要? 今まで全然そんな事は考えられなかった。上手くいかない時は自分に力がないせいだと、自分のせいにしていた。だけど、上手くいかないのは信用できる人がいなかったってこと?
「だから、これからは私たちがユイさんを支えていけるようになります。ユイさんが困ったら助けてあげられるような……本当の仲間になりたいです」
「ユイがちゃんと私たちの事を信じられるようにならなくちゃね。今に見てなさい、ユイが心から信じれるようになってみせるんだから!」
この二人はまだそんな事を言っているのか。私よりも弱いくせに支えるなんて……。あれだけ他人の事が信じられないって言ったのに、まだ信じさせようとしているとか……。本当に馬鹿だ。
だけど、嫌な感じがしない。その理由は分からない。
「ユイさんには仲間の素晴らしさをとことん味わっていただきましょう。まずは協力し合う心強さから教えないといけませんね」
「人を信じる頼もしさを知ることも大切よ。信じられるから、絆が深まると思うのよね」
「絆……いい言葉です。私たちにしか結べない絆を結びましょう。決して壊れることのない絆を結べば、最強のパーティーになりますよ!」
「どんな強敵も私たちの絆の前では弱くなる、そんなパーティーがいいわね。なるわよ、最強のパーティーに!」
「魔王を倒せるくらいの最強パーティーを目指しましょう!」
なんで、そんな話になるんだ? 全く、この二人はしょうがない事ばかり考えるんだから。こっちの調子が狂う。
「そうだ! ユイが色々と話してくれたから、私たちの事も知ったほうがいいんじゃない?」
「そうですね、ユイさんの事ばかり知っても仲良くなれません。だから、私たちの話しもしましょう」
「……それって、話を聞けっていうこと?」
「これは強制だからね!」
「今日は寝かせません!」
これは面倒なことになった。気にせずに寝ようとしたのだが、二人に無理やり体を起こされて寝るどころじゃなかった。
◇
翌日、寝不足になりながら私たちはネクロマンサーを見つけるために町の中を歩き回った。セシルのサーチ魔法を使って、どこかにアンデッドが潜んでいないか探し回った。だけど、適当にサーチ魔法をかけたところで広い領都内は探すのに苦労する。
やはり、ここは何か目星をつけてサーチ魔法を使った方が良い。その目星のつけ方は――
「今日も沢山の人が並んでいますね」
「この中から目星をつけるのも大変ね」
私たちは第三領都の正門に来ていた。もし、アンデッドを町の中に入れているのであれば、かならずここを通るはずだ。もし、ネクロマンサーがまだアンデッドを町の中に入れているのであれば、の話しだが。
「では、我々はいつも通りに対応しますので、何か気づいたことがありましたら声を掛けてください」
門番の隊長はそう言って定位置に戻っていった。私たちが公爵に協力していることは伝わっているみたいで、私たちが怪しい人物がいないか調べると言うと快く協力してくれた。
「この中から怪しい人物を見つけるのは大変ですね。どういう基準で調べるんです?」
「調べるとしたら、アンデッドを隠すことができる馬車だろう」
「じゃあ、人の方は調べなくてもいいのね。でも、調べるって言ってもどうするの? 全ての馬車をサーチの魔法で調べることはできないわよ。その前に魔力が尽きてしまうわ」
「門番たちが行っている、積み荷の確認を一緒にする。そして、アンデッドが隠れそうな場所があればサーチ魔法をかける。こんな感じかな」
列になっている人は調べなくてもいい。そこにアンデッドが混じっていれば、門番が気づくはずだ。門番が気づかないとなると、やはり積み荷の中だ。きっと、町の中に入ったスケルトンは隠されて町の中に入ったはずだ。
私たちは馬車の積み荷が見える場所に移動する。門番たちが馬車後方の布を捲り、中を確認した。その時に一緒に覗いて、本当におかしい部分がないか確認する。
だけど、その確認もすぐに終わる。町の中に入りたい馬車が沢山あって、一台にかける時間が短くなっているせいだ。
「この馬車はどうです?」
「……パス。どうみても隠れるところがなかった」
「じゃあ、この馬車はサーチしなくても大丈夫そうね」
小さな馬車で中も小さな箱が積み重なっただけだから、どうみてもアンデッドが隠れる場所がなかった。その馬車の審査が終わると、また次の馬車がやって来る。
さて、これから長い戦いになりそうだ。
◇
それから、一台ずつ馬車を調べていった。怪しくない馬車ばかりで、サーチ魔法の出番は殆どなかった。あったとしても、サーチ魔法にかかることはなく、退屈な時間が過ぎていく。
何か変わったことがないか? そう思っていると、道の遠くから猛スピードで近づいてくる車があった。それは町に入る時に見た、強引に横入りしてきた車だ。
その車は並んでいた馬車を追い抜かし、強引に先頭に入ってしまう。門番たちは「またか……」と言った諦めの表情で、車からその人たちが降りてくるのを待つ。
あまり事情を知らない私たちは門番隊長に話を聞いてみた。
「あの人たちは?」
「あぁ、あの人たちは公爵家お抱えの商会イグニスなんです。いつもこうして強引に先頭に入ってきて、町の中に入っていくんです。全く困ったものです。でも、それもあと少しで終わりなんですけどね」
「どういうこと?」
「今月いっぱいで公爵家との縁が切れるということです。あまりにも横暴な態度が目に余って公爵様はこの商会と縁を切ることを決めたんですよ。だから、箔がある今の内に商売を多く手掛けているみたいです」
ふーん、そういうこと。一応、公爵家お抱えっていうのは嘘じゃなかったんだ。でも、それが今月で切れると……。公爵に恨みを持っている人物でもあるね。
考え事をしていると、車から人が出てくる。
「我らはリトンモーグ公爵家ご用達の商会イグニスだ。先に道を開けろ!」
そう言って、門番たちが対応する。押し問答をした後、門番たちは諦めてその車を通すことにした。だけど、規約なのか門番たちはいつものように荷台の布を取って中身を確認する。
その中に入っていたのは、天井まで高く積まれたレンガの壁があった。ふーん、中が見えないのか。これは怪しい。
「セシル。あの馬車にサーチの魔法をかけて」
「うん、やるね」
セシルに指示を出すと、セシルはサーチの魔法を発動させた。
「……ん?」
「どうしたんですか?」
「微力の何かの反応があるんだけど、それがなんなのか分からなくて。でも、レンガじゃない他の何かの反応はあるみたい。もし、アンデッドならはっきりと分かるんだけど……なんだろう、これ。もしかして、阻害魔法?」
不可思議な反応を受けてセシルが怪訝な顔をした。へぇ、怪しい車が見つかったね。
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