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ゾンビがいる終末世界を生き抜いた最強少女には異世界はぬるすぎる  作者: 鳥助


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90.ゾンビが蔓延る世界(2)

 大切な人たちを失って一人になった私は悲しくて仕方なかった。ずっと泣いて、泣いて……涙が枯れ果てるまで泣き続けた。


 そんな私にホームの人は優しく接してくれた。私の大切な人を見捨てたのに、何食わぬ顔をしていた。なんで助けてくれなかったのか、と悔しい気持ちもあったけど、悲しい気持ちの方が強かったから優しさに縋ってしまう。


 その優しさが偽りのものだったのに。


 大切な人たちがいなくなっても、私は生きて行かなくちゃいけなかった。人数が減っていくホームには誰もが働き手にならないといけない。それは子供の私にも課せられる。大人と同じように働かなくちゃいけなかった。


 ホーム内の仕事はもちろん、ホームの外に行く仕事もした。ゾンビに怯えながらの食料集めは毎回命がけだ。私なりに頑張って働いていたけど、その最中に話を聞いてしまった。


「あの時はあの人たちを盾にして良かったな」

「だな。あの子には悪いけど、生き残りたかったし……」


 それは、私の両親を盾にして生き延びた人たちの呟きだった。その話を聞いて、全身の血の気が引いた。じゃあ、あの人たちが両親を盾にしなかったら、生きていてくれたってこと?


 どうして、生きているのが卑怯な事をした人で、両親が犠牲にならなくちゃならなかったの? あの人たちがいなくなれば良かったのに! 面と向かって言えなかったから、心の中で叫んだ。


 だけど、それだけじゃなかった。ホーム内で働いている時に聞いた話にまた愕然としてしまう。


「あの姉妹に擦り付けられて良かったわ。じゃなかったら、今頃私たちは……」

「丁度いいところにいてくれたからな。本人は気づいていないのが救いだな」


 姉を失った私に優しくしてくれた人がそんな事を言っていた。私は信じられない気持ちでいっぱいになった。あの人たちのせいでお姉ちゃんは感染して、あの場に置き去りにされたの? 言葉に出せない失望が私を襲った。


 両親もお姉ちゃんも誰かのせいで感染した。その事実を受け止めるのは、小さかった私には大きすぎて受け止め切れなかった。どんな感情を出せばいいのかも、何を恨めばいいのかも分からない。


 ただ、その事は頭の中で浮かんでは消えていき、また浮かぶ。次第に私は感情を閉ざして、他人と距離を置くようになった。周りの人は心配そうに声をかけてくれるが、それが煩わしく思い始める。


 少しずつ私の中で何かが壊れていった時、ホームが崩壊する事件が起こった。


 ホームの中に感染者は入れない。それは絶対な掟になっていて、感染が疑われた人は問答無用でホームの外に追い出された。だけど、感染した事を隠してホームに入った人たちがいた。


 それは、みんなが寝静まった夜の事だった。いつものように一人で寝ていると、突然叫び声が聞こえた。その声に驚いて起き上がり、懐中電灯をつけて声がした所に行った。


 そこでは二人の大人が寝ていた人を襲っている。みんなで懐中電灯を襲っていた大人に向けると、その顔はゾンビに変貌していた。ここでみんなが気づく、感染者がホームにいた事実に。


「感染したことを隠していたのか!?」

「くそっ! あのゾンビを倒すぞ!」

「噛まれた人も外に出さなきゃいけないわ!」


 その場は騒然となり、暗がりの部屋で懐中電灯の光りだけが騒がしく動いている。そんなことをしている内にゾンビになった人が動き出した。その動きはいつものゾンビよりも速く、暴走ゾンビ化している。


「暴走ゾンビだ! 早く殺せ!」

「武器はどこだ!?」

「誰か早く!」


 その場は混乱して怒声が響く。その間に暴走ゾンビ化した人たちはホームの人たちに襲い掛かった。部屋に悲鳴が響く中、私はその場から離れた。早く、逃げなくちゃ!


 一生懸命に考えた、あのゾンビから逃げるにはどうしたらいいか。この暗がりの中、ホームの外に出るのは危険だ。だったら、事が収まるまでどこかに隠れていた方がいい。そう思った私は、大きな戸棚の中に隠れることにした。


 いつゾンビに襲われるか分からない緊張で私の心臓は煩く鳴った。戸棚の向こう側では、ホームの人たちの怒声や悲鳴が聞こえ続けている。私にはどうすることもできない。ゾンビに立ち向かう力なんてない。恐怖を堪えて隠れることしかできなかった。


 じっとして、息を殺して、ひたすら戸棚に籠った。大きくなる怒声と悲鳴が聞こえると、体が跳ねて恐怖で震える。これじゃあ、なんの為に掟を守ってきたか分からない。


 感染者をホームの中に入れない、という掟のせいで両親もお姉ちゃんもホームの外に放り出された。なのに、それを守らない人が出てきた。それが酷くショックだった。


 こんなことになるんだったら、両親とお姉ちゃんとも最後まで一緒にいたかったのに……。どうして、他の人は掟を守ってくれなかったの? 破るような真似をしなかったら……。


 その事をずっと考えていると、私はいつの間にか眠りについてしまっていた。ふと、気が付くと戸棚の隙間から光が差し込んできているのに気づいた。


 ハッと我に返って、戸棚の中から周りの状況を確認する。ホームの中は静まり返っていて、逆に不気味だ。だけど、このままここにいられない。勇気を出して戸棚の中から出て行った。


 怯えながら出て行き、人の姿を探す。しばらく歩いていると、一室にみんなが座り込んでいるところを見つけた。そのみんなの中心には血まみれで倒れている、大人が二人いることに気づく。


 声をかけると、みんながハッとしてこちらを振り向いた。その姿を見て、私は言葉を失う。みんな、体のあちこちをゾンビによって傷つけられていたのだ。


 みんな、感染していた。それに気づいた私は自然と叫ぶ。


「感染しているなら、出て行ってよ!」


 火が点いたように、私は叫び続けた。ゾンビに傷つけられた人は何か言っていたけれど、私はずっと出て行けと叫び続けた。


「私のお父さんやお母さんも、お姉ちゃんも……ホームから追い出された! だから、みんな出て行けー!」


 両親を盾にした人も、私たち姉妹にゾンビを擦り付けた人も……みんな出て行け! ずっと、訴え続けた。


 その人たちは出て行きたくないような事を言っていたが、聞く耳は持たない。ひたすら、出て行けと叫び続けた。次第にその人たちは表情を悪くする。それは私に訴えられたからか、それとも感染が重くなったからか。


 頑なに動かなかった人たちだったけど、一人……また一人と立ち上がった。


「感染したから……出て行くよ」


 まだ正気を保ったままでゾンビが蔓延る中に行かなくてはいけない。最後まで穏やかに生きていきたかっただろうが、他のみんなは問答無用でホームを出された。だから、この人たちも同じように出て行けばいいんだ。


 みんな悲痛な表情をしながら、ホームを出て行く。出入口に集まった人たちは手に武器を持って、ホームから出て行った。その目が恐怖で染まっていたとしても、私には関係ない。


 感染者全員、ホームの外に出た。バリケードを挟んだ向こう側で何とも言えない目でみんなが私を見ていた。だから、言ってやる。


「早くここから離れて! みんなと同じことをして!」


 近くにいてゾンビになられたら面倒だ。そんな理由で今までの人はホームの近くにいることは許されず、すぐに離れることを強要されていた。だから、同じことをする。


 しばらく悲しい目で見ていたけど、一人また一人とホームの出入口から離れていく。しばらくすると、ホームの出入口には人がいなくなった。とうとう、ホームには私一人だ。


 もう誰も信じられない。平気で人を虐げるし、優しさは嘘だったし、約束は守らない。そんな他人と一緒になんか生きていけない。だから、これからは一人で生きていくんだ。


 そして、今の私ができた。

お読みいただきありがとうございます!

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